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#7 王都と病床の陛下

僕らは湖のほとりで一泊する。


その夜は5人で、各々のことを話した。僕の世界のこと、レントさんの過去、ニーナさんの家のことなどなど。


「ええっ!?ニーナさんって、王都貴族だったんですか!?」

「そうだよ。僕のうちは男爵家なんだ。といっても、300以上ある王国貴族の下っ端だけどね。」

「いやあ、それでもすごいよ!私なんてそのさらに下っ端の平民だよ!?いいなあ、貴族。」

「僕は嫌だったなぁ。だから僕は家を飛び出したんだ。」

「ええっ!?ニーナさん、家出したの!?」

「そうだよ。」

「な、なんで!?貴族の家ならずっといい暮らしができたんじゃないの!?」

「そうだけど、その代わり自由もないのさ。動きづらいドレスを着て、面白くもないダンスを覚え、好きでもない相手との結婚が待ってるだけの生活、僕には耐えられなかったな。」

「ああ……そうなんですね。そういう苦労もあるんですよね、貴族の娘さんって。」

「そういえばさ、ヒロトの世界ではどうなんだい?貴族や平民の暮らしって。」

「そうですね。まず貴族っていう人がいませんね。」

「ええっ!?貴族がいないだって?じゃあ、街は誰が支配してるの!?」

「そういうのは選挙によって選ばれた政治家という人がいて、その人達によって社会が動かされているんですよ。」

「センキョ?セイジカ?なんだい、それは?」

「ええと、つまりですねぇ……貴族ではなく、平民が国の長を決める制度があるんですよ。」

「ええっ!?そんなことして、大丈夫なの?」

「いや、僕らの世界では、それが普通ですよ。」


あっちの世界の常識は、ここではやはり非常識であることが多いようだ。モンスターがいないとか、武器を持ち歩かないことはともかく、民主主義や高度な技術の話は信じられないことばかりといった感じだ。


「そういえば、エミリさんってどうして駆除人になったんですか?」


たまには僕の方から聞いてみた。この質問は、ずっと前から抱いていた疑問だ。それほど腕っぷしがいいわけではないエミリさんが駆除人という職業を選んでいること自体、なんだかちょっとアンバランスな気がしていた。


「……あのね、私、モンスターに、親を殺されたの。だから、モンスターを倒そうって思ったの。」


予想以上にショッキングな回答が返ってくる。それを聞いて僕はエミリさんに謝った。


「あ……ごめんなさい。嫌なこと思い出させちゃったかな。」

「いいのよ、もう2年も前の話だし、それに駆除人になったおかげで、今があるんだしさ。」


この件について、エミリさんもそれ以上は特に語ることはなかったし、僕もそれ以上聞くことはしなかった。だけどここは日本じゃない。危険と隣り合わせの世界であることを、このエミリさんの話からは思い知らされる。


なお、エマさんはエミリさんと一緒に遊んだ仲で、子供の頃からお互い張り合っていたそうだ。だけど、15歳の時からお互いの道を歩み始めて、以降は疎遠になったらしい。これほど長い間一緒に行動したのは、本当に久しぶりだという。


無数の砂金をばら撒いたような星々がまたたく空を見ながら、4人の話を聞いた。それぞれの過去を聞くと、僕は本当に苦労知らずで生きてきたんだなあと悟る。


塩湖のほとりで一夜を明かす5人。隣で寝ているエミナさんの寝顔を見ながら、僕は思う。ここは、確かに厳しい世界。でも、なぜか人の絆の深さを感じる。


日本ではなに不自由ない生活を送っていたが、こんなにも人の繋がりを意識したことはない。もっと薄っぺらく、細い絆しかなかったように思う。


もう一度日本に帰れるかどうかは分からない。ずっとここで危険と隣り合わせの生活を、一生送る羽目になるかも知れない。でも、それでもいいかなと思い始めていた。


翌朝。日が昇ると同時に、僕らは山を下る。登りは大変だったが、下りはすんなりと進む。


モンスターが出て来ても、エマさんの炎で追い払う。一度オーガが現れたが、構わず逃げると、特に深追いされなかった。コボルトやオーク、スライムにも出会うが、相手にせず通り過ぎる。


そしてまだ朝のうちに山の(ふもと)にたどり着いた。そこには示し合わせたように馬車が到着していた。僕らはその馬車に乗って、そのまま西に向かう。


マデレーヌの街を通り越して、さらにその向こうへと進む。僕らがこれから向かうのは、王都だ。


ヴィルトワ王国の王都、パミエへ着いたのは、その日の昼過ぎだった。長いこと馬車に揺られて、お尻が痛い。だがそこは王国の首都というだけあって、マデレーヌの街とは比べ物にならないほど大きな街だった。


3、4階建ての石造りの建物が道路に沿って立ち並ぶ。馬車もたくさん行き交っており、人も多い。広場には露店が並び、果物や野菜にチーズ、農耕器具や食器、そして絵画を売る店もある。


カラフルで賑やかなこの街を、僕はカメラに納めた。


カシャ、カシャ、カシャ……


街灯や電信柱など、一本もない。馬車が走るのは石畳の道路で、人が歩く脇道は土の道路となっていて、そこを大勢の人々が歩いている。


道端や店でじっと座ったまま動かない人がいたかと思えば、慌ただしく走り回る人々もいる。馬車の前を何人もの人が御構い無しに横断している。信号も横断歩道もないから、もうどこから歩行者が出てくるか分かったものではない。だが、馬車を操る御者の人は、特に歩行者に気兼ねすることなく馬を走らせている。


広場の奥に、大きな建物が見える。ひときわ高い建物、あれはまさしく宮殿だ。僕らは、あの建物に向かっているのだ。


宮殿に近づくにつれ、人通りが少なくなる。周辺の建物も、壁に囲まれた庭のある広くゆったりとしたものが増える。ニーナさんによれば、ここは貴族達の住む地域のようだ。


その貴族の住宅街を抜けると、王族の住む宮殿がある。この馬車はまっすぐと宮殿へと進む。


大きな鉄製の扉のついた、石造りの門の前で馬車は止まる。御者が門の前で叫んだ。


「フラソワーヌ侯爵様の命により、ヒロト殿をお連れ申した!門を開けられよ!」


すると、鉄の重そうな扉がゆっくりと開く。馬車は開いた門を進み、さらに奥へと向かう。


宮殿の真ん前の中庭で馬車は止まる。中からは燕尾服を着た初老の男性が迎えにくる。


「お待ちしておりました。さ、こちらへ。」


彼は侍従長だという。侍従長は僕ら5人を、宮殿の奥へと案内する。


石造りの建物に、赤いじゅうたんが敷かれた通路。脇には絵画や彫刻が置かれ、メイド服を着た女性がずらりと整列して僕らを迎え入れる。


とある大きな木の扉の前で、燕尾服の侍従長は止まる。そしてその扉の前で手を叩く。すると、扉が向こう側に向かってゆっくりと開く。


中には、大きなベッドが見える。その中には、1人の老人が臥せっていた。


「陛下、お約束通り、風景を取り込む魔法を持ったヒロト殿がやってまいりました。」


ベッドの横には数名の召使と、あのフランソワーヌ侯爵様もいた。


「おお!待っていたぞ!どうだ、首尾よくフェデリー湖の風景は納められたのか?」

「あ、はい、ちゃんとお持ちいたしました。」

「うむ、ではそれを、陛下の御前に。」


僕はカメラを持って、病に臥せっているこの老人のそばに行く。僕はカメラのスイッチを入れる。


あ、そうだ。せっかくだから、この部屋も撮っておこう。


カシャ。


さて、陛下の前に来た僕は、あのフェデリー湖の写真を液晶パネルに映し出し、それを陛下に見せる。


生きているのか、起きているのかどうか分からないこの老人は、その液晶に移された湖の姿を見て急に目を大きく開く。僕は画面を送り、まるで鏡のようなあの湖の写真を見せていた。


国王陛下は特に何も言わず、ただじっと写真をご覧になる。僕は1枚1枚、拡大表示でゆっくりと写真を見せる。


……が、送りすぎて、エミリさん、エマさん、ニーナさんが水浴びをしている写真を出してしまった。慌てて僕はそれを戻す。


「……今の絵を、もう一度見せよ。」


ここで初めて、陛下は口を開かれる。陛下の仰せのままに、僕はその写真を見せた。


その後の数枚ある水浴びの写真を見せる。さっきまではまるで石のようにじっとしていた陛下は、身を乗り出すように液晶画面に見入っていた。


この水浴びの写真を中心に、随分と長いこと陛下は写真をご覧になった。僕らが解放されたのは、夕方のことである。


「いや、ヒロト殿。陛下はたいそうお喜びであった。これで陛下も、思い残すことはあるまい。本当にありがとう。」

「い、いえ、写真を見せただけですから、大したことはしてませんよ。」


フランソワーヌ侯爵様が僕にお礼を言ってきた。でも僕は大したことをしたわけではない。ただ写した写真を見せただけだ。それも、水浴びの写真ばかりを陛下はご覧になっていた。うーん、やはり陛下とはいえ、男だなあと思う。


門の外に出る。このまま帰ってもいいけど、せっかく王都に来たのだからということで、僕らはある店に入った。


そこは、酒場だった。大勢の人々が肉料理と酒をテーブルに並べて思い思いに食べていた。


僕らもテーブルについて、料理を注文する。僕の目の前に、ごつい木製のジョッキのようなものが置かれた。


「あの、レントさん、これは……?」

「これか、これはエールだよ。」

「エール?」


なんだろう、聞いたことのない飲み物だ。よく分からないけど、料理も来たし、みんなで乾杯をする。


「厳しい旅だったが、無事に国王陛下の任務を終えることができた!任務遂行を祝して、乾杯だ!ラ・グロワール!」


エールの入った木のジョッキを当てて、乾杯をする5人。そしてそのジョッキの中身を口に含む。


その瞬間、僕はその中身を理解した。


うわっ!これもしかして……ビールじゃないのか?


エールって、僕らのいうビールのことだったのか。と言っても、ビールの味を僕はほとんど知らない。一度、友達と一緒にノンアルコールビールを飲んだことがあるくらいだ。あれよりも生ぬるくて、苦味が強く、そして喉が熱くなる。


よく見ると、エミリさんもエマさんも飲んでいる。あれ、いいのか?未成年者が酒なんて飲んでも。


「あ、あの、レントさん!?未成年者がビールなんて飲んでもいいんですか!?」

「は?未成年者?何言ってるんだ、15歳を超えてりゃ、立派な大人だろうが!」


ああ、そうだった。ここでは僕も大人扱いなんだ。みんな美味しそうにエールを飲み、肉料理を食らう。僕も大きなソーセージを食べた。


ちなみにこのソーセージは、オーク肉らしい。だが僕ももう、オーク肉を食べ慣れた。苦いエールと一緒に、僕はソーセージを食べる。


あれ?なんだかとても気持ちが良くなってきた。ふわふわとするこの感触、もしかして僕、酔っ払っている?ソーセージと野菜のスープを飲みながら、エールを飲み干す。


「おお!いい飲みっぷりだな!ほら、どんどんいけ!」


レントさんにすすめられるがまま、エールを飲む。エミリさんも、僕に寄り添ってエールを飲む。


「いやあ、久しぶりよ、エールなんて飲むのは!美味いわぁ!」


露出度の高い衣装で僕にまとわりつくエミリさん。えらく上機嫌だが、僕は衣服の隙間から見えるエミリさんの身体の奥深くにあるもののおかげで、それどころではない。


が、3杯目くらいから、だんだん僕も気が大きくなっていく。


「エミリさん!抱きついてもいいですか!?」

「いいわよぉ~!いくらでも抱いてちょうだい!」


なぜかエミリさんをぎゅっとしたくなったので、酔った勢いで聞いてみたら、OKが出た。エミリさんの柔らかい身体に、僕はしがみついた。


日が沈んで、ロウソクの火だけの暗い店内で、5人は各々エールを飲んで語りあった。酔っ払いながらも僕は、酒場でも写真を何枚か撮る。


王都を出たのは、夜もかなりふけてからのこと。すっかり酔っ払ってしまった5人は、馬車の中で横になる。


「ねえ、ヒロト。」


エミリさんが僕に話しかけてきた。彼女、まだ寝てはいなかったようだ。


「なんですか、エミリさん?」

「ヒロト、このままこの世界に残りなよ。」

「えっ?」

「でさ、私とずっとこのまま一緒に暮らさない?」


突然の誘いだ。僕は応える。


「そうだね……このまま帰れないなら、それもいいかな……」


この応えを聞いたか聞いていないのか、エミリさんは寝てしまっていた。


日本では見ることのできない星の多い夜空を眺めながら、僕はこの世界で暮らすのも悪くないと思い始めていた。

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