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14.過去と現在

新キャラの名前が決まりませんでした。

「ありがとう、話してくれて」


 愛莉の告白を聞いて、菫はそっと震える背を抱き締めた。


 魔力の多い者のなかには、先天的に常人にはない力を持つ人間がいると言う。ヴィオレッタが知るなかで、兄――ディルクもその力を持っていた。まだヴィオレッタが神殿に入ったばかりの頃、ディルクから魔法の指導を受ける機会があった。


 その時、どうしてそれほど的確に発動出来るのかと聞いたヴィオレッタに、ディルクが教えてくれたのだ。ディルクの目には、魔力の色が見えるのだと。その色を手繰り寄せているだけから、自分はあまり参考にはならないが、と申し訳なさそうに言われたことを覚えている。愛莉もその類なのだろう。菫では魔力の欠片も感じなかった日本でその才を開花させたのだ、こちらに来たこと自体、相当な負荷だったに違いない。


「きもち、わるく……ない、ですか?心が見える、なんて」

「もし神埼さんが見たものを誰かに言い触らしたりする人だったら、嫌だったかもしれない。……でも、神埼さんはそんなことしないでしょう。だったら、ただの個性と同じだと思うの。勇気を出してくれて、ありがとう」


 その力を悪用することなんて、いくらでも出来たはずだ。その力を持って他人を騙したり、脅したり、方法だって一つじゃない。だが愛莉はそれを、その道を選ばなかった。菫にとって、それだけで十分だった。


 話を聞いて、思うのはジークハルトのこと。


 かつてのジークハルトは、太陽のような人だった。

 強力な火属性の魔力を持ち、いるだけで周囲を鼓舞出来るような存在だった。それでいて本人は争いごとを好まず、どうすれば国を豊かに出来るのかと常に考えている人だった。誰に対しても気さくで、城に籠もっているよりも市井を歩くことを好み、民を愛し、民に愛され、なるべくして王太子になった人。


 ジークハルトが立太子されたその日のことを、ヴィオレッタは今でも覚えている。婚約者としてその傍らに寄り添い、広場に集まる民に手を振った。


 民が皆、笑顔で「ジークハルト殿下万歳!王太子殿下万歳!」と高らかに叫び、花を投げ、一時王都の空は花びらで埋め尽くされた。そんなジークハルトのことが誇らしく、彼に相応しい存在で在りたいと思っていた。けれど。


 ――これは、己が遺した咎なのか。


 ふと、あの日のことを思い出す。ヴィオレッタの最期の日。冷たい空気が肌を刺す、雪がちらつく日のことだった。あの時、己は、ヴィオレッタは、全てを諦めてしまっていた。疲れ果てて、もうどうすることも出来ないのだと抵抗を止めて。最後に守ったのは、己の矜持だけだった。


 諦めずに、もっと、訴えるべきだったのだろうか。ジークハルトと話をしていれば、何かが変わったのだろうか。考えてみても答えは出ない。ヴィオレッタは死に、菫が生まれた。全ては終わったことなのだから。


「せんぱい、……」


 不安そうにも、心配そうにも見える愛莉と目が合った。大丈夫だと伝えたくて、涙の滲んだ目尻をそっと指でなぞる。燻るものを胸の内に仕舞い込んで、笑う。


 ――私は酷い人間だ。口では彼女のためと言いながら、他の誰でもなく、自分が一番帰りたがっている。


「帰ったら、明さんと三人でご飯に行こうか。美味しいものが食べたいな。おすすめのお店、教えてくれる?」

「! はいっ」


 顔を見合わせて、はにかむように笑い合う。

 一度自分から手を離そうとしたのに、今は無性に、明に会いたかった。顔を見て、好きだと言って、抱き締めてほしかった。こんな身勝手な人間が、聖女であるはずがない。


「スミレ様、アイリ様。……お話中に申し訳ありません。少しよろしいでしょうか」


 不意に、扉が叩かれる音がした。ノックの音と共に廊下で控えていたリリアンナから声をかけられ、二人は慌てて居住まいを正す。


「わたし、顔洗ってきますっ」


 涙で濡れた顔を見せるわけにはいかないと、愛莉が菫から身体を離し、パタパタと洗面台へと走っていく。それを見送って、菫も少しばかり乱れた衣服を直し、扉へと視線を向ける。


「どうしたの?」

「お二人にお会いしたいと、お客様がいらしています」

「……お客様?」


 一体、誰のことだろうか。リリアンナが取次をするのだから、大臣か、或いは、ジークハルトか。しかし、あんなことがあってすぐ、訪ねてくるものだろうか。


「王弟殿下とそのご側近が、お二人へお目通りをと、こちらにいらしています」


ネーミングセンスゼロとネーミングセンスゼロの話し合い、それ即ち虚無…

新キャラの名前は明日の自分に期待。


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