オータム流
「へえー、そのオータム流剣術ってのが帝国の方では人気なんだな」
「らしいよ。剣聖の剣術だからじゃない?昔に、一人にだけ軽く教えて、その人がオータム流を広めたんだって。だから微妙に違ったりしてるかな」
「一人で広めたって熱意が無いと出来ないよな」
学校が終わった後に待ち合わせし、カナンとオードは近くの森に来ていた。オードがオータム流に興味を持った様だ。
「じゃあオータム流を基本から教える訳だけど…まずこの世界の剣術…ファー王国流剣術は構えがあるよね。攻撃主体の型、防御主体の型」
「そうだな、俺が習ったのは大体そんな感じだな」
「オータム流は構えはいらない。理由は俺が筋肉痛だったから」
構えると腕がプルプルするんだよ…さらっと言ったがオータム流開祖の言葉とは思えない雑な理由にオードは苦笑する。
「無駄な力がいらないって事か…確かにパリイは力をほとんど使わずに受け流せたな」
「そんな感じ。元々は魔法を斬る為に開発したんだけど、調子こいて沢山の技を開発したんだ。ああ、剣術って言ってるけど」
ストレージから包丁を取り出し、オードに見せる。
「包丁?」
「そう、元々包丁の技なんだ。だからあまり力は要らないし、包丁は軽いから筋肉痛にも優しい」
「じゃあ剣聖は長剣に応用したんだな」
「そういう事だね。まあ応用したのはおっさんだろうけど」
前置きはこんなもんかな、と包丁を右手に持ちオードに向き合う。
「兄さん、俺に蒼炎破斬を撃ってみて」
「分かった。蒼炎!」
ゴオオ!とオードの剣が蒼い炎に包まれる。
「行くぞー。蒼炎破斬!」
蒼炎の斬撃がカナンに向かって飛んでいく
「短冊斬り」
包丁を横に一閃、直ぐ後に続く縦の軌跡
蒼炎が短冊に斬られ四散した
「魔法を斬る時はこんな感じ。魔力の波長を合わせて斬るのが基本かな」
「いや…魔力の波長を合わせるとか難易度高過ぎだろ…」
これは戦闘中は無理だ…呆れた視線を向けるが、カナンは兄さんならどうせその内出来るよと投げやりに言う。
「じゃあ、次は…兄さんとりあえず構えて、避けるか防御してみてね」
オードは素直に構える。どのタイミングでも防御出来る様にカナンの一挙一動を見逃すまいと集中。
「よし!来い!__っな!」
気付いたら首に包丁を当てられていた。どうして、ちゃんと見ていたのに。オードは混乱する。
「_無拍子…予備動作無しの攻撃だよ。これがパリイ出来ればほとんどの攻撃は受け流せる」
「何も見えなかった…はははっすげえなカナン!」
これどうやるんだ!オードの問いに、この世の全てをどうでもいいと思うくらい脱力すれば出来た気がする。とカナンらしい答えにオードは笑う。
「後は兄さんがよく使う清流に脱力してフェイントを入れたら流し斬り、色々あるけど。基本は無駄な力を抜く事。まあこんなもんかな?」
「いや、こんなの基本じゃねえだろ…まだ上があるのか…」
これが習得出来たら確実に強くなれる。そう確信したオードはオータム流にのめり込む事になる。開祖直伝、オードは気付いていないが、オータム流の門下生が聞いたら嫉妬に狂うだろう。
「んー。じゃあ兄さんに合った技は…あれ?そういえば兄さん。複合の魔法剣って何か使える?」
「ん?練習中だけど…今の所は雷かな?格好いいからな!」
「雷とか主人公っぽいね…魔装やってみてよ」
「はいよ。紫電!」
バチバチッと紫の雷が発生。オードを包みこむ。
複合の魔装は難しいのだろう。蒼炎よりも時間が掛かっている。
数分後、紫の雷で出来たフルプレートが完成した。
「ぐっ、やっぱり制御が難しいな…」
「戦闘だと敵は待ってくれないねー。…そうだ!」
ストレージから3センチ程の精霊石が付いているネックレスをオードに渡す。
「これは?」
「精霊石っていう四大元素の塊。これあげる。解除してから着けてからもう一回魔装やってみて」
オードは魔装を解除し、ネックレスを首にかける。
「わかった。紫電!」
バチバチッと紫の雷が発生してオードを包むが先程よりも早い。10秒程でフルプレートが完成した。
「うわ…流石だね」
「凄いな…これで実戦でも使えるぞ!ありがとうカナン!」
「あ、うん。普通は直ぐ出来ないんだけどね。じゃあ技教えるよー」
カナンは何も無い更地に向かう。オードに背を向ける形で考える。
「何にするかなー。…よし、格好いいのにしよう」
兄さん見ててねー。と軽い感じで言うカナンをオードは目に焼き付ける様に見る。
「雷光一閃…」
雷を纏う包丁を横凪ぎに振るう
ゴオオ!と雷の斬撃が横向きに真っ直ぐ飛び
「天地を裂く…」
包丁を上に振るう
バチバチバチッと雷が上下に伸び、まるで雷で出来た巨大な壁が出来上がる
「御雷の裁き」
包丁を振り下ろす
ドドドド!と音を立て、壁が円となり収縮、中心に雷が集中
耳が痛い程の轟音が周囲を支配する。
視界は紫の光で染まり雷の熱量がビリビリと響く。
「……(耳がキンキンすんなこれ)」
やがて雷が収まり。視界が戻ってきた。オードはチカチカする目を擦りながら雷の中心部へと足を運ぶ
「……すげえ」
直径5メートル程の底が見えない穴が出来ていた。穴の周囲はキラキラしている。集中した雷が地盤を貫き高熱でガラス化した様だ。
「こんな感じ。さあ兄さん、練習開始だよー」
「…こんなん無理」
「兄さんなら出来るよ、多分」
「そこは言い切ってくれよ…」
魔力が切れても精霊水を飲まされ、死んだ目でお腹タプタプになりながらも何とか形にはなったオードであった。




