第15話【ハント開始(5)】
直径2メートルを超える規格外の火球がシャドーに向かって落下する。ファイヤーボールと名付けられたそれは火の粉を振り撒き、石畳を焼き焦がす。真っ黒なシャドーは渦中の中、紅に染まり見えなくなった。
「で、俺がやっつけたの何? ネズミとかだったらマジ気張った意味無いんすけど」
ローカはお道化たようすで、ぺらぺらしゃべる。口ぶりから、『相手が何であれ、この大火球で焼き殺す』と決めていたようだ。回りの被害が眼中に無いのは危険でいて恐ろしい。そして、レイはネズミ退治にあんなモノを放たせるのか? 答えの代わりにレイが咳ばらいした。
「ちゃんとシャドーに命中してるけど、ネズミも巻き込んでるかもな」
少し意地悪くオレは言ってみた。相性というやつで、どうもオレはローカをからかいたい気質にある。視線がバチバチと音を起ててぶつかり合う。
「さっきまでうろたえていた君が、よく言ったものだ。その心変わる様子は賞賛に価するよ」
オレよりももっと意地悪い態度で、レイは控え目に笑っていた。その一言は余計だ。ローカを増長させる。案の定、ローカはニタニタとオレを見ていた。
「別に、俺笑わねえしー。ブルッてるお前見ても面白くねえしー」
『オレ=ローカ<レイ』がいじられる図式。間延びした声がカンに障る。笑わないと言っていながら、口に手を当ててさも笑いを堪えるジェスチャーがさらにムカついた。
五回目の咆哮が会話を割る。あの業火にあってなお、ドワーフ型シャドーは生きていたのだ。しかし、咆哮にさっきまでの力は無かった。
死に体を押してシャドーは突進のモーションに入る。それに対してオレは避けようと身構えた。
「そんな身構えなくてもいいぜ。生体に火ってのは、毒みたいに後から来るもんだ」
勝者の余裕というやつで、ローカは胸を張っていた。それでも普通、万が一に備えるべきだろう。
こちらまで残り五歩のところでシャドーは膝を付いた。見れば、シャドーの左足の部分はもげていた。芯まで炭化した足が自重に耐えられなくなっていたのだ。
「今度はもっとマシな生き物に生まれ変われよ。これがせめてもの慈悲だ」
ローカはそう言って槍に成形した炎を投げ放つ。槍がシャドーに突き刺さると、黒い巨躯はさらさらと粒子に変わっていった。路面は黒く、最後の突進までくっきり残っている。
「帰るか」
誰が言い出したかはわからない。オレは疲労した体を引きずって帰った。皆が歩を合わせてくれる。
霧はいつの間にか晴れていた。