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20.謝罪

ブックマーク7000件!ありがとうございます!!

あとがきが長いです(2回目)

 罰とは、一体どういうことだろうか。

 騎士の背を追い廊下を歩きながらも、菫は先程の少年の言葉が頭から離れずにいた。


 意識を取り戻した少年は、水を求め、うわ言のようにそれを口にして、再び意識を失ってしまった。騎士が呼びに来たこともあり、言葉の意味を確かめることも出来ず、侍女にその場を任せて今、こうしてジークハルトのもとへと向かっている。


「お連れしました」


 ふと目の前を歩く騎士が足を止めたことに気付いて、菫は顔を上げる。執務室と思わしき一室の前に、一人の男が立っていた。


「ご苦労。下がれ」


 くすんだ茶髪に、眼鏡をかけた神経質そうな男が、騎士に下がるよう指示を出す。騎士がそれに抵抗することなく従うところを見るに、男はそれなりの立場にあるのだろう。だが、やはりその男の顔にも見覚えがない。少なくとも、ヴィオレッタが知る王太子だった頃のジークハルトの側近に、こんな男はいなかった。


「何か?」

「……ぁ、いえ……申し訳ありません、不躾に……」


 じっと見つめすぎたのか、不意に男と目が合った。低く、どこか不機嫌さを滲ませる声で問われ、慌てて視線を反らす。


「陛下はご多忙です。気まぐれで煩わせるのはお止め頂きたい」

「……」


 威圧――否、威嚇、だろうか。

 睨めつけるような眼差しを受け、菫はぎゅっと唇を噛み、その視線から逃げるように顔を伏せる。


 この世界に喚ばれてから、ジークハルトに対して取った態度はけして褒められるものではない。呼び出されてもそれを拒み、席を設けたかと思えば途中退席。挙げ句、事前の説明もなく子どもを連れ帰り、突然話がしたいともなれば、彼らの目にはさぞ身勝手に映っていることだろう。


 でも、それを言うなら、なぜ自分たちを巻き込んだのだ。確かに菫はヴィオレッタの記憶を持って生きてきた。これまでの人生が、必ずしも幸福に満ちていたとは言えないかもしれない。それでも、平穏だった。誰かに罵られることもなければ、命を脅かされることもない。そんな平凡な日常を、菫は確かに愛していた。


 ――それを一方的に奪ったのは、そちらなのに。

 ――どうして。


「何をしている?」


 込み上げてくる感情のまま、唇を震わせ、言葉を紡ごうとしたその時。扉が開き、執務室からジークハルトが顔を出した。


「入って来ないから何をしているのかと思えば、こんなところで世間話か?」

「はっ……申し訳ありません」

「ヨハン、聖女に憧れる気持ちは分かるが時と場合を考えろ。今日はもう下がれ、このところずっと城に詰めているだろう。たまには帰って家族の顔を見て来い」

「しかし、それでは陛下のお傍にいる者が」

「この細腕で何が出来る?殴られたところで傷一つ出来るものか。近衛を廊下に控えさせる、それで良いだろう」


 ジークハルトに腕を引かれ、菫は執務室に足を踏み入れる。ヨハンと呼ばれた男は、それ以上追って来なかった。


「適当に掛けてくれ。……ああ、気になるなら扉を開けておくか」


 ちらりと扉に視線を向けると、その視線の意味を察してジークハルトは閉め切ることなく隙間を開けたまま、扉から手を離す。


 初めて入った王の執務室は、想像よりも少し散らかっていた。机には書類だろう用紙の山がいくつも積み上げられており、あの男の言う通り、本当に忙しいのだろうと察しがついた。


「……その。突然、申し訳ありませんでした」

「いや、構わない。時間を作らなければと考えていたところだ。本来、こちらから頼むべきことだった」


 勝手なことをしたのは菫の方だ。社会人として、アポなし訪問がどれほど迷惑になるのかも知っている。いつでもいいと騎士に伝えはしたが、状況からして、話をしたいと言い出せば優先されるのは簡単に想像出来たはずだ。それを怠ったのは、こちらのミスだろう。


 そう考えて謝罪を口にすれば、すぐに受け入れ、否定される。互いに悪いところがあって、互いに反省すべきことがあった。けれどそれを言えるほど親しい間柄ではない。

 結局どう返せばいいのか分からず、言葉を選び損ねて口を噤む。驚くほど会話が続かない。気まずい沈黙が流れて、落ち着かず、うろうろと視線を彷徨わせる。


「……子どもを、連れ帰ったそうだな」

「っ……勝手に、申し訳ありませんでした」

「いや。……王都を見て回ったのか」

「……はい。フェリシアーノ様に、案内していただきました」

「そうか。どう思った」


 どう、とは。一体、どういう意味だろうか。

 ジークハルトの問いの意味が分からず、菫は言葉に詰まる。


「……見たこともない、綺麗な街並みでした」

「他には」

「人も、明るく……いきいきとしていて……」

「他は」


 ヴィオレッタの記憶を頭から追い出して、不自然にならないよう、慎重に王都を見た印象を紡ぐ。けれど、そのどれも、ジークハルトの求めた答えではないようだった。


「……私には、こちらの物の価値は、よく、分かりません」

「あぁ」

「ただ……その、少し。物の値段が、高いような、気が、しました」

「そうか……」


 ジークハルトが、深く、深く、溜息を吐き出す。はたして、目の前にいる男が何を求めているのか、菫には分からなかった。再び、二人の間に長い沈黙が続く。


「――すまなかった」


 沈黙を破り、ジークハルトが、菫の前で深々と頭を下げた。


閲覧ありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。

以下やはり長いあとがきなので興味がない方はここでブラウザバック推奨です。


ヒールの表記アンケートにご協力いただきまして、ありがとうございます。

自分にはない視点ばかりで、どれも興味深く拝見しております。アンケートの方の途中経過ですが、意外なことに今のところ【治癒】の方が優勢です。

長くなってしまうので、総評はまた後日。

アンケート締め切りました。ご協力ありがとうございました!


今更ながらもしかして感想欄の使い方が違うのでは?と思い至ったのですが、でもこういうのを活動報告でやるのも違う気がして(活動の報告ではないしなぁ)、ウム…という感じです。

色んな意見を聞いて物語が左右されてしまうのでは?と心配してくださる読者様、ありがとうございます。あくまで表記に関するアンケートなので内容は変わりません!ご安心ください。


この話を読んで『おもしろい』『続きが読みたい』『ファイト一発!』と熱い思いを迸らせてくださる皆様、もしよろしければブックマークボタンをポチ!広告の下にある評価もポチポチッ!としていただけると作者に気合が入ります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次回の更新をお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ざまぁ物かと思って読んでいましたがなさそぉな展開・・・無惨に殺されたら恨み募って化けて呪ってもよさげなんですけどね
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