第17話【異世界、三日目(2)】
街の往来は相変わらず多い。夜間の活動ができない故の活気かもしれないと、独り思う。
街を一刀両断する大河、さらに大河に対して直交する大通り。その地理によって生まれる4つの区画。通りに面した南東の区画にオレが居候している家がある。
「服はどこで売ってるかな」
今はその家から2、3区くらい西に行ったところにいる。商店の集中しているところで、出店形式の店が多い。
「ここはワルツに出稼ぎに来る商人が多い区だ。河からもそれなりの距離だしな。浮浪者も多いからスリには注意だぜ」
ローカは財布を玩具にしながら説明する。オレの付き人に抜擢されたローカは不満げだが、楽しんでもいる雰囲気。抜擢された理由も理由で、一番暇を持て余していたからだ。炊事洗濯と忙しいフーカちゃんはもちろん無理で、口数の少ないキョーコちゃんはもうすぐ集荷の人形を作る手伝いをしている。
「スリが多いとか言っておきながら、そんなことしてるなんて、信じらんないな」
「下手に隠したり、しまったりするから盗まれんの。手に持ってりゃ盗まれた瞬間、気付くって。盗っ人は火だるま確定だしな」
クケケと笑って一理を語る。発火現象を操る彼にとって火だるまなど造作も無いのだ。
「放火魔一歩手間のおまえがいつも恐ろしいよ」
「へへん。ホメコトバととっておこう」
全然褒め言葉じゃない、と心で舌打ちしながら歩を進める。もう少し行くと大河に出ると思った頃に、やっと服屋らしき店を発見した。
数十分して店を出る。必要な物は決まっていたし、服装に頓着しない質なので動きやすく地味目ならなんでもよかった。買ったのは数着のトレーナーやパンツ、下着。
「うへぇ……。こんな地味なの着たくねえ」
「頭の先から真っ赤っ赤なおまえがどうかしてるって」
「これは地毛だ」
等とやり取りをする。我ながらファッションセンスが地味だとは思うが、ローカのように燃え上がる赤を基調とした服装もどうかと思う。
「へええ。これが地毛ねえ。羨ましいよ、お兄さん」
「あんた誰?」
後ろから突如として会話に乱入してきたのは背の高い男性。ニカニカ笑っていて、革ジャンにサングラスが目立つ。怪しさがむんむん漂うこの男を二人してジト目で睨んでしまった。
「いやぁ、ただの通りすがり。お兄さん、見ての通り黒っぽい髪でね。うん、羨ましい赤毛」
「二回も言うとしつこいぜ、オッサン」
「あ、それよく言われる」
「見るからにオッサンだもんな」
「オッサンは言われないな、お兄さん」
飄げた様子の髪を気にした自称お兄さん。見た目は若そうだが、胡散臭い。そう言う本人の髪は短く刈り上げている。
「じゃ、またな、少年達。この場は助かった」
意味ありげな言葉を残して、片手を振って男は去る。人通りが多いためか、すぐに人ゴミに消えていった。オレとローカは釈然としないまま、家に帰る。途中、あの男のように絡まれる事はなかった。
そして男の言葉の真意を知ることになるのは、家に着いてからのローカの一言からだった。
「あーーー! 財布の中身がなーーい!! これの事かあのクソジジイ!!! 今度会ったら火だるまにしてやるー!!!!」
力の限り叫ぶローカをレイが目線で窘める。レイは眼鏡をかけ、やはり黙々と裁縫に励んでいた。てか、オッサンからクソジジイに降格か、あの人。
一体いつの間にと思う反面、あの人ならやりかねないと思ってしまう。
「そんなに印象に残る盗みがある訳ないだろう。多分、借りて返さないだけだ」
いやそれ、やってること一緒ですよ、レイさん。なんか以外と平然としているものだ。
その日、声を嗄らすほど絶叫して、不調になったローカであった。