第22話【とらぶるすくらんぶる(1)】
窓から日が差し込み、目を覚ますと首が痛かった。俯せに寝ていれば当然か。起き上がり、首をパキポキと鳴らしてリラックスするよう努める。背中も熱を持ってずきずきと痛い。
「起きたか。話しがしたいんだが、大丈夫かな?」
マグカップを傾けたレイが珍しく声をかけてきていた。いつもオレから話題を振っていたか、指示がある時だけ、声をかけていた気がする。
テーブルにあるポットには、黒色の液体が湯気を立たせている。ここは異世界なので警戒が必要だが、何のことは無い、匂いからしてコーヒーだ。
「ん、大丈夫。オレもコーヒーもらっていいか?」
「ああ。それにしても、異世界人もコーヒーを飲むんだな」
レイと同じことを考えていたので苦笑する。食器棚からマグカップを取り出し、ポットからコーヒーを注いでくれた。手慣れたものだ。
「ありがと。で、話しって何?」
「何から話したら良いものか迷うな。口下手というのも存外、厄介だ」
レイが話題で迷うのを初めて見る訳じゃない。だからと言って定番でもないが、今日はキョーコちゃんもいないので話しが進まない。コーヒーもあるし、ゆっくりと聞くことにした。
「そうだな……。君が倒れたのは、フーカが原因ということを話しておこう」
うーんうーんとひとしきり悩んだ後、レイは語り始める。朧げな記憶だと、帰りに糸がどうのと言われたような……。
「それで?」
「それでだな、糸がほつれて君の傷が開いてしまったから、倒れたと思われる。特に大きい背中の傷はどうしようもなくて、包帯を巻いているだけだ」
「医者に診せるとかって……、怪我を縫う医者はいないんだったな」
「その通りだ。でも、鎮痛剤くらいなら処方してくれる」
「……要らないな。異世界の薬なんて、何があるか分からなくて怖いから」
「そうか。ああ、フーカの具合がよくなったらまた縫ってもらえるから、我慢してくれ」
「了解」
あらかた話し終わると、二人してコーヒーを仰いで一息付いく。腹減ったな。
するとドタドタと音を立ててローカが階段を下りてきた。
「あ、ムラマサは起きたのか。フーはまだ寝てるってのに、がさつな身体してんだな」
「そういうおまえも元気そうだな」
「そうでもねえよ。怠くってしゃーねー。で、誰が買い出ししたりすんだ? 家事の大半はフーが担当してたから、穴は結構でかいぜ」
「レイ、どうするんだ?」
「…………」
おい、黙って合わせた目を逸らすな。オレは怪我人だし、ローカは病み上がりだし、残ってるのはキョーコちゃんとレイだけだぞ。
「はぁ……。俺、フーの看病代わってくらぁ。キョーコなら何とかしてくれんだろ」
なんか、そこはかとなく不安でしょうがないんだが……。フーカちゃんの役割は重要のようだ。