20.謝罪
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あとがきが長いです(2回目)
罰とは、一体どういうことだろうか。
騎士の背を追い廊下を歩きながらも、菫は先程の少年の言葉が頭から離れずにいた。
意識を取り戻した少年は、水を求め、うわ言のようにそれを口にして、再び意識を失ってしまった。騎士が呼びに来たこともあり、言葉の意味を確かめることも出来ず、侍女にその場を任せて今、こうしてジークハルトのもとへと向かっている。
「お連れしました」
ふと目の前を歩く騎士が足を止めたことに気付いて、菫は顔を上げる。執務室と思わしき一室の前に、一人の男が立っていた。
「ご苦労。下がれ」
くすんだ茶髪に、眼鏡をかけた神経質そうな男が、騎士に下がるよう指示を出す。騎士がそれに抵抗することなく従うところを見るに、男はそれなりの立場にあるのだろう。だが、やはりその男の顔にも見覚えがない。少なくとも、ヴィオレッタが知る王太子だった頃のジークハルトの側近に、こんな男はいなかった。
「何か?」
「……ぁ、いえ……申し訳ありません、不躾に……」
じっと見つめすぎたのか、不意に男と目が合った。低く、どこか不機嫌さを滲ませる声で問われ、慌てて視線を反らす。
「陛下はご多忙です。気まぐれで煩わせるのはお止め頂きたい」
「……」
威圧――否、威嚇、だろうか。
睨めつけるような眼差しを受け、菫はぎゅっと唇を噛み、その視線から逃げるように顔を伏せる。
この世界に喚ばれてから、ジークハルトに対して取った態度はけして褒められるものではない。呼び出されてもそれを拒み、席を設けたかと思えば途中退席。挙げ句、事前の説明もなく子どもを連れ帰り、突然話がしたいともなれば、彼らの目にはさぞ身勝手に映っていることだろう。
でも、それを言うなら、なぜ自分たちを巻き込んだのだ。確かに菫はヴィオレッタの記憶を持って生きてきた。これまでの人生が、必ずしも幸福に満ちていたとは言えないかもしれない。それでも、平穏だった。誰かに罵られることもなければ、命を脅かされることもない。そんな平凡な日常を、菫は確かに愛していた。
――それを一方的に奪ったのは、そちらなのに。
――どうして。
「何をしている?」
込み上げてくる感情のまま、唇を震わせ、言葉を紡ごうとしたその時。扉が開き、執務室からジークハルトが顔を出した。
「入って来ないから何をしているのかと思えば、こんなところで世間話か?」
「はっ……申し訳ありません」
「ヨハン、聖女に憧れる気持ちは分かるが時と場合を考えろ。今日はもう下がれ、このところずっと城に詰めているだろう。たまには帰って家族の顔を見て来い」
「しかし、それでは陛下のお傍にいる者が」
「この細腕で何が出来る?殴られたところで傷一つ出来るものか。近衛を廊下に控えさせる、それで良いだろう」
ジークハルトに腕を引かれ、菫は執務室に足を踏み入れる。ヨハンと呼ばれた男は、それ以上追って来なかった。
「適当に掛けてくれ。……ああ、気になるなら扉を開けておくか」
ちらりと扉に視線を向けると、その視線の意味を察してジークハルトは閉め切ることなく隙間を開けたまま、扉から手を離す。
初めて入った王の執務室は、想像よりも少し散らかっていた。机には書類だろう用紙の山がいくつも積み上げられており、あの男の言う通り、本当に忙しいのだろうと察しがついた。
「……その。突然、申し訳ありませんでした」
「いや、構わない。時間を作らなければと考えていたところだ。本来、こちらから頼むべきことだった」
勝手なことをしたのは菫の方だ。社会人として、アポなし訪問がどれほど迷惑になるのかも知っている。いつでもいいと騎士に伝えはしたが、状況からして、話をしたいと言い出せば優先されるのは簡単に想像出来たはずだ。それを怠ったのは、こちらのミスだろう。
そう考えて謝罪を口にすれば、すぐに受け入れ、否定される。互いに悪いところがあって、互いに反省すべきことがあった。けれどそれを言えるほど親しい間柄ではない。
結局どう返せばいいのか分からず、言葉を選び損ねて口を噤む。驚くほど会話が続かない。気まずい沈黙が流れて、落ち着かず、うろうろと視線を彷徨わせる。
「……子どもを、連れ帰ったそうだな」
「っ……勝手に、申し訳ありませんでした」
「いや。……王都を見て回ったのか」
「……はい。フェリシアーノ様に、案内していただきました」
「そうか。どう思った」
どう、とは。一体、どういう意味だろうか。
ジークハルトの問いの意味が分からず、菫は言葉に詰まる。
「……見たこともない、綺麗な街並みでした」
「他には」
「人も、明るく……いきいきとしていて……」
「他は」
ヴィオレッタの記憶を頭から追い出して、不自然にならないよう、慎重に王都を見た印象を紡ぐ。けれど、そのどれも、ジークハルトの求めた答えではないようだった。
「……私には、こちらの物の価値は、よく、分かりません」
「あぁ」
「ただ……その、少し。物の値段が、高いような、気が、しました」
「そうか……」
ジークハルトが、深く、深く、溜息を吐き出す。はたして、目の前にいる男が何を求めているのか、菫には分からなかった。再び、二人の間に長い沈黙が続く。
「――すまなかった」
沈黙を破り、ジークハルトが、菫の前で深々と頭を下げた。
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ヒールの表記アンケートにご協力いただきまして、ありがとうございます。
自分にはない視点ばかりで、どれも興味深く拝見しております。アンケートの方の途中経過ですが、意外なことに今のところ【治癒】の方が優勢です。
長くなってしまうので、総評はまた後日。
アンケート締め切りました。ご協力ありがとうございました!
今更ながらもしかして感想欄の使い方が違うのでは?と思い至ったのですが、でもこういうのを活動報告でやるのも違う気がして(活動の報告ではないしなぁ)、ウム…という感じです。
色んな意見を聞いて物語が左右されてしまうのでは?と心配してくださる読者様、ありがとうございます。あくまで表記に関するアンケートなので内容は変わりません!ご安心ください。
この話を読んで『おもしろい』『続きが読みたい』『ファイト一発!』と熱い思いを迸らせてくださる皆様、もしよろしければブックマークボタンをポチ!広告の下にある評価もポチポチッ!としていただけると作者に気合が入ります。
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