第23話【とらぶるすくらんぶる(2)】
「もう、やめてよ。ちゃんとしてよね」
「だー、うるせっ! 俺にはこれで精一杯なんだよ!」
食事はキョーコちゃんの功労のおかげで、余り物を使い何とか無事に終わった。背中がずきずきと痛むので、しばしの休憩を取ろうと二階を通り掛かった時、フーカちゃんとローカのやり取りが聞こえた。一体、何をやってるんだと疑問に思い、ドアをノックしても返事は無い。ただ、やり取りは依然として続いている。
「何してんだ二人と……も?」
いくら待っても返事が無いので、ドアを開けると唖然としてしまった。顔を真っ赤にしたローカと、弱々しく裸になっているフーカちゃんがそこにいた。
「し、失礼しました!」
急速に回転を始めた脳がドアを閉めろと命令した。空回りした思考のせいで声が上擦る。
「ば、馬鹿! 勘違いすんじゃねー!」
ローカが叫ぶ。こいつもこいつで気が動転してやがる。証拠に声がとんでもなく裏返っている。
呼吸が落ち着くのを待って、気持ちの整理を付けたいところだ。自分なりの整理法は自問自答。
ローカがフーカちゃんを襲っていた? いやいや、あのシーンを回想すると、ローカの手にはタオルが握られていたし、お湯を張った銀のたらいもあった。なんだ、結論出たじゃん。
「ローカがね、体を拭いてくれるって」
「フ、フーの言う通りなんだ!」
声まで弱々しいが、彼女は状況を説明する。それに激しく同調するローカの構図。
「キ、キョーコのやつ、今、食器洗うので手一杯だろ? だから俺が――」
「――だから俺が隙を突いて、フーカちゃんを襲ったと。いやらしいんだな、ローカって」
「違うわボケナス!!!」
頭の回転が平常値まで回復したので、いつもの意地悪な心がはたらいた。でも、ホントにテンパってるみたいだから、これ以上からかうのは止しておこう。
「分かってるよ。フーカちゃん、汗かいてたんだろ? だからお風呂の代わりに拭いてやってたと」
「そ、そうだ。その通りだ」
風邪引いた時とかによくやることだ。
「でも、ローカが手加減できなくて。強すぎて痛いし、弱すぎてくすぐったいの」
ドア越しの会話だから表情は分からないが、フーカちゃんもローカも困った様子だ。もしかして、監督フーカちゃんは暗に代打将人を示唆しているのか? 見えざるサインは無視の方向で……。
「ローカ、後は任せたぞ。オレはキョーコちゃんと買い出しに行ってくるから。しっかり看病しろよ」
「マジでか!? 生き地獄に俺を残して行くのか!? 冗談きついぜ」
「さっさとしろ。フーカちゃんに風邪を引かせる気か?」
では、さらばだ憎き戦友。オレはおまえの骸を越えて行く。そんな気分。
一応、レイの診断だとフーカちゃんは過労とのこと。今日はゆっくり休んでもらおうか。
「…………」
急に隣に現れたキョーコちゃんが服の袖を引っ張って存在をアピールした。表には出さなかったが、内心では驚いている。気配無いな、この子。
「お昼と夜の分、買い出しに行こうか」
言葉は無い。しかし、返事にコクッと頷いた。