クァ神国の信仰
クァ神国の聖都ヴァーズは大陸の交易の中心地で、南に海、西に大河、北東には広大な森をもち、世界一の繁栄をほこると言われている。
太陽と水のめぐみは温暖な土地にあまたの作物を実らせ、天を神と崇めるクァ古来の信仰は周囲の国々まで広まっていった。
そのヴァーズが聖都たるゆえんが、『信徒の宮』──通称『宮』──とよばれる信仰の中枢ともいうべき宮殿施設だ。
敷地の半分が、国で最古の聖堂を中心とした『祈徒の宮』として信徒たちに開放されている。
隣接するのが『学徒の宮』で、そこでは舞学徒のほか、神学徒や医学徒が聖職者となるべく教育を受けていた。
さらに、奥宮として『舞徒の宮』と『謡徒の宮』があり、『神の蝶』および 『神の小鳥』が、異性禁制のそれぞれの宮で舞い、歌いながら暮らしているのだった。
『舞徒の宮』から『学徒の宮』へと入るには、べつに石塀を越える必要はなく、設けられた鉄門を勝手に開けて入ればよい。
いくら師の許可を得たといっても、傍目には破戒に準ずる行為に映りかねないと、ローサは内心どきどきだったが、『学徒の宮』に入ってもだれに呼び止められることもなく、ほう、と詰めていた息をついた。
門を見張るものさえいないとは、さすが『宮』の中だとおもう。
信徒はみな、幼いころから嘘や不正は大罪だと言われて育つ。
天はいかなるときも頭上にあり、大罪を犯したものは死して例外なく神の追放を受けてしまう。
行き先は、地獄。
そこはひかりのない世界で、のどをうるおす水もなく、作物も育たない、飢えと苦しみが永久につづく場所だという。
ローサの故郷はノルシア侯国でもかなり北にあり、地獄の様相も昔は現実としてあったと聞いた。
それに比べれば、聖都は地獄とはまさに対極にあり、神の追放を心から恐れるきもちも分からないではない。
もっとも、今のローサには、『舞徒の宮』から追放されることのほうが地獄よりもよほど怖かった。
言いつけどおりに、ユナという名の揚羽へ桜桃をとどけたローサは、ルエがいるはずの森のはずれへと急ぎ戻った。
風に、ローサの羽衣が揺れている。
その下に座り込んだルエを見て、ローサはあれ、とおもった。
地面に直接、白い衣を身につけたルエが腰を下ろしているなどめずらしい。
「ルエ様、どうしただすか」
びく、とルエの肩が揺れた。
ローサを仰ぎ、ルエはちらりと枝にかかった羽衣を見る。
「……あのね。ごめんなさい、ローサ。あなたの羽衣、勝手に借りて舞ってしまったわ」
ローサは二度またたいた。
「謝ることなどねーずら。白蝶様が色つきの羽衣で舞うなんて、聞いたことはねども」
「師が羽衣を貸すことはあっても、逆はないもの。でも、ローサの羽衣は特別でしょう? その絹だとどんなふうにひらめくのか、力はどのくらい必要か、知りたかったの」
肩を落としたルエが、立てた右脚を抱く。




