図書館には行けません
「おはようカナン」
「おはようモリー」
『学校というものか』
『勉強する所よ』
『字の勉強したい』
『教えるね』
脳内会話を聴きながら学校へ来た。仲が良いなー、波長が合うのかな?など思いつつ、薬草学の授業をモリーと一緒に受ける。
「珍しいね、カナンが薬草学科で起きてるなんて」
「たまには聞かないと評価下がるからなー」
「結果が全てだからいいんじゃない?」
「まあな、ポーションなんて寝ながら作れるし」
「白目剥いてササッとポーション作ってるの見るとマジでキモいよ」
「キモかろうが実技は単位が取れりゃ良いんだよ、モリーだってグレーターポーション作れるだろ?」
薬草学科は調合、精製などの実技と、座学、採取など薬草に関して全般を習う。広く浅くという具合だ。詳しく勉強したい人は卒業したら専門学校へ通う事になる。
『友達という奴か?』
『そうね、アキとモリーはいつも一緒に居るの』
『ふーん、じゃあ我とアイは友達か?』
『そうね、ウフフ』
『はははっ』
(頼むから音声切ってよ)
『アキったら私達を邪魔者扱いしてるわ』
『出るか?』
『そうね』
(すみませんでした)
カナンが気さくに喋る男の人間が珍しいのか喋り続ける紅羽。学校を目にして、友達というモノを目にして、人間というのはこうやって交遊を深めるのかと感慨深い様だ。
「カナンに教えて貰ったからねー。何処でそんな知識覚えたのさ」
「ちょっと伝があってなー」
「ホント、何でも出来るよねー」
「苦手な事だってあるぞ」
「どんなことさ」
「服のセンスが悪いらしいぞ」
「そうなの?今は似合ってるけど…」
「毎朝選んでもらってるんだよ」
式が無い日は服装は自由なので、アイが張り切っている。アイ曰くアキに任せたら一緒に歩けないと。
『私がコーディネートしてるのよ』
『朝選んでいたな。そういえばアキの魔装ダサかったな』
『あれは無いわ。あの時私、アキの魔装初めて見たのよ』
『料理しそうな格好だったけど…あの靴はなんだ?ダサすぎて思わず龍の制御が狂って攻撃出来なかったぞ』
『本来であれは木で出来た靴なのよ。風情があって良いのだけれど…七色に乱反射してるのは無いわ』
(泣きそうなんですけど)
「カナン?どうしたの?」
「いや、目にゴミが入ってな」
メガネを外し目から出た汗を拭う。
「そういえば今度、合同課外授業あるってさ。」
「そうなんだ、何処でやるんだ?」
「少し遠くの森だって。専攻によって違うけど、薬草学科は採取するだけだね。」
「手芸学科とかはどうするんだ?」
「それは一般専攻の魔法とか騎士で護衛訓練だよ」
「採取なら楽そうだな」
「そうだねー。二人ペアで組めるからカナンと僕で申請してあるから安心してね」
「おう、助かる。ありがとな!」
『アイ、モリーだっけか?アキの事好きなのか?』
『男の友情ってヤツよ』
『へー』
紅羽は思う。我はそんなに気を使えない。モリーに少しだけ嫉妬した紅羽。
授業が終わり
「「じゃあ」」
モリーと別れ
「今日は帰りに図書館行くかなー」
おねーさんに会いに行くかと、カナンが1人呟くと…。
「「よいしょ」」
アイと紅羽が勝手に出てきた。何事かとカナンを警戒させる。
「さ、アキ。帰りましょう」
「ア、アキ。帰るぞ」
「…アイの魔力が底上げされたから自由に出られるのか?」
「そうね。これでいつでも一緒よ」
「我もアイと一緒なら出られる」
アイはカナンの右側に立ち手を繋ぎ。
紅羽は左側に立ち腕を組んだ。
えっ?図書館行くの駄目なの?というカナンの声はスルーされ。
「アイ?逃げないから手をゆるめておくれ」
アイが気持ちを込めて握る。カナンの手がミシミシいっている。どうやら気持ちを込めすぎた様だ。
「あれ?アキごめんね。紅羽を吸収してから力加減が難しくて」
嫌だわ。馬鹿力みたいじゃない。そう言ってウフフと笑う。しかし眼は笑っていない。
「そうか、なら良いんだ(多分嘘だな)」
「ねえアキ、前々から言おうと思ってたんだけど」
「どうした?」
「図書館の人、男いるわよ」
「嘘だ!」
「ほんとよ。だって私は人間の水分の流れとか分かるのよ?それに最近生理が来てないご様子」
アイの言うことは本当だ。カナンの健康管理はアイしている。水分量が足りなかったら水をくれるし、栄養のバランスまで診てくれる。
「……ぐっ…」
カナンは胸を抑える。受け入れたくない事実に、身体が拒否反応を示している様だ。
「アキには我らが居るから大丈夫だ」
「そうよ?忘れなさい」
潔く諦めなさいよと二人は呆れた眼で見る。
「…薄々感じてはいたさ…」
天を仰ぐカナン。封印していた記憶を呼び戻す様に、哀愁の漂った立ち姿。見る者のテンションを下げるような負のオーラ。
「あら?そうなの?」
「…ああ…街で眼鏡をしていないおねーさんが男と居る夢を見たんだ」
「現実を夢として処理しようとしてるわね」
「見苦しいな」
「しばらく図書館禁止ね。きっと暴走するわ」
「我らで忘れさせてやろう」
「ウフフ、そうね」
「…帰る」
カナン少年の憧れは、憧れで終わりそうだ。




