22.対話
前話に加筆修正を行いました。
あとがきでヒールの表記アンケートに関する総評を行っております。今回メチャメチャ長いです。興味のない方は読み飛ばすか、ブラウザバック推奨です。
度々愛莉の名字を誤字報告してくださる方がいらっしゃるのですが、「神埼」は「神崎」の誤字ではなく拙作では「神埼愛莉」が正しいキャラクター名です。ご理解ください。
沈黙が、部屋を支配する。
ジークハルトが菫の言葉を待っていることは分かっていた。だが、どう反応すればいいのか分からなかった。果たしてジークハルトは、成功するかも分からないような不確かなものに全てをかけるような人だっただろうか。もちろん、話が誇張されている可能性がないわけでもない。しかし、王の評判など、調べようと思えばいくらでも調べられる。そんな分かりやすい噓を吐くだろうか。
箝口令を敷いているという可能性もあるが、あれは少人数であれば効果を発揮するが、国民全てに敷くなど現実的ではない。
――ああ、違う。重要なのはそこではない。ジークハルトの変化について後で考える余地はあっても、今菫が取るべき行動とは、無関係なものだ。
「聖女の仕事をしたとして、それが終わったら、私たちは帰れるのですか」
「それは――……」
歯切れの悪い言葉と、まるで苦虫を噛み潰したような表情。それが全てを物語っていた。
「あなたに、言っても仕方のないことかもしれません。私にも、共に来た彼女にも、あちらでの生活がありました」
「……すまない」
「謝ってほしいわけではありません、謝罪を受けたところで、何も変わらないのなら意味がない」
「聖女を見定めたあかつきには、爵位も、土地も、金も名誉も、望むものを与えよう」
ジークハルトの言葉を聞いて、菫は内心、おかしくてたまらなかった。そんなもの、菫にとって、そしておそらく愛莉にとっても、何の意味も為さないことは明白だった。むしろ、それを受け取ったところでこの国に留まる理由として利用されるだろうことは、火を見るより明らかで。それすら分からないと思われていることが可笑しかった。もっとも、みくびってくれていた方が立ち回り易いのは間違いないのだけれど。
「どれも結構です。少なくとも、私は。愛莉――共に来た子の分は、きちんと彼女の意志を尊重してください」
「……分かった。望む通りにしよう」
「大神官、でしたか。その方は、いつ戻るのですか」
「ナダル卿は今、ラグナ地方へ視察に赴いている。戻るには一月……いや、召喚後に知らせを出した。多少早まるだろう」
「ラグナ地方?」
ラグナ地方と聞いて菫の頭に浮かぶのは、美しい湖畔の広がる観光地の風景。
ヴィオレッタの記憶では、王都からそれほど離れていた記憶はない。馬車で向かって通常一週間、往復でも二週間ほど。早馬を使えばもっと短くてもおかしくない。
「ああ。……ここが王都、ラグナはこちらだ」
ジークハルトがテーブルに地図を広げる。その地図は、ヴィオレッタの記憶にあるものと殆ど同じものだった。走り書きがされているが、それはおそらく、業務上必要となるものだろう。
「以前は湖が美しい場所だった。民の気性も穏やかで過ごしやすく、避暑地として人気があった場所だ」
「そう、ですか……」
証言も、ヴィオレッタの知るものと一致する。説明は丁寧で細やか。淀みなく紡がれる言葉に噓が混じっていると、見破るのは難しい。菫も、ヴィオレッタの記憶がなければそういうものかと受け入れてしまっていた。
やはり、ジークハルトは何かを隠している。
ここに至って、菫は愛莉の言葉を思い出した。全てを覆い尽くすような深い闇、それはジークハルトが何かを隠したがっていることと、関係があるのではないか。
「……先代の聖女、という方は、なぜ亡くなったのですか」
「どういう意味だ」
菫を映すジークハルトの目が、すっと細められた。
失敗、したかもしれない。肌で感じる威圧のような何かに、震えそうになる身体を必死に抑え込む。別の世界に連れてこられて、訳も分からず聖女になれと言われた。ならば、先代のことを知りたがるのは不自然ではないはずだ。慎重に言葉を選びながら、ジークハルトの表情を伺う。
「……死因、というか。ああ、いえ……私たちの世界では、例えば、何か大きな災害が起きる時、予兆のようなものがあるんですが……話を聞く限り、大きな被害が出ているんでしょう?それほど力が強かったのなら、何か……原因?のようなものが、あったのではないかな、と」
「……なるほど」
菫の言葉を聞いて、ジークハルトが考える素振りを見せた。
「先代の死因は病によるものだ」
「……病?」
ーーありえない。だって、それは。
「6年前、この国で未知の疫病が流行った。……私は、最期までそれを疫病だと気付くことができず、分かった頃には全てが手遅れになっていた。その病で、民にも、貴族にも……王族にも、多くの犠牲が出た」
また、6年前――
ジークハルトの顔が苦々しく歪む。アマリアの死は、それほどまでにジークハルトの心に傷を遺したのか。ヴィオレッタが死んだあの日――首を落とされたヴィオレッタの姿を見て、ジークハルトはどんな顔をしたのか。
アマリアの喪失は、それほどジークハルトを傷つけ、狂わせたのだろうか。
聖女が病でなくなるなど、ありえないという事実を忘れさせるほどに。
「王族……ご家族、も?」
「ああ。先代国王、王妃――両陛下が相次いで身罷られた」
ヴィオレッタにとって、両陛下はもう一人の父と母のような存在だった。幼い頃に神殿に引き取られたため、ともすれば実の両親よりも長い時間、共に過ごした相手だ。
ヴィオレッタが偽りの聖女だと言われるようになる少し前から国王陛下の体調が思わしくなく、何度か寝所に足を運んで治癒を施したこともある。病の進行が早く、ヴィオレッタの力では病状を留め置くのが精一杯だった。騒動が騒がれるようになってからは、会うことも出来ず、それから最期まで顔を見ることは遂に叶わなかった。だが、そうか。アマリアでも無理だったのか。
この時、菫はこの世界に来て初めて、喪ったことに対する寂しさのようなものを感じていた。
「そう……ですか。嫌なことを聞いて、申し訳ありませんでした」
「いや。……もう過ぎたことだ」
「あの。聖女に関する資料は、何か、ありませんか」
「あるにはあるが……見たいのか」
「可能なら」
「分かった。手配しておこう」
「それから、その、古代魔法……?の、記述があった魔術書、を……見せていただくことは、可能ですか」
断られること前提の願いだった。王家の宝物庫にある代物だ、聖女候補とは言えおいそれと見せられるものでないことは、菫とて分かっていた。
「分かった。だが、宝物庫を開くには王族全員の認可が必要になる。明日になるが構わないか」
「っ!?……いいん、ですか?見ても……」
「自分がここへ来た方法を知りたいと思うのは当たり前のことだろう。無論、見せたからと言ってそれが償いになるとは思っていない」
返ってきた、予想外の言葉に戸惑う。取り繕うことも忘れ、当惑した表情で己を見つめる菫を見て、ジークハルトが薄く笑みを浮かべた。
閲覧ありがとうございました。
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。皆様のおかげでなんと!異世界転移/転生恋愛ランキングにて月間1位になりました!!
本当にありがとうございます。これからもマイペースにエンジョイ重視で頑張ります。
以下、先日行ったアンケートの総評です。興味ない方は読み飛ばすか、ブラウザバック推奨です。
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『ヒールの日本語表記は【回復】?【治癒】?』アンケートにご協力いただきありがとうございました!
実に128名の方がご協力くださいました。ありがとうございます!感想欄にもご意見いただき、重ねて感謝申し上げます。
集計結果は以下の通りになりました。
【回復】32 【治癒】78 【その他】18
終わってみると、【治癒】派が多く、作者としては意外な結果でした。
実はアンケートに自由記入欄を設けており、皆様そこに投票理由も書いてくださって大変興味深く拝読させていただきました。
それぞれ多かったご意見を簡易的にまとめてみました。
【回復】
・ヒール=回復、キュア=治癒
・回復の方が馴染み深い(読みやすい)
・ゲーム表記がそうだから
【治癒】
・聖女っぽい特別感がある(かっこいい)
・回復はゲームっぽいイメージが強い
・他人を治す=治癒、自分を治す=回復
上記以外に、両者共通して候補にリカバリーがあがる、というのも結構見られました。
やはりゲームの影響というのが大きいようです。実は作者はRPGを殆どやったことがなく(FF・DQも未プレイ)キュア(異常回復)の存在をすっっかり失念しておりました。そういう意味でもアンケートを取って本当に良かったなと思っております。
他に個人的に目から鱗だったのが「和英辞書を引いてみたら〜……」というご意見。いや盲点でした…なぜか自分で調べている時点で全くその発想がなく、まさにこの発想はなかったと感心してしまいました。和英辞書買ってきます!!
そして【回復】【治癒】どちらでも一番多かったのがこの小説の雰囲気を考慮して…というものでした。いや皆様私以上に考えてくれているのでは!?とびっくりするくらい色々考えてくださって本当にありがとうございます。これらのご意見参考にしつつ、作者なりに話にあった表現を見つけていけたらな…と改めて思いました。
以下、番外編。
【その他】
・猫…癒やしと言えば猫ですよね!
(ネコチャンは確かにカワイイわかる)
・悪役…ヒール=悪役
(同音異義語ですかそういう発想結構好きです)
・ケアル
(おっとこれはまずいのでは…???)
・ホイミ
(おっとこれはry)
以上になります。長々とお付き合いいただきありがとうございました。
定番文句も一応下に書いておきます。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回更新をお待ちください。




