第3話【夜は明けて】
スパークするたびに視界が白んでいく。瞬きは明度を増していき、辺りの質感はどんどん希薄になる。体内時制は緩やかに減速、密に――外の一秒は内の一分に匹敵する。
全身の電気信号は意識を活かし、背中の焼き鏝じみた切り傷は心を殺す。
霞む視界にぼんやり人影が映った。
駄目だ。来ちゃいけない。あんな化け物、手に負えるはずがない。
「バクジョウ“フーカ”」
折れかけた心に凛と鈴の音が波打つ。
廾げな淡い緑の光が揺らいだ気がして、灯はふっと消えた。それと同時に白んだ視界はブツッと断線した。
◇◇◇
再び光が目に映った。肌に付く感触は柔らかいベット。
「……なんだ。夢か」
やけに強張る体を起こしつつ、まだ残る緊張の余韻に浸る。周囲はやけに暗い。昨日はカーテンを閉めきったのだろうか。記憶が曖昧だ。
「ご機嫌よう」
「―――!」
居るはずのない人間の存在に言葉も出ない。オレの部屋…で?
陰湿な声は隣からした。そこには足を組み、マグカップを手にした少年の姿があった。
墨を流したような綺麗な黒髪をテキトーにまとめている。洒落っ気の無さが暗い印象を与えた。
「落ち着け。誰も君を贄にしようなんて思わない」
彼は挙動不振に陥ったオレ目掛けて冷めた声を浴びせる。冷水じみた口調と贄なんて物騒な詞は思いの外 効いた。
「ふう……。いろいろと訊きたい事がある。答えてくれ」
訊かれた事は名前とか、年齢とか、懸賞に応募するときに必要そうな個人情報だった。
「……住所不定の士官学校生か」
「住所不定? さっき答えただろ」
「さっきの地名はこの国には無い。なら住所不定と大差ないだろう。君をしかるべき場所に連れていくから準備をしてくれ」
そう言って彼は薄暗い室内から退室していった。
「勝手な奴……」
「早くしろ」
思わず「はい」と、上擦った声が喉を締めた。ホント勝手な奴。