紅の鼓動
長い年月。
その者は閉じ込められていた。
『……』
――――
過去、その者は生まれたと同時に全てを燃やし尽くした。
人も魔物も燃やし、大地は焦土と化した。
そして、その者を討たんと多くの者がやってくる。
しかしその者はそれらの者を燃やし尽くした。
燃え盛る炎の中で。
その者は寂しく笑っていた。
やがて誰も近寄らなくなった時、
一人の女が現れる。
その者はいつもの通りに女を燃やそうと炎を向ける。
しかし炎は動かず、攻撃を受ける。
初めての痛みを受けた。
更には狭い空間に閉じ込められる。
『………』
――――
それから千年以上もこの狭い中で過ごした。
退屈、苛立ち、不満、殺意。
負の感情が折り重なる。
唯一見えるもの。
小さな丸い窓からの光景。
沢山の人間が此方を見ている。
手を合わせ頭を下げている。
自分を憎き女神だと?
『…』
笑わせる。
――――
ある時変化が起きた。
力が増している。
ピシピシ
『……力が』
出られるかもしれない。
ありったけの力を込める。
『…足りない』
しかし希望は見えた。
その者は小さな窓を張り付くように見る。
目的の物を持っている人物を探した。
じっと観察する事2週間。
引き寄せられる感覚と共にそれを見つける。
『…見つけた』
それはまだ成人していない少年。
この感覚…持っている筈だ。
『…精霊石』
しかしどうやって受け取れば良いか分からない。
ふと気付く。
自分は女神として扱われている。
それなら女神として精霊石を捧げてもらえば良い。
『…ふふ』
何年振りか分からない笑顔を浮かべ、力を振り絞り声を届ける。
『…少年よ、我に精霊石を』
神殿内にその者の声が響き渡る。
ざわざわざわざわ__
ざわめきの中で少年はじっと此方を見ている。
「…良いぜ」
『くっくっく』
思わず笑いが洩れる。
少年が近付いて来た。
『赤の宝石に精霊石を』
その声を聞いた少年はニィッと笑い。
封印された紅の宝石に。
精霊石を押し当てた。




