第20話【異世界、三日目(5)】
タスッタスッという蹄の音が近付いてくる。建物を背にして、路地から決死の待ち伏せ作戦を決行した。手には重過ぎる剣と盾。
おそらくシャドーは可能な限り距離を保って襲ってくる。一発目で発覚した射程100メートル前後という驚異の事実。約20メートルしかない道幅は完全に射程内だ。取られるであろう間合いをぎりぎりまで詰め、息を飲む。
案の定、シャドーは通りの反対端から姿を現した。シャドーを目に入れると同時にダッシュで距離を詰める。だが、いかんせん装備の重量があるため、鈍重な動きを強いられる。
シャドーが流麗な動作で矢を番え、発射する。オレは盾に身を隠し、接近し続ける。
矢の閃きが盾と交差し、火花が散る。反射的に足を止めてしまった。構えなければ盾ごと吹っ飛んでいきそうなくらいの衝撃が走る。
「まだまだ!」
怯んでいる暇は無い。残りの距離をさらに詰める。シャドーが次の矢を番えて的を絞った。
させるものか! 心の中で叫び、盾を捨てて一気に加速する。脇構えから剣を振り上げた。ザクッと刃が突き刺さる。しかし刺さったのは弓を持った太い腕のため、ダメージは見込めない。
引き抜く隙すら惜しい。剣も捨てて、放置した盾に飛び付く。盾を構えた直後、また衝撃が走った。ぎりぎりで間に合ったようだ。
腕に剣を刺したまま、通算4本目の矢を番える。攻めの手を失ったオレは、守りに徹するしかない。またまた衝撃が来る。
そして、しばらく盾に身を隠していたが5本目が来ない。
「マサトちゃん、早く!」
言われて気付いたのか、目にして確信したのか、シャドーは風の鎖に拘束されている。だが、縛る力は弱々しく、完全に動きを封じるには至らない。
再三の接近。シャドーの腕に刺さっている剣を抜き、体を旋回させながら横に振りかぶる。いくらかの抵抗を受けるも振り抜くと、ゴトリとシャドーの首が落ちる。かくして、ここに閉幕を告げる鐘の音が響いた。時刻は8時半を回った。
「ふう……。死ぬかと思った」
剣を放り投げると、安堵に腰が抜けて地面に倒れ込む。こんなに緊張したのはいつぶりだろうか。いや、二日ぶりだ。
「最後はありがとうな、フーカちゃん」
瞼を閉じて勝利に酔う。えへへ、という照れ笑いとトサッと軽い物が落ちる音もした。目だけをやると、視界にフーカちゃんがいない。あれ?
「あたしも……疲れちゃって、立てないよ」
息を切らした声だけが聞こえる。ああ、なんだ、倒れただけか。でも、だんだんと呼吸の音が遠くなる。あれれ?
「…サト! マサ…! しっ…りしろ!」
とぎれとぎれに呼ぶ声がする。それすらも遠い。なんか、内側のものが流れ出ていくようで、暖かいぬかるみにいる感じがする。ぴちゃん、ぴちゃんと液体の滴る音だけが聞こえる。あれれれ。
そして次第に意識が暗闇に落ちていった。