第19話【異世界、三日目(4)】
「それでどうしようか。自衛するとは言ったものの、丸腰であんなのと対峙する自信無いよ」
直線距離100メートルくらいのところにシャドーが一体。サジタリウス(射手座)を連想させる弓と、馬のような体。遠くとも視線が合っているのが分かる。
「遠いな。形からすると射手のようだ。そうなると、近寄れれば勝機があるさ」
レイが分析する。考えれば分かる事だが、敢えて距離を置き、見るからに射手となれば、戦法がおのずと決まる。接近して攻撃だ。
「時に、君は弓か銃の心得はあるかな?」
「無いな。あるとしたら剣だ」
「そうか。なら、剣であれを倒せる自信は?」
「どうだろう。剣道だから、化け物相手は想定してない。それにオレ達、剣なんて持ってないだろ」
何故こんな事を訊くのだろう。シャドーに対する術なんて、無いのは知っているはずなのに。オレが弓か銃を使えれば、相手の土俵に立つことができるのに、という意図は分かった。
じりじりと接近していく。するとシャドーは矢を番えて標的を定めるではないか。
「フーカ!!」
「はい!」
緊迫した空気が立ち込める。狙いは先頭にいたオレ。この距離でシャドーは一撃必殺の攻撃を放った。放たれた矢は無音で空を切り裂き、的を違えず、迫る。動く隙など与えられないほどのスピード。
対して、フーカちゃんはオレ達を中心に竜巻を発生させる。矢は横凪ぎの暴風に突入すると僅かに逸れて後方の地面に突き刺さった。石畳が爆ぜる程の威力があった。
「ふぅ……。あれ、当たったら即死だね」
フーカちゃんが息を漏らす。明るい声でとんでもない事を言うものだ。
「のんきに感想述べてないで逃げるぞ。戦略的撤退。あんなの、次は絶対当たるから!」
「同感だ。あの距離で、あの威力で、あの精度で……。狙われたら堪ったものじゃない」
直感的な判断だが、レイが賛同してくれる。射手は風を読むはずだ。そうでなければ、離れたところの的に当たる訳が無い。あれは嵐でさえ的を違わない、一流の名射手だと肌で感じる。
竜巻が弱まったのを見計らってオレはフーカちゃんを、レイはキョーコちゃんを連れて、右側の路地に入る。もといた通りには何故かファンキーな顔をしたタヌキの焼き物が置かれていた。
焼き物を見ていた次の瞬間、黒い一閃が焼き物の首を砕いて通り過ぎた。
「あれは?」
「キョーコに急ごしらえで出してもらった身代わりだ」
どこから出したとかを考える暇はなかった。タスッタスッと石畳を蹄が踏み締める音が鳴り響く。シャドーが追ってきた音だ。
「どうする?」
「キョーコに武器を出してもらおう。説明は後回しだ」
思わずひそひそ声になる。レイが何を考えているか読めないが賛成するしかあるまい。
「キョーコ、剣と盾出せる?」
「…………」
レイの問いにキョーコちゃんは無言で頷いた。すると気付いた時には剣と盾が現れていた。形状は両刃の西洋剣とタワーシールド。攻めと守りにはうってつけだが、残念ながら重く機動性に乏しい。
「私は重過ぎて武具は使えない」
ああ、オレが持つのか。しょうがない。腹を括ろう。