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アイの誕生日

 週末になり。

 いつもより早起きしたカナンはアイに声をかける。

「アイ、誕生日おめでとう」

『アイ、おめでとう』

『ウフフ、ありがとう』


 そう、今日はアイの誕生日だ。

 5月の2週目の週末。

 王都はもうじき夏が始まる季節。


 予定よりも早く起きたカナン。

「あ、弁当でも作るか」


 台所へ行くと、母が出勤前のティータイムをしていた。

 年齢は30代後半のアラフォーだが、見た目は20代後半。流石エレンとカタリナの母だと思う美人だ。


「母さんおはよう、台所使うね」

「おはよう、カナン。良いけど珍しいわね」

「ああ、デートなんだよ」

「あら!んふふ、頑張ってね」


 珍しく素直に予定を言うカナンをニコニコしながら椅子から眺める母。


「あれ?そういえばこの家で料理するの初めてだな」

『いつも森の家だもんね』

「ああ、アイが召喚した海から魚出してくれるからなー」

『出す?』

「母さん見てるから居ない時な」

『はーい』

 精霊の森で昼御飯を食べる時は、アイが食材を調達しカナンが料理を作る。立場が逆だと思うかもしれないが、アイが食べたい物を作るのが趣味の一つなので二人は気にしていない。


 カナンは手際良く料理をする。

 水を出したり、火を付けたりは魔法を使いながら料理をするので前世よりも断然早い。


「あれ?カナンってあんなに料理出来たの?見た事無いわね」

「よく作ってるよ。ちょっと食べる?」


 出来たばかりのだし巻き玉子をお皿に盛り、驚きに染まっている母に渡す。


「卵焼き?えっ?何これ!美味しい!」

『私もー』

『我もー』


 母が眼を閉じて味を楽しんでいる間に、石から箸を持った手が飛び出て卵焼きをかっさらう。


「ちょっ!」

「カナン?どうしたの?」

「いや、何でもないよ。口に合って良かったよ」

(作り直しかよ)


 カナンはアイと紅羽の好物だから仕方ないかと納得し、再度卵焼きを作る。


「今度皆にも作ってあげて」

「そうするよ、はい、唐揚げ」

「唐揚げ?クックバードの肉かしら?」


 まだ出来立て熱々の唐揚げを、はふはふ食べて蕩ける笑顔。


「美味しいわねー。カナン料理人になれるわよ!」

「ははっ、良いんだよ。身近な人に食べて貰えれば」

(食材も違うし一から勉強しなきゃいけないしな)


『元プロだもんね』

『地球の味?』

「ようやく一人前になれた時に転移だもんなー」


 ははっと笑うカナン。


「母さん、朝ごはん用に皆の分作っておくから」

「ありがとう、助かるわ」


 皆の朝御飯に、パンと唐揚げと目玉焼きにスープを作る。普段はバスケットに盛られたパンを食べ、簡単なスープを飲む。一般的な家庭の朝御飯だ。


「あ、唐揚げ作り過ぎたな…母さん、作りすぎたから置いとくね」

「あら、美味しいからすぐ無くなるから大丈夫よ」


 作りすぎた唐揚げをテーブルに置き、料理を弁当箱に入れ。


「じゃあ行ってきます」

「カナン、気をつけて行ってらっしゃい!」


 母に見送られ精霊の森へ行く。




 森に着くとリーリアが出迎えてくれた。


『アキー、アイー、紅羽ー』

「やあリーリア」

「おはよう、リーリア」

「リーリア、おはよう」

『アイーお誕生日おめでとう!』

「ウフフ、ありがとう」


「リーリア、お弁当作ったから食べてくれ」


 リーリアに朝作った小さなお弁当を渡す。


『わーい!ありがとう!気をつけて行ってらっしゃい!』


「ああ、行ってきます」


 森から北へ飛び。


 山を越え。


 街を越えた先。


 まばらに木の生えた地帯へと降り立つ。


 元々精霊の森があった場所。


 アイと出逢った場所に。


 降り立った三人は辺りを見渡し。

「少し木が生えて来たなー」

「そうね、その内森になるのね」

「へーここでアイが生まれたのか」


 森がアイの海に流されてから、少しずつ成長し林になった元精霊の森を眺める。


「じゃあ早速やるかー」

「そうね」

「ん?何かするのか?」

「行けば分かるわ」


 毎年恒例行事の為にカナンが魔法の準備をする。


「アイは青色、紅羽は赤色の魔力を担当な、制御は俺がやるから」

「アキ、はい、精霊石」


 アイが1年貯めた精霊石をカナンに渡す。


 アイはこの為だけに精霊石を貯めていた


「はいよ」


 カナンは魔法を発動する。


 赤、青、黄、緑色の魔法陣を展開。


 魔法陣が球体になり立体魔法陣になる。


「おー、流石三人だと早いなー」

 やがて。


 魔法陣が輝き。


 魔法が完成する。


「クリエイション・ザ・ワールド」


 世界が変わった。


 太陽が輝き。


 心地よい風が吹いている。


 遠くには灰色の建物が並び。


 目の前には舗装された道が。


 近くに川が流れるその道には。


 沢山の桜の並木。


 満開の桜が咲き乱れる。


 誰も居ない世界が出来上がる。


「さあ、お花見しようぜ」

 去年と変わらない桜をしばし眺め思いに更ける。


 喋らない二人を背に大きな桜の木の下でシートを敷く。


「おう、終わったぞ?」


 動く気配が無く、疑問に思い、ふと二人を振り返る。


 アイは待ちに待ったこの時を、この桜を、幸せそうに眺め。

「綺麗ね」

「ああ、…綺麗だ」

 紅羽はキラキラとした瞳で初めて見る桜に魅了される。


「ははっありがとな。故郷ではここでお弁当を食べたりお酒を飲んだりするんだ。」


「アキの故郷行ってみたいわね」

「ああ、魔法の無い世界、でも我らは存在出来ないかもな」

「ウフフ、そうね。行ったら長くは生きられないけど、アキの故郷なら行く価値はあるわ」

「全くだ」


 アイと紅羽は命をかけても惜しまないと、最愛の人の故郷に思いを馳せる。


「はいはい、お花見するぞ」

「はーい」

「ああ」


 それから三人は桜を眺めながらお弁当を食べ、大きな桜の木にもたれながら語り合う。




「封印されている時は、こんな世界が見れるなんて思いもしなかったな。ありがとう、アキ、アイ」

「どういたしまして、紅羽が来てから毎日がもっと楽しくなったのよ」

「そうだな、賑やかになった」


 カナンとアイは急に畏まった紅羽を見て笑い合い、恥ずかしそうに笑う紅羽を見て三人で笑い合う。



 カナンはずっと言おうと思っていた事を、重大ニュース過ぎてアイと紅羽の反応が予想不可能な状態で切り出す。


「なあ、アイ、紅羽」

「ん?どうしたの?」

「最近知ったんだけどな、俺がアイに掛けた契約の魔法の事でさ」

「契約?エンゲージの事?」

「ああ、それな。祝福の上位魔法なんだとよ」


 カナンは照れるのか、頬を掻きながら告げる。


「えっ?それって…」

「ああ、アイの言っていた事は本当だったよ。初めて逢った日にプロポーズしたのは」

「アキ!」

 感極まったアイに抱き付かれ。


 紅羽は状況が飲み込めない。

「えっ?えっ?」


 そんな紅羽にカナンはストレートに告げる。


「俺達結婚してるんだよ」

「にゃ!にゃんだって!」

 紅羽は顔を真っ赤にしてテンパり。

「嬉しいよ!」

 アイも顔を真っ赤にして、涙を流しながら喜んでいる。


「まあ、改めて言うよ」

 ストレージから密かに作ったレインボーダイヤモンドの指輪を出し。

 アイの左手を取り、左薬指に嵌め、紅羽の左薬指にも嵌める。


 カナンは微笑み。


「一緒に生きよう」


 アイは蕩ける様な笑顔で。

「はい!喜んで!」

 紅羽は真っ赤な顔で。

「は、はい!」


「ありがとうな」

 カナンは二人を見て幸せに満ち溢れながら、二人を抱き締めた。





「アイさん、立てないんだけど」

「アキー好きー」

 アイは離れない。ずっと焦がれていた事が叶ったのだ。無理もない。


「我も、好きだぞ」

 紅羽もアイを微笑ましく想いながら、自分も忘れないでくれよとカナンに伝える。


「ああ、俺も好きだぞ、アイ、紅羽。本当は普通のエンゲージにしたかったんだが、女神の事を考えると、今のエンゲージの方が安全だからな」


「そうね。今のままなら大丈夫ね。それと、今のエンゲージより上位のエンゲージってあるの?」

「あるぞー…いや…無いぞ」

「…なんで言い直したの?」

「何か隠してるな」

「いや、これ以上だと石の中じゃなくて融合だからな」


 カナンが契約で守っている状態なので女神からの干渉は出来ない。しかし更に安全なのはカナンの中に住む事。しかしそれは思考と記憶が読み取られる事を意味する。


 もちろん二人は即座に動く。もっと一緒に居られる。全てが分かる。


「アキと一つになれる!」

「さあ!掛けてくれ!」

「嫌だよ!俺のプライバシーが0になる!」

「良いじゃない。アキの全てを受け入れるわ!」

「そうだな。受け止めるぞ」

「とにかく駄目」

「ケチ」

「夫婦なのに」

「一緒に生きるなら良いじゃない」

「いや、駄目だろ」


 自由を愛するカナンは頑なだ。頑固者めとにらみ合いが続く。一つになりたいアイと紅羽、最後の一線は守り切ると折れない心のカナン。



「まあ、それについてはまた話し合いましょ?ティナにも掛けてあげないの?」

「まだ王女だし」

「早くアキの子供みたいのよ」

「我も見たいぞ」



 王女を籠絡したのはその為かと渇いた笑いを浮かべ、子供と聞いて、カナンはふと思い出す。


「それなんだが…」

「ん?どうしたの?もしかしてもう子供いるの?相手は誰よ!」

「ちげえよ!何言ってんだ。ただの推測なんだが、他の魔王も吸収したら人間に近付けるかもしれない」

「…本当?」


 アイの頬に触れる、紅羽を吸収する前はひんやり冷たかった肌に触れる。


「ああ、アイが人間らしくなっている。こんなに温かい…ファンタジーな世界だから十分有り得るんじゃないか?」


 温もり。

 柔らかい印象になったアイは、子供が出来たらなんて幸せなんだろう。そう思いを馳せもじもじしながら。


「そ、そうかしら?」

「まあ、逆もあるかもしれない。神に近付いているとか」

「物語では女神の子供は出来ているわね…ウフフ」

 神に近付くと言うならば女神なぞ踏み越えてやろうと不敵に笑う。



「とにかく、俺はこれからブラックホールの研究しなきゃなー。トイレに流れた琥珀の魔王が何処に行き着いたか調べないと」

「深碧は何処に居るのかしらね」

「ん?緑なら少し前かな…我の参拝に来たぞ」

「「えっ?」」


 意外な情報に目を白黒させるアイとカナン。


「少し話したが…安全な場所に封印されている我を羨ましがっておった。冒険者の様な格好していたし、魔の森の向こうへ行くか、ダンジョンに行くか悩んでいたぞ?」

「意外と人間の生活を楽しんでそうだな…」

「アキ、探そう」

「ああ、そうだな。」


 なんにせよ、会わないことには分からないなと話し合いながら、残りの魔王を探すと決意に燃える。


 ……


 世界が歪んでいく、魔法の効果が終わりを迎えていた。


「そろそろ時間かー」

「今回は長かったね」

「三人だったからな」

「来年はティナもね」

「ああ、そうだな」


 やがて世界が消え元の林に戻る。



「帰るか」

「ええ、旦那様」

「だ、旦那様…」

「普通に呼んでくれないか?」


 嫌よと二人に言われカナンは頭を抱え、冗談よと笑い合う二人を見て振り回される未来を想像する。


 精霊の森へ行き。

 リーリアが空の弁当箱を持って登場。


『皆おかえりー。おしかったよー』

「ああ、良かった」

 洗っといたよと、私にもこれくらい出来るんだぞと言う目を向けているリーリアから、弁当箱を受け取り。


 夕方頃に帰宅。


 丁度母も家に居たようで、目が合いニヤニヤする母に迎えられる。


「ただいま、母さん」

「カナンおかえり、デートはどうだったの?」

「ははっ大成功だよ」

「あら!お祝いね」

「大げさだなー」

「ああ、そうそう。唐揚げだけどリナが全部食べちゃったのよ。今食べ過ぎで寝込んでるわ」

「ありゃ、気に入ったならまた作るかな」

「そうね。でも泣きながら食べてたけど何かあったのかしら?」

「ん?そうなんだ。最近元気無いからな」

「気に掛けてあげてね。お兄ちゃん」

「そうするよ」


 部屋に戻り


「明日はリナとアイが会うけど、あいつ大丈夫かな?」

『故郷の味ね』

『故郷の味だな』

「ん?何か分かるのか?」

『確認しなきゃね』

『楽しみだな』

「なんだよもう」

『ウフフ』


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