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SHADOW HUNTER  作者: 狼月
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第31話【暗闇スクランブル(5)】

 狭い玄関の壁に肩を預ける。

 どうやって居候しているこの家までたどり着いたかはあまり覚えていない。魔術師が去った後ミランダさんと別れ、キョーコちゃんに連れられて歩いたのは覚えている。そこから思い出そう。


 迷子はすぐに解消された。俺の感覚は真実を捉えていたのだとミランダさんは語っていた。ミランダさんが仮定したようにメビウスの輪があの魔術師によって発動されていたらしい。彼の存在が露呈した今なら、間違いなく断言できるとも言っていた。

 彼の術は高度なもの――結界は侵入するとたいていは気付くのだが、彼の結界はそれすら感じさせないくらい緻密に構成させている。水と空気の境界は知覚することができるように、結界の内と外の関係にも知覚できる部分があるとのこと。その常識を破る結界が広範囲に渡って展開されていたとなると恐ろしいそうだ。しかし、俺には事の重大さがてんで分からない。

 結界が解かれると脱出は簡単。もともと迷うような場所ではなかったようだ。

 背中の傷はもちろんのこと、蹴られた胸もキシキシと痛むし、雨を吸って重くなった服が纏わり付いて歩きにくい。どの道を通ったのかはやっぱり忘却の淵だが、動いた分の疲労は確実に蓄積されている。


「おかえり。はい、タオル」


 壁にもたれ掛かっていると、レイがタオルを持って出迎えてくれた。ホント、面倒見がいい。ずっと待っていたのか?


「その様子から察するに、厄介事に巻き込まれたと見える。お使いに行かせたのに肝心の荷物が無いのではな……。腹ぺこで待たされたこちらの身にもなれ」


 あ……。どこで忘れたのか、買った荷物が手元に無い。抗議する気力も使い果たしてしまっていて、何をするにも億劫だ。怒られるだけ怒られよう。


「悪戯した子供みたいな顔しないで。何も叱ろうなんて思ってない。お腹空いて怒りたい気分ではあるけど」

「なら怒ればいいだろ」

「怒っても仕方ないじゃないか。逆にもっとお腹が空く。今夜は大人しく非常食のカンパンでもかじろうか」


 レイって大人なんだな……。俺も彰を始めとした同年代の人間も、非のある者を責めてしまうだろう。無益だからと言えれば極端な話、戦争だって無くなる。ミランダさんの武器を見れば、この世界にも戦いという概念が存在しているのが分かる。『異世界の人間だから』では片付けられない器のでかさを感じる。


「レイって大人らしいな」

「君と歳は変わらないよ」


 そういうことが言いたいんじゃない。すごいって褒めてやりたいんだ。でも、何か気恥ずかくもあるし、本人は気にしていないから言うのは気が引ける。


「何か言いたそうだな」

「なんでもねーよ!」


 恥ずかしいとつい声が大きくなる。多分人間の条理だ。


「ふーん。じゃ、ローカを呼んでくる。君達を迎えに行かせて帰ってきてないんだ」


 そう言ってレイは玄関を出ていく。前に呼び出したようにローカを呼び戻すのだ。フーカちゃんは風を、ローカは炎をともなって出現するから、ある程度の広さが必要なのだろう。

 案の定、地面や降ってくる雨をジュウジュウ蒸発させてローカの生意気な声が聞こえ始めた。


「なんだ、ムラマサは勝手に帰ってきやがったのか。迎えに行った意味ねーじゃんかよ。俺だって昼メシ食わねーで駆けずり回ったってのに。あー腹減った! あれ? 夜に自分の足で帰ってくるのは初めてじゃね?」


 口を開けば言いたい放題。昼以来だが相変わらずだ。今のローカの顔は見なくても分かる。絶対にニタニタしているはずだ。ムカつくけど、オレだって疲れてんだ。


「無駄口叩いてないで、ローカ。あんたはお風呂で体を温めてきなさい。君はよくタオルで乾かして。さすがにお風呂は怪我がひどくなるもの」

「やっぱ風呂か。嫌いなんだけどなぁ」

「風邪引かれても迷惑だから。菌をばらまく気?」


 へーいとローカは生返事をして、目に見えて嫌々階段を上っていく。

 なんとか今回も帰って来れたんだ。こんな異世界という非日常が段々とオレの日常になっていく。

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