煉獄の戦乙女
深紅の髪と、蒼色の鎧のコントラストが、夕陽の絵画の様に空に輝く。
戦乙女と呼ぶにふさわしい、強さと美しさに…思わず見惚れてしまう。
「アイ、魔法は俺が斬るから攻撃は任せた」
「りょーかい」
カナンは三徳包丁を持ち、アイはメリケンサックを嵌めた拳を握り構える。
『認めよう。貴様らは強い__業火!』
紅羽は空を飛び高速で旋回。
2人に炎を放ち力を溜める。
業火をカナンが対応。
「_ざく切り!」
包丁の軌跡が炎を斬る。
当たる事無く、四散していった。
『蒼炎の腕!』
蒼いレーザーの様な突き技をアイに放つ。
アイは即座に紅羽に向き合う。
「__撫で返し」
なぞるようにかわしながら槍の側面に手を当て、
「__震擊」
ゴッ!__
槍を跳ね上げ懐へ、
アイの拳が青く光る。
「__氷爆鉄拳」
冷気を纏う拳で正拳突き。
『__がっ!』
胸を突き蒼い鎧を砕く。
『なめるな!爆砕擊!』
槍を振り下ろし、
接触した瞬間…
ボンッ__
「__くっ」
爆発し、アイが吹っ飛ぶ。
紅羽の後ろに回り込んでいたカナンが魔法を発動。
「やるねえ、アイを吹っ飛ばすなんて。_ブリザード・ストライク!」
不意討ちの猛吹雪が叩き付けられる。
『くっ、__業炎!』
紅羽を守るようにうねる炎。
相殺。
熱い蒸気が吹き荒れた。
蒸気が吹く瞬間。
体制を整えていたアイが、
「__鬼走り」
戦車の様に強く踏み込み駆ける。
『_極炎連衝!』
迎え撃つ紅羽は炎の連続突き。
アイは表情を変えず攻めを切り替え、
「_浮雲」
雲を思わせる体捌きでふわりとかわす。
空中で紅羽の肩に触れ、
「波壊」
ドンッ!__
波の衝撃。
紅羽は地面に叩き付けられバウンド。
『ぐはっ!』
空中に投げ出される。
アイが下に潜り込み、
「ウフフ、滝登り」
水を纏う脚での強力な蹴り技。
ドンッ!__
紅羽を高く跳ね上げる。
そして上空には…
赤、黄、灰色の魔方陣が輝き、
カナンと巨大な金属の杭が待っていた。
「待っていたよ紅羽。__アダマント・パイルバンカー!」
紅羽の顔がひきつる。
ゴンッ!__
爆音と共に金属の杭と衝突。
『が…はっ!』
超高速で地面に叩き付けられた。
地面との衝突で砂塵が舞い、
カナンはアイの元に降り立つ。
「タフだなー」
「魅惑のダイナマイトボディだから手加減したの?」
「いや…してねえし」
アイの冷えた視線に、カナンの目が泳ぐ。
「帰ったらお仕置きね」
ガラッ_
カナンとアイの前では、付け焼き刃の闘いは通じない。
それを物語る様に、ボロボロの魔装。
『…ふん…やはり届かぬか。だが、負ける訳にはいかない』
力を抜き目を閉じる紅羽。何かを受け入れる様な行動にカナンの首が傾げられる。
『力が…欲しい』
そして魔王が、力が欲しいと願う。
周りを燃やしていた炎がフッと消えた
「___っ!まずい!仕留めるぞ!」
カナンが焦りだし魔法を発動させる。
ドクン__
紅羽の身体が波打つ。
アイは状況を把握出来ない。
何故カナンが焦っているのか。
「ん?どうしたの?」
「あいつは、紅羽はもう条件を満たしてる!」
「えっ?うそ…だってほとんど反属性しか使ってないのに」
「その前からだ!紅羽は千年以上も負の感情を溜め込んで来た」
「じゃあ。力を求めたら」
「ああ、属性を得る。この場合は…闇堕ちだ」
千年以上も溜め続けた退屈、苛立ち、不満、殺意そして嫉妬が加わり負の感情が折り重なる
そして本来力を欲する必要の無い存在の魔王が、
力を渇望し覚醒する。
闇の魔力が紅羽に宿った。
ドオオフ!__
黒い炎が立ち昇り
『なん…だ?力が…溢れる!』
蒼い鎧が変質。
黒い炎の鎧に変わっていく。
カナンの青色の魔方陣が輝く。
「ブリザード・ストライク!」
紅羽は吹雪に向かって手を伸ばす。
『__黒炎』
黒い炎が吹雪をかき消した。
紅羽は黒い炎を眺めて、少し考え込む。
なるほど…一言呟いて、ニヤリと笑う。
「遅かったか…属性を得た魔王は階段を1つ上がり」
『……くっくっく、さあ今度こそ仕切り直しだ』
漆黒の戦乙女が黒い翼を広げる。
赤黒い巨大な魔方陣が出現した。
「魔皇となる…。こりゃ絶界使わないといけないかなー」
「強くなった?」
「ああ、力はオリジンぐらい、何より知恵がある分オリジンより強い」
「あらあら」
カナンは防御魔法を発動。
「ダークネス・ガード!」
付け焼き刃だが、闇を防御する膜が二人を包む。
更にカナンが魔法を発動。
白色と青色の魔方陣を展開する。
アイが素早く飛び出し、
「__水車」
水流の回転蹴り。
『__ふん』
バシィと捕まれぶん投げられる。
「ホントだ。強くなってるー」
アイがくるっと空中で体制を整え、着地。
カナンが隙を見て魔法を放つ。
「シャイニング・ブリザード!」
純白の吹雪が紅羽を浄化していく。
『ぬっ、黒翼』
翼から黒い炎が噴き出した。
純白の吹雪がかき消される。
「ははっ、超位の複合まで効かないか……来るぞ!アイ!」
「守ってね」
赤黒い魔方陣が点滅。
紅羽は上空へ飛ぶ。
両手を前に突き出して、魔力を解放。
強い力が溢れ出した。
『ぐっ……行くぞ…赤龍』
魔方陣から赤い炎の龍が現れる。
「あれは奥義で倒した赤い龍?」
『__白龍』
白い炎の龍が出てくる。
「白いのも出たよ?」
『__蒼龍』
蒼い炎の龍が現れ…
「まじかよ」
「あと1つね」
「ちょっ……言うなよー」
『__黒炎龍!』
そして、黒い炎の龍が現れた。
『くっ……暴れるな…』
二人は四匹の龍を見上げる。
統一されていない動き。
魔法制御がとても難しいのだろう。
紅羽の顔が歪んでいる。
「うわ…まだ紅羽が制御に身動き取れないのが救いか」
「頑張ってね」
「アイの包丁もあるぞ?」
「……」
「お願い、無視はやめて」
「まっ、なんとかなるか」
カナンは魔法を発動。
七色の魔方陣が展開される。
「俺も魔装使うかなー」
包丁が七色に輝き、
カナンも七色に包まれる。
次第に形が作られていく。
鎧…ではない。
真っ白い白衣に…
清潔感のある白い前掛け。
白い和帽子…
まるで和食の板前さんの様な…
そして…七色に乱反射する下駄……
「……アキその下駄_「言わせねえよ!」_よ」
睨み合う二人。
アイはどうしても言いたい。
カナンの魔装を見るのは始めてだったから、誰かに言われる前に言いたい。
「…超ダサいよ」
「アイさん…言い直さなくていいから」
『仲間割れか?なんだ…あのダサい靴は』
「…まじで泣くぞ」
カナンはやけくそに魔力を込め、音速で飛び上がる。
「春は料理するこの姿を格好良いって言ってくれたぞぉ!__奥義壱式!__三枚下ろし!」
もうカナンは前世の過去にすがるしかない様だ。
すれ違い様に赤龍が三枚に下ろされる。
直ぐさま白龍に向かう。
「__奥義弐式!__一口大に斬る!」
後ろから白龍が食べやすいお手頃な大きさに切り分けられ…
「__奥義参式!__平作り!」
蒼龍が食べやすいサクの形に切り分けられる。
「はぁ、はぁ奥義…零式」
ストレージから1対の刺身包丁を取り出す。
カナンが一番愛用している必殺包丁。
『__黒炎龍!噛み砕け!』
黒龍は大きな口をあけ、カナンに喰らいつく。
そしてカナンは黒炎龍に呑み込まれた。
『ふん、他愛も無い……なに!』
黒龍の動きが止まり、シュパンッと包丁の軌跡が舞う。
黒炎龍が頭を残し薄く切り分けられた。
「……舟盛り」
『……』
「名前…ダサッ」
『くっくっく、本当にお前らは面白い』
紅羽は目を閉じて、心底面白そうに黒い魔力が噴き出す。
カナンがアイの元に降り立つ。ダサいダサいと言われたカナンの表情は浮かない。確実に拗ねている。
「お疲れ様」
「…おう」
「春って妹さん?」
「ん?ああ、前世のな」
「ふーん」
ふと上を見上げた瞬間、
赤黒い立体魔方陣が現れる。
「げっ!」
「環境魔法?」
アイが一歩踏み出す。
カナンは紫色の巨大な魔方陣を展開。
あの状態で環境魔法を使おうものなら、多くの人間が死ぬ。
「アイ、絶界を使う」
「仕方ないなー」
カナンはストレージから、一振りの青い鞘に納まった刀を出してアイに渡す。
「本気で行け、その間に何か対策を考える」
「アキ」
アイはカナンに背を向け、
天に向かってピースをする。
まるで勝ってくると言うようなVサイン。
「ははっ、通りで。分かったよアイ」
紫色の魔方陣が輝く。
「__絶界」
カナンと街をドーナツ状に覆う透明で巨大な結界が出来上がる。
そして、赤黒い立体魔方陣が妖しく輝いた。
『煉獄の世界』
黒い炎の塊が現れる。
全てを燃やす、
黒い太陽。
『最後の…戦いだ』
カナンは絶界の中でアイを見送る。
その表情は、心配と信頼が混ざった表情。
「任せた」
アイは微笑み、青い刀を持ち紅羽に向かって歩く。
「ウフフ、がってん承知の助」
藍と紅が対峙した。




