噂の二人
朝は早く起きて台所に居た母に声をかける。ちょうど朝食を作る所。間に合った様だ。
「おはよう、母さん」
「あら、おはようカナン」
「リナがご飯気に入ったって言ってくれてね、これから朝作る様にするから俺やるよ、母さんはゆっくり準備して」
「ふふっ、ありがとう。リナは元気になった様ね。カナンが何かしてくれたんでしょ?ありがとう。」
リナはカナンと結婚するそうよ。そう言って、からかうように微笑む母はカタリナから本気で結婚する気だと昨日聞いていた。
この世界は兄妹で結婚する人も一定数居るので、親は違和感なく応援する。
「あー、まあ…はい、スムージー」
生返事をしながら母に果物で作ったスムージーを渡す。
「ありがとう。フルーツジュース?…あら!いいわね!これ!」
気に入った!毎朝飲みたいと言う母には好評でカナンも口角が上がる。
「どういたしまして。はいお弁当。行ってらっしゃい。」
「行ってきます。ふふっ息子にお弁当作って貰うなんて幸せだわ。そうだ、今度彼女紹介してねー!じゃあ」
ニヤニヤ笑う母を見送り、みんなの弁当を作り家を出た。
『いつ紹介してくれるの?』
『わ、我も紹介して』
「どうするかなぁ、時間ある時な。多分夏休みくらいかな」
『夏休みって何だ?』
『暑い時期の一月くらい学校が休みの期間の事よ』
『へー』
3人で会話しながら学校に到着。今日は座学の後に魔導具学科。
「おはよう。カナン」
「おはようモリー」
「そういえば、今週末帝国の首都で闘技大会あるらしいよ。各国から強者が集まって闘うんだけど、カナンは出ないの?優勝したらなんだっけな、まあ良いもの貰えるらしいよ」
「週末かー。オード兄さんとドラゴン倒す約束してるんだけど、居なかったら連れて行こうかな?俺は賞品次第かな。年齢制限ある?」
「ドラゴンって…無茶苦茶だなあ。カナンならあり得るか…年齢制限は無いよ」
「おーそうか、ありがとう」
ドラゴンは普通倒せない。シーマの噂を思い出して苦笑するモリー。カナンの賞品何かなーとワクワクしている様子を見て、出場したら優勝するんだろうなと遠い目になる。
「そうだ、最近学校で噂になっている事があってさ」
「ん?噂?」
「授業中になると、制服を着た女神みたいな美人の赤と青の女子が、校内を二人仲良く歩いているんだって。そのせいで授業を休む男子が増えているらしいよ。」
「……ほう、そうか。それは良い事聞いた」
「あれ?カナンも興味あるんだね。でも声を掛けようとすると消えて居なくなるらしいから幽霊なんじゃないかって噂もあるんだ」
噂を聞いてカナンの眼のハイライトが消えていく。きっと学生気分でキャイキャイ散策しているんだろう。どうせすぐ飽きるし、言っても無駄だから事件が起こらない限り放置する事に決めたカナン。
(石に反応は無い、か。また何処かに居るんだなー)
少しお転婆な二人に頬が緩む。
授業が終わりモリーと別れ、教室を移動。魔導具科の教室に行くと女子が集まっていた。
「んあ?なんだ?…あー王女か」
見るとイケメンが女子に囲まれていた。話し掛ける者、遠巻きに見る者、恋文を渡す者。様々な思惑が入り乱れる教室。
「おー、クリス。元気そうだな」
「あっ、カナン君!ちょっとごめんねー」
カナンは気にせずクリスに挨拶し、さっさと窓際に座る。女子を掻き分けて進むクリス。なんとかカナンに追い付き隣に座る事に成功。カナンの隣を狙っていた女子も居たがクリスの威圧の視線を受け断念していた。
「えへへ、良かった。隣に座れて」
「大人気だなー。流石妖精王子」
「王子はやめてよ。あれから色々調べたんだけどね、当時の王国の闇は深かったみたい…」
今は大丈夫だけど今更だよねと、残念そうに眉を下げる。
「そうか、ありがとうな。あれからグリーダはどうなったんだ?」
「それが、探しても他国に嫁いだとしか書いてなくてね。帝国の南にある国だよ」
「機会があれば行ってみるかな。あいつの末路は確認しないと気が済まないし……そういえば、マルゼンとベスタってどうなった?」
「ああ、騎士団が事実確認の調査に出たけど、あまりお咎めは無いかなー。マルゼン子爵領に行く人が減って収益が落ちたのと、ベスタは家で肩身が狭いけど、騎士団には入れるらしいよ。でも一生比べられると思う。ただの炎の魔法剣士と蒼炎の騎士をね」
怒りの籠った眼で遠くを見据えるクリス。きっと国王にも進言したのだろう、王が動かず納得いかない結果に苛立っている様だ。
「まあ、そんなもんさ。民衆の支持が下がるのを楽しみにしているよ」
国が悪くなるのを楽しんでいるかの言葉に、カナンの過去の事情を知る王女は何も言い返せなかった。
ヒソヒソ雑談しながら授業が終わり。
「おっミシルさん迎えに来てるぞー」
授業が終わって少し経ったら、王女の護衛の美人騎士が迎えに来ていた。手を振ったら振り返してくれた。
「なっ!なんで名前知ってるの!」
「この前中央区で彼氏と居るのを見掛けてな、世間話がてら名前教えて貰ったんだよ」
少し前、休日に彼氏とデートしているのを目撃、カナンは胸を痛めながら勇気を出して名前を訊いていた。
姫と仲良くしてくれてありがとね、とウインクしてくれたのはカナンの色褪せない思い出になる。
「そ、そっか。(彼氏と居るのを見ているなら大丈夫ね)そういえば、学校を歩いている女神みたいな美人ってアイ?」
「そうだな…今も徘徊してるぞ」
アイは魔導具科があるのを知り、気を使って外に出ている。ベンチで楽しく紅羽とお喋りしている事だろう。
「やっぱり、でも赤い美人って誰?」
「紅羽っていうんだけど、今度紹介するよ」
「…じー」
「…今度な」
王女に睨まれ、威圧を受けカナンの眼が泳ぐ。王女はミシルに連れられ出ていった時に威圧が解かれ、カナンはふうっと一息。
『ティナ嬉しそうだったわね』
「ああ、そうだな。二人とも学校は楽しいか?」
『ええ、教室以外は人が居ないから快適ね』
『色んな事勉強するのだな』
「歩き回るのは良いけど、二人を見て他の生徒が騒いでいるからほどほどにな」
『『はーい』』
学校が終わり、寄り道せずに帰宅。家に誰も居なかったので部屋に行き椅子に座る。
「そうだ、リーリアにドラゴン居るか訊くかな」
通信石を取り出しリーリアに連絡。
≪はーい、アキ?どうしたの?≫
「やあ、リーリア。オード兄さんがドラゴン倒したいって言ってるんだけど、ここら辺に居そう?」
≪んー…一応アキが住んでいる王都の近くの森に、緑竜は居るけど大人しいし、精霊と共存しているから駄目だね≫
「そうか、ありがとう。居なかったら帝都で闘技大会があるらしいから、そっちに行ってみる」
≪はーい、暇だったら来てねー。これからご飯だから切るねー。バイバーイ!≫
リーリアとの通信を切る。ご飯?プリンの間違いだろ、と心の中でツッコミ。
「じゃあ闘技大会観に行くかー。アイと紅羽は出場するか?当日参加可能らしいし」
『私達は無理よ』
「ん?なんでだ?」
『だって』
『だってなあ』
「だって?」
『『殺しちゃうから』』
「あ、そうだな…」
人のルールに縛られない二人には参加は厳しい様だ。




