王女と踊る
夜になって王女へ連絡した。通信石に魔力を通す。
≪カナン君!どうしたの?≫
「今日行って良いか?」
≪うん!待ってる!≫
王女は快く承諾。ということで王城へ侵入。
もう慣れたもんだなと思い、お風呂には寄らせて貰えず、真っ直ぐ王女の部屋へ。カーテンを開け入る。
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい。カナン君!」
王女が嬉しそうに笑顔で迎えてくれた。
「今日は頼みがあってなー」
「頼み?」
「ダンス教えて」
「ダンス…ふふふ、良いよ。でもどうして教わりたかったの?」
「踊る機会があるかもしれないんだ」
「ふーん。(噂の子かな?)」
カナンは仕方ないと言うように照れながら頼み、王女は少しの嫉妬を覚えながら頼みを受けた。
王女は進み出てまずは基本を教える。直ぐ近くに好きな人が居る、それだけで心臓がバクバクし、それを隠そうと平静を装う。
「じゃ、じゃあ基本からだね。姿勢を良くして、右手を私の肩甲骨に」
王女は顔が赤くなりながら手を握り、カナンが王女の肩甲骨に手を当てホールドの形になる。
「あ、だめだ」
「王女どうした?」
王女は我慢出来なかった。こんなに近くに居る。手を取り合っている。ホールドを解きカナンに抱き付く。
「あの…少し…こうさせて」
「あ、ああ」
『あら、良い感じね』
『王女って可愛いな。おっ?チューするのか?』
(見物ですか…紅羽、おっさんみたいだぞ)
『ダンス覚えなきゃいけないからね』
『そう、ダンスを見届けないと』
(……)
双子の様な青と赤の掛け合いに疲弊するカナン。
……
王女は少し落ち着いたのか一歩離れてカナンと相対する。
「ありがとう。カナン君に彼女が居るって聞いて…最近気持ちがモヤモヤして」
「…拗らせたヤツが居るからな」
『褒められたわ』
『良かったな』
『アキ、王女は受け入れちゃ駄目なの?』
(そもそも身分が違うし)
『面倒だな、人間というモノは』
『王族辞めれば良いじゃない』
(そんな簡単じゃないの)
『アキ、私王女に会いたいんだけど』
(変な事言うなよ)
『大丈夫よ、納得してもらうだけだから』
(ん?わかった)
まだ会わせるのは刺激が強いかもなと、ウフフと笑うアイを思い浮かべる。
「……はぁ…なあ王女」
「…はい」
「今、王女に会いたいってヤツが居るが…良いか?」
「えっ?はい?」
一瞬で石から出てきて、アイがスッとカナンの隣に降り立つ。
「初めまして、アイ…フジシマです」
(おい)
ニッコリと挑戦的に笑う、藍色のドレスを来た少女に。
「な…う(強…過ぎる)……クリス…ティーナです」
美貌、気品、包容力、全て自分とは比べられない高みの存在。女として気圧される王女はなんとか挨拶は出来たが。
「貴女は、彼の隣に立てるかしら?」
私と隣り合ってと言外に告げる。
「立ち…たいです。いや、立ってみせます!」
負けない。私が勝ってみせると、力強い眼でアイを見据える。
「ウフフ、でも今の貴女じゃ無理よ」
「何故、ですか?」
「彼はこの国の…貴族…王族を憎んでいるわ」
「嘘…ですよ。だって彼はここに来てくれる…」
王女の自信に真っ向から受け止める為に。
カツカツカツとアイは王女に近付き真正面から見詰め合う。
「隣に立ちたいなら、知らなきゃいけない」
「知る?」
「貴族が、王族が、彼に何をしたのかを、ね」
「訳が、分からないです。彼は平民…貴族と関わるなんて無いはず…」
「知ったら、後戻り出来ないかもしれないわよ?」
知ったら王女でいられるかしら?と言いたげにニッコリ笑う。
「それでも、知りたいです。たとえ、この国を嫌いになろうとも…」
王女は覚悟を見せる。この想いは本物だ。彼女なら立ち上がる。そう確信したアイの口角があがった。
「ウフフ、話してみて分かった。私、貴女好きよ。良いわ」
貴女も座りなさい。そう言って椅子に座った。
アイと王女がそれぞれの思惑で見詰め合う中。
カナンは独り。
(あれ?声が出ない?身体も動かない?アイさん?もしかして俺に零の時間使ってる?アイさん?アイさーん!)
もがいていた。




