第26話【とらぶるすくらんぶる(5)】
「ねえねえ、レイとは上手くやってる? シャドーハンターの仕事には慣れた? 異世界の食事は口に合う? 新しい服だね、買ったの?」
「そんな一回で早口に訊かないで下さい。答えられません」
「それもそうだね」
会うこと数分。ミランダ節は炸裂し、質問の嵐が将人を見舞った。路地の一角に座り込んで話しをする一幕。
「はぁ……。ミランダさんの相手をすると疲れます」
「そう? よく言われるよ♪」
「楽しそうに言うのもどうかと」
将人の基準でもワルツの基準でも、ミランダは美人だ。毎年行われる、都市の美女を決めるコンテスト、『ミス・ワルツ』で入選するほど、美貌は広く他人に認められている。また、若くして市長になるほど能力もある。才色兼備を絵に描いたような人間だ。
「レイと上手くやってるか、でしたね。それなりに仲良くしてますよ。結構、面倒見が良いやつだから、付き合い易いです」
「足手まといにはなってない?」
「まぁ、多分」
「命懸けの仕事だからね。生き延びてれば帳尻が付いてるって証拠。斡旋した身としては生きていてくれてよかったよ」
すっくとミランダは立ち上がる。長袖のTシャツにデニムの短いパンツという軽装。それに対称的に腰まで伸ばした髪に見え隠れする、鈍く光る拳銃。腰でクロスするように携帯された二丁と、右大腿部のホルスターに女性には大型過ぎる一丁、左大腿部にハンディサイズのものが一丁と、さりげなく重装備だ。
「ミランダさん、それは?」
「ん? ああ、私もハンターでさ。これは商売道具ってやつ」
不似合いで不気味な笑みを浮かべて、交差させた拳銃を将人に向ける。その目は獲物を狙う目。残忍で狡猾な狼が持ち得る、獣の瞳。牙を向けられて何も感じない程、将人は間抜けていなかった。ここのところ、シャドーと修羅場が続いていたため嫌でも危機察知能力が上がったらしい。
「……怖いですよ」
「こうやって初対面のクナと睨み合ったものだ。あいつも怖いとか言ってた」
「ミランダさんはこちら基準でもかなりの美人です。そんなサディスティックな目で見られたら、知り合いが狂喜乱舞します」
将人の言う知り合いとは、明るくて馬鹿な彰のことだ。大道芸人志望の野口とは上手くいっているだろうかと、将人はふと思った。
「知り合いは良い趣味してるね」
「ええ、まぁ。見ているのは飽きない人です。そういえば、クナって誰ですか?」
「クナハト=ギンガーよ。この前、会ったでしょ。あれあれ、ワードラゴン。走竜族とか言うらしいけど」
将人は息を撫で下ろした。他人のことを考える余裕が生まれたのは、拳銃が下ろされたから。
どちらともなく歩きだす。もしかしたらキョーコが立ち上がったから、一行は進む気になったのかもしれない。
キョーコは相変わらず口を挟まないが、空気に合わせてリアクションはある。将人が銃口を向けられた時は、人知れず緊張していた。彼女が物を口に運ぶ以外に口を開くのはまた別の話。