第10話【昼のワルツ(7)】
昼食はいたって普通だった。平たい皿には食のバランスがとれた料理。見慣れた野菜の入った、スープもついていた。もっとグロテスクな物が来てもいいと覚悟はしていたが、少し拍子抜けだ。気になったことと言えば、いただきますが無いことか。
「カトリックじゃないけど、食べ物に感謝って無いの?」
「うむ、無い。言いたければ心の中で唱えても構わないがな」
そうなのか、レイ。それはちと寂しい気もするぞ。というかカトリックって存在するのだろうか。
「キリスト様の教えでしょ。あるよー。でもこの地方は無宗教だから関係ないの」
訊くと元気に答えてくれたフーカちゃん。彼女は今の所、唯一の癒しでもある。
だいたいは日本と変わらないようだ。文字はハングルとアルファベットを足して2で割った感じだが、会話はできる。例のワードラゴンの境遇よりすごくマシらしい。言葉覚えるの大変だったろうな。あの言い分だとオレに対するレイのように、ミランダさんがついてやったんだろう。美人が相方か、少しうらやましいような。
「何にやけてるドスケベ」
む、顔に出てしまったようだ。彰みたいな変人じゃないんだからしっかりしなくては。それにしてもムカつくガキだ、ローカって奴は。
昼食後のティータイム。フーカちゃんが一生懸命いれてくれたミルクティーを飲み、シャドーハンターについて訊いてみた。
「シャドーハンターって何? 追い追い話すとか言ってたけど、早いに越したことはないだろ」
「ん? あ、ああ。そうだな。さて、何から話したら良いものか」
判断に困ったらしく手を顎につけた。フーカちゃんはせっせとお茶をいれ、イライラするローカに、一言も喋らないキョーコちゃん。と、キョーコちゃんがレイの耳元に近寄り、ひそひそと耳打ちした。
「なんだ、オレに聞かれちゃまずいことでもあるのか」
「いや、この子は極度の恥ずかしがり屋でね。人見知りが激しい上にちっちゃい声しか出せないの。でも女の子の秘め事を訊くとはデリカシーの無い男だね、君は」
「で、なんなんだよ」
にやにやしながら彼はデリカシーが無いと断言する。確かに持ち合わせていないのでせめて会話で押し切ろうとした。
「キョーコからの提案は、先ずはシャドーについて知ってもらうこと。君は会ったよね、もうすでに」
シャドー。ああ、あの真っ黒い切り絵の化け物か。そこらへんは朧げだが、まあ覚えている。出くわして、攻撃されて、気を失って……。気絶する前に誰かが来た気もするがどうだろう。そしてその後はどうなったんだろう。
「ところでオレを救助したのはレイ?」
「いかにも。連れて帰って手当てして大変だったんだぞ」
「そっか。それはありがとうな」
なるほど。で、時計塔もとい市役所に連れていって今にいたると。医者はどうしたとか、シャドーはどうやって倒したとか、疑問は沢山あるが順序だてていこうか。
「あんな奴と戦うのか。具体的にオレがしなきゃならない事ってある?」
「特に何も。強いて言うなら囮役? 偵察? 一般人を危険に曝す訳にもいくまい」
にこやかに戦力外通達。さらっとひどいことを言う。パートナーにする気はさらさら無いらしい。
確かにオレには化け物と渡り合う術は何も無い。ならこいつには何かがあるのだろう。
「私か? 私も特にやることは無いよ。フーカ達に指示を出しておしまい。見守るくらいか」
ふーん、そうなのか。……え、ちょっと待て。フーカ達に指示を出しておしまい!? それって、フーカちゃん達が戦うってこと!?
「大丈夫。あたし達強いんだよ」
胸を張られても、驚くものは驚く。か弱く幼い女子供が戦うなんてにわかにも信じられない。何を根拠に強さを推し量れというのだ。
「まあ見てろって。今晩 格の違いってやつを見せてやるよ、へなちょこ。俺達は一流のハンターだぜ」
ローカもローカで自信満々。
はぁ……いったいどうなるのやら。