第24話【とらぶるすくらんぶる(3)】
何杯目か分からないコーヒーをすすっているレイに一声かけて、オレとキョーコちゃんは街へとくり出した。まだ治まらない背中を始めとした体中の痛みに辟易しつつ、ゆっくりと歩を進める。
ローカは恥にまみれてちゃんと仕事をしているだろうかと、不安が脳裏をよぎったが、放っておいても間違いは無いだろう。二人ともまだ幼いが、しっかりしている。
昼前の街はやはり活気でいっぱいだ。同じような出店形式の商店が軒を連ねて、店員は威勢の良い声を張り上げる。売られているものは野菜からアクセサリーまで多種多様だが、売る人はみな一様に魚市場の店主のようだ。
「相変わらず、すごい活気だね」
キョーコちゃんはコクンと頷く。それ以外に反応らしい反応はない。
なんか苦手だな。話し掛けると目に見える反応はあるものの、会話にならない。賑やかを好むタチではないのだが、気まずい沈黙の雰囲気は嫌いだ。野に放てばいつまでも喋り続けそうなあの二人が比較対象になり、大人しいこの子は印象がどうしても暗い。悪い子ではないんだがな。
「お財布はキョーコちゃんが持ってるんだよね?」
沈黙に堪えられなくなって、至極当然な事を訊いてしまう。そしてやはり、頷くだけのキョーコちゃん。はぁ、彰の社交性というスキルがうらやましい。
そういえば、彰ともう四日も会っていないのか。学校で毎日のように会っていたから、少し違和感がある。彰のことだから心配はしないだろう。心配と言えば、親は心配しているだろうな。
ふと、キョーコちゃんに袖を引っ張られる。
「ん、なんだい?」
返事は無い。しかし、指差す方には野菜屋が一軒。ああ、さっさと買い出しを済ませて帰ろうってか。
背中の件もあってもたもたしていると、キョーコちゃんががっちりと腕を組む形で引っ張った。意外にぐいぐいと力強い。
「はいはい。そんなに急がないで」
これにもやはり頷いて答える。自然と握られる手を握り返して野菜屋に向かう。
「あ、銀色の。今日は緑色の女の子は一緒じゃないんですか?」
愛想の良い声の店主はキョーコちゃんを見知っているらしい。緑色の女の子はフーカちゃんで決まりだ。もしかして常連だったりする?
「たぶん、その子は今日は休み。代わりにオレ達が買い出しにね」
代弁するオレ。恥ずかしがり屋のキョーコちゃんでは店で注文するのは難しいだろう。オレの言い分にコクコクと頷く。
買い物はそつが無く終わる。キョーコちゃんが指差した商品をオレが注文する要領で、店主とやり取りをいくつか。服を買う時は会計をローカに任せていたので、ここで通貨は“タイ”と言うことを知った。紙幣じゃなくて硬貨が主流のようだ。
「毎度ありがとうございました」
商いが終わる決まり文句は共通。それを聞いてから、キョーコちゃんが取り出した袋で買ったものを持ち運ぶ。
「帰ろうか」
重たい体に言い聞かせるように促して帰路に着く。あれ、帰り道はどれ?