16.街の散策
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弟回(?)です。
どうしてこんなことになっているのだろう。
少し離れた場所ではしゃいでいるフェリシアーノと愛莉を見て、菫は内心で首を捻る。
昨日、部屋にフェリシアーノとエヴァンが訪ねてきてから、ことはとんとん拍子に進んだ。もともと可愛いものが好きな愛莉と、持ち前の愛らしさを惜しみなく発揮しているフェリシアーノは相性が良かったらしい。フェリシアーノとエヴァンが年下だということも警戒心を薄れさせた要因だろう。フェリシアーノと愛莉が意気投合し、愛莉が出掛けたいと言い出すまで、そう時間はかからなかった。
この世界に来てから部屋に籠もりきりだったこともあり、愛莉の気分転換になるのならと菫も拒むことなく提案を受け入れた。
「退屈ですか」
「……いいえ、その、どれも珍しくて」
「気になるものがあれば、遠慮なくお申し付けください」
愛莉とフェリシアーノの傍にはリリアンナが護衛としてついている。三人とも目立たないよう町娘の格好をしているが、如何せん全員容姿が整っているため、周囲からの視線を集め、注目の的になっている。
王都は一見して、ヴィオレッタが知る頃と変わっていないように見えた。行き交う人々で賑わい、商店からは活気のある声が聞こえてくる。施政者の力量は如実に市井に影響を及ぼす。こうして見ると、ジークハルトの治世は順調なように思えた。
菫はと言えば、三人から少し離れたところを、エヴァン――かつての弟――と並び立って歩いていた。様子を伺うように隣を歩くエヴァンを見上げて、目が合って、すぐに逸らす。先程から、それを繰り返してばかりいる。
エヴァンは、ヴィオレッタが神殿に入った後に生まれた弟だ。神殿に入ると、最初の数年は世俗から隔離され、聖女としての心得を教え込まれる。故に、ヴィオレッタが弟の存在を知ったのは、ヴィオレッタが11歳、エヴァンが3歳になった頃のことだった。エヴァンが高熱を出し、公爵家お抱えの治癒士では手に負うことが出来ず、神殿に要請が来た時のこと。公爵家嫡子の治療ということもあり、先代聖女様が治療に赴くことになり、ヴィオレッタもそれに着いて行った。その時初めて、自分に弟が生まれていたことを知ったのだ。
初めてみた弟は、小さくて、ふくふくしていてとても可愛かった。けれどその愛らしい顔は熱で苦しそうに歪んでいて。その姿を見ているだけで苦しくなって、必死で神様に弟を助けて欲しいと祈った。その瞬間、ヴィオレッタとエヴァンが光に包まれて。
後になって、それが聖女の持つ力のひとつである光の祝福なのだと知った。弟への祝福をきっかけにヴィオレッタは聖女としての力に目覚め、正式に神殿に迎えられることとなった。
ヴィオレッタが覚えている弟は、小さくて可愛らしく、守るべき存在だった。けれど今や身長は菫よりも大きく、成人した大人にも劣らぬような立派な体躯をしている。少しばかり顔立ちに幼さが残っているが、整った容貌はさぞ異性に持て囃されていることだろう。
名乗られた名前を思い返す。
エヴァン=ジエン・クリフォード。
ジエン、は、クリフォード家の家長、つまり公爵が代々受け継ぐ名前である。それを名乗っているということは、エヴァンが既に爵位を相続しているということで。
――ヴィオレッタの父や母は、どうしたのだろうか。
ヴィオレッタと連座で刑に処されたのか。それで、幼いエヴァンだけが残されたのか。そうだとしたら、エヴァンは、ヴィオレッタのことを恨んでいるのだろうか。取り留めのない思いが、菫の脳裏に浮かんでは消えていく。
「せんぱーい!見てください!りんご飴ですよ!」
ふと呼ばれて我に返った。声の方に視線を向ければ、愛莉が屋台の前で手を振っている。
「りんご飴?」
「ああ、りんごの飴ですか。子どものおやつとして人気があります」
愛莉たちの傍に近づくと、確かに日本の夏祭りで見かけるりんご飴とよく似たものが売られていた。
「気に入ったのならば購入しましょうか」
「でも、」
「店主、人数分頼む」
「まいど!1つ銅貨8枚!5つで銀貨4枚になりやす」
愛莉が断ろうとしたものの、それを聞かずエヴァンが注文し、支払いを済ませてしまう。だがそれよりも、菫には気になることがあった。
こちらの世界で使用される貨幣には、鉄貨・銅貨・銀貨・金貨と4つの種類がある。貴族や豪商の間では金貨より上の白金貨が使用されることもあるが、このような市場で見かけることはない。ヴィオレッタが知る限り、市民の間で使用されるのは鉄貨と銅貨が主流であり、銀貨や金貨などはごく稀にしか使用されていなかった。
りんごの飴は、ヴィオレッタも食べたことがあった。
まだジークハルトが立太子される前のこと。一度だけ、お忍びで城下へ降りたことがあった。その時、ジークハルトに買ってもらったのがりんご飴だった。二人共初めて食べるそれに苦戦して、口元をべたべたにしてしまったことを、よく覚えている。
その時のりんご飴は、1つ銅貨2枚ほどだったはずだ。それが、なぜ。
「……あの、ありがとう、ございます。……私も、その、自分で買い物をしてみたいのですが、ええと……」
「金貨1枚は銀貨10枚分、銀貨1枚は銅貨10枚分、銅貨1枚は鉄貨10枚分……要するに、同じ物を10枚集めると、次の1枚になると思っていただければ。この辺で使われるのは銀貨と銅貨がほとんどです。そうですね、銀貨を10枚ほど持ち歩いていれば困らないでしょう」
突然こんなことを言い出しては、おかしく思われるだろうか。そう不安に思いながらエヴァンに尋ねれば、存外あっさりとした答えが返ってきた。話を聞くに、貨幣自体はやはりヴィオレッタの記憶にあるものと変わっていないようだった。
「……市場に行ってみたいです。構いませんか?」
「市場、ですか?何も面白いものはないかと思いますが」
「その……食事は基本的に、自分たちで作っているので」
「ああ……なるほど。渡り人様は厨房に立たれるのでしたね。かしこまりました。フクストラ嬢」
エヴァンがリリアンナに声をかけ、フェリシアーノと愛莉にも話が伝わってしまい。菫の不安を他所に、あっさりと一行は市場へ赴くことになった。
とうとう加湿器を購入してしまいました。
加湿器って高いイメージがあったのですが、実際に見てみたら意外にもお手頃価格なもので驚きました。喉へのアドバイスありがとうございます。とりあえず加湿器と一緒にのど飴をいっぱい買い込んできました。明日もダメそうだったら大人しく病院に行くことにします。
昨日の更新で登場人物ページを冒頭に入れたせいか、一時期表示がバグっていたようで、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。今後こういったことはなるべくないよう気をつけます。
なろうの感想欄?システム?が変わりましたね。お知らせを読む前にページの異変に気付いて驚きました。新しい仕様、良いですね。ご指摘を頂いた時にどのシーンの話だ?と疑問に思うことが減りそうです。
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ここまで読んでいただきありがとうございました。次回更新をお待ちください。




