蝶、失格。
「ローサの母君が改宗し、『半鬼』とよばれる子を生んだきもちも、今ならよく分かる」
「おらには、分からねーだす!」
「嘘はだめよ、ローサ。だって、あなたは言ったじゃない。舞うのは家族のためだって。あなたは、父君と母君に愛されて育ったのよ。それを誇りにおもうから、十五の娘がたったひとりで聖都まで来たんだわ。ちがう?」
「おらは、ルエ様に舞って欲しいだす──」
涙が伝った頬を、ルエが撫でてくれる。
「私は、舞を愛してた……当たり前のように、歌にすべてを捧げて生きることをグリークに求めてしまったほど。今は、後悔しているわ。彼をカナリアにすべきではなかった。私は、白蝶になんてなるべきではなかった」
「あの男は、知らねーだけずら! ルエ様がどんなふうに舞うのか。カナリア様の歌が、どれほどうつくしいか。おらは、ふたりの共演に神を感じただ。大祭で、きっとたくさんの信徒たちがおなじように感じてきただよ」
訴えるローサの首を、ぎゅっとルエが抱く。
「私は神とか、天とか、どうだっていいの。そんなもののために舞ったことなどいちどもないわ。それが、今になって分かっただけ」
「……舞うことをやめたら、ルエ様は幸せになれるだか? あの男のもとで、ただの女として暮らせるようになるのだすか。あの男の人生に、何よりも必要とされながら?」
そんなの無理だで、とローサの心の叫びが聞こえたのだろう。
ルエが、苦笑をこぼした。
「いじわるね、ローサ。──いいの、愛されることなど望んでないわ。あのひとの邪魔をせず、愛していられたらそれでいい。それ以上は、なにも望まない。……ただ、私の心はもう彼のものよ。神のためになど舞えないわ。『神の蝶』失格。でしょう?」
ローサはルエの肩をつかんで押し返した。
以前よりもすこし、薄くなった気がする。
「ルエ様、嘘はいけねーずら。二度と会えなくてええだか。もっともうつくしいすがたを、知ってもらえぬままでええだすか」
ルエの瞳がかすかに揺れた。
「大祭で舞えば、あの男もきっと見にやって来るだで。いや、おらがかならず連れて行くだす! 見咎められ、追放されたっておらは構わね。ルエ様のいない『舞徒の宮』になど、どうせ居場所はねーずら」
ルエの美貌が、くしゃりとゆがんだ。
ローサの羽衣ごと、腕がつかまれる。
「ほんとは、会いたい。ひと目でいいから」
会いたいの、と訴える声がかすれて消えた。
「聖壇の下に十万の観衆が集まっても、あの長身にあの髪の色なら、朝日の中、きっと楽に見つけられるはずだで。ね?」
うなずいたルエの目尻には、きらりと光るものがあった。
そして、浮かべたほほえみは、これまでにない艶とかがやきを宿している。
「舞うわ。最後まで、白蝶として──」
最後まで、と言ったその意図を、ローサはあえて訊かなかった。
もういちど舞えばきっと心は変わるはず、そう信じていたから。




