15.王弟
※女装キャラクター注意報。苦手な方はご注意ください。
「……おんなの、こ?」
リリアンナの取次を経て、通された相手を見て愛莉はきょとんとした顔で呟いた。菫自身、目の前に腰を下ろす相手に対し、どう対応していいか分からず、少しばかり戸惑う。
「初めてお目にかかります。私はフェリシアーノ。こちらは私が一番信頼する友であり、護衛でもあるエヴァンと申します。突然の訪問にも関わらず、お会いしていただけて感謝します」
金髪碧眼の、絵に描いたような美しい少女。物語のなかで見るような可愛らしいドレスを身に纏ったお姫様がそこにいた。その声すら、鈴を転がすように愛らしい。しかし、愛らしいが故に戸惑いが強くなる。聞き間違いでなければ、先程リリアンナは王弟殿下と言っていた。
王弟とは、読んで字の如く王の弟、つまり男である。ヴィオレッタも、ジークハルトには歳の離れた、腹違いの弟がいたことを覚えている。歳が離れすぎていたため顔を合わせた回数はそう多くない。けれど、ジークハルトの父――先王陛下に望まれ、身体の弱かった幼いフェリシアーノに光の祝福を授けたことを覚えている。
確かに珠のような子供ではあったが、ヴィオレッタが覚えている限り、王子らしく、男児の衣服を着ていたはずである。
「……殿下。お二人が戸惑われています。ですから、お戯れもほどほどにと申し上げたではありませんか」
「ええ?だって、可愛いでしょう?それとも、似合いませんか?」
護衛だという少年、エヴァンが呆れたように溜息を吐く。それを受けて、フェリシアーノの薔薇色の頬がぷくりと膨らんだ。似合っているかいないかで言えば、似合っている。温かな日差しを思わせる金の髪に、空色のドレスはよく映えた。けれど、一国の王子がする格好かと言われると、けして褒められたものではない。少年の態度は王族に向けるにしては不敬とも取れるもので、フェリシアーノがそれを許している辺り、二人の仲の良さが伺えた。
それに、ヴィオレッタ――菫は、フェリシアーノから紹介された傍らに控える少年から、目を離せずにいた。月のように輝くプラチナブロンド。アメジストを思わせる紫の瞳。それにエヴァンという名前。彼は。この、少年は――
「失礼しました。エヴァン=ジエン・クリフォードと申します。お会い出来て光栄です、異世界からの渡り人様」
少年、否、エヴァンの言葉を聞いて菫は我に返った。
ヴィオレッタは死に、菫になった。先程そう、自身に折り合いをつけたばかりなのに。菫にとってここは慣れ親しんだ世界ではない。この世界にとっても、菫は異物でしかない。
理性では分かっているのに、感情が、ヴィオレッタの記憶に引きずられてしまう。歳の離れた、最愛の弟だった少年を前にして、菫は必死に動揺を押し殺した。
「わたりびと、ってなんですか?」
「お二人のどちらが聖女様か判明していない以上、そうお呼びするのは憚られますので……鑑定を受けるまでの仮称だと思ってください」
聞き慣れない単語を疑問に思ったのか、愛莉がフェリシアーノに尋ねた。柔らかな微笑みとともに返って来たのは、ある意味で想定内の言葉。聖女は当代に一人。二人は現れない。二人をどちらも聖女と呼べば、それは詐称でしかなくなってしまう。
「せんぱい、大丈夫ですか……?」
「……大丈夫よ、ありがとう」
無言を貫いていた菫の顔を、愛莉が心配そうに覗き込む。それに応えるように笑みを浮かべると、ぎゅっと手を握られた。手の平から伝わる温もりが、菫に冷静さを取り戻させる。自分一人がここにいるわけではないのだから、いつまでも呆けてはいられない。
「仲がよろしいのですね」
菫と愛莉のやりとりを見て、フェリシアーノはにこにこと愛らしく微笑んでいる。その表情から何を考えているのか読み取ることは出来ない。そういう意味で、彼も確かに王族らしいと言えた。
「それで……お二人は、どうしてここに?」
「そうでした!兄上――陛下がお二人の気分を害してしまったようで、そのお詫びを。エヴァン」
「はい。アイリ様にはこちらを。スミレ様には、こちらを」
愛莉の前に出されたのは一見すると愛らしい花飾りのついたバレッタ。しかしその花は宝石で象られ、台座は銀で出来ている。
菫の前に出されたのは、シンプルな指輪だった。けれど、ヴィオレッタの記憶がある菫には、それがどういうものか分かってしまう。傍目に見れば銀に見えるが、素材に使われているのはミスリルだ。アメジストに見えるのは、魔石だろう。それも相当に純度が高い。どちらもそれだけで屋敷が建つような代物だった。
「いいえ。途中で退室するような無作法をしたのはこちらです。受け取れません」
こちらの世界に、指輪を贈り合うような習慣はない。他意はないのだろうが、それでも、受け取る気にはなれなかった。
「わたしも、いらないです。もらう理由がないし……」
「お二人に似合うかと思ったのですが……残念です」
一度断れば、フェリシアーノは思いの外あっさりとそれらを下げた。
「……そうだ!代わりと言ってはなんですが、もしよろしければ、私たちと城下に参りませんか?ずっと城に籠もりきりでは気も滅入るでしょう?」
ぱちんと両手を合わせ、楽しそうに声を弾ませ。フェリシアーノはそう言って、こてりと首を傾げた。
申し訳ありません。予約投稿日時をミスしていました。
1ページに登場人物紹介を挿入しました。出来る限り配慮しましたが、ネタバレ注意です。
突然寒くなり、完全に喉をやられました。皆様も体調にお気をつけてお過ごしください。
閲覧ありがとうございました。
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