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休憩しながら兄を魔改造

 

 カナンは黒焦げの魔物をストレージに回収し、焼け焦げた場所から離れて少し休憩をする。

 魔物が居なくなって、空気が澄んだように感じた。


「格好良かったよ。Sランク冒険者のパーティー二、三個必要な魔物を一人で倒せるのは流石だね」


 シートを敷き、日陰に二人で座る。今日の反省と考察をしながら、改善点を探っていた。


「全部カナンのおかげさ。小さい頃から鍛えるのを手伝ってくれたし、さっきもサポートをしてくれたからな」


「まあ才能あってこそさ。勇者なんて魔装展開するのに三分掛かってたよ。三分だけ時間を稼いでくれ! っていう決まり文句がウザかったし…」


「はははっ、そうなのか。そもそも勇者って強かったのか?」


「一応勇者だからね。魔装さえ使えば人間の中では強かったよ。魔王にとどめ刺したのも勇者だし」


「へえー、魔王と勇者が戦ってる時、カナンは何してたんだ?」


「ん? 確か……おっさんと一緒に晩ご飯を作っていたよ。魔王討伐祝いに豪華にしなきゃいけなかったから忙しくてね」

「ぷっ、何やってんだよ。おっさんって龍王のおっさんだよな。相変わらずマイペースなんだな」


 寝転びながら笑うオードは、勇者の物語に憧れていたが、カナンの話を聞いている内に勇者の幻想は脆くも崩れ去っていた。

 カナンが勇者のマイナス面ばかり話す事が原因なのだが…


「周りの評価って、俺は荷物持ちの役立たず。おっさんは強いけど怪我をしている変態気分屋だったからね」


「勿体無いよなー。勇者より強いのに評価されないし」


「いいんだよ。下手に評価されると一生国に飼殺しだよ?」


「はははっ、まあ…そうだな。…カナンは…どうやって強くなったんだ?」

「俺は兄さんと違って凡人だったからねー。時空魔法で自分の時間を加速して修行したんだよ。その中で何年も何十年もね。お陰で半分人間辞めてたな」

「なんか想像出来ないな。でもその中って年は取るのか? バレなかったのか?」

「あぁ、エリクサー飲めば一年くらいなら年を取らないんだ」


 ストレージから出した七色の液体を見せる。エリクサーと言えば、物語に出てくる伝説の霊薬。国に一つあるだけで、一目置かれるような貴重な物。

 オードはカナンが色々な事に無頓着な理由が解った気がした。


「エリクサーって……存在していたんだな……」

「今は前世よりは才能があるから、後五年くらいすれば全盛期を越えれるはず」


 グッと拳を握る。オードに取って、カナンの全盛期がどんなものか解らないが、きっと世界を変える程の力を持つのだろうと推測していた。


「俺も強くならなきゃな」

「なれるさ。俺がついてるんだし」


「頼りにしてるぜ。魔法使い殿」

「ははっ、了解。蒼炎の騎士殿」


 拳を当て、二人で笑い合う姿は…兄弟というよりは親友に近い関係になっていた。



「あっ…そうだ」カナンは思い出し、ストレージから黒くて丸い石を取り出す。


「なんだこれ?」

「ナイトメア・グリズリーの魔石。兄さんが倒したんだから持っときなよ」


 黒光りしている魔石をオードに渡すが、オードは魔石を陽の光に当てて眺める。


「おう、ありがとう。でもこんなの渡されても使い道無いぞ?」


「そうだよねぇ…魔力上げるなら精霊石で良いし……兄さん、黒色魔力を取り込んでみる?」

「取り込むって、そんな事出来んのか?」

「普通は出来ないよ。最近、分解して吸収する魔法作ったんだよ。試しにやらせて」

「それって、実験体かよ……まあ強くなれるなら良いぞ」


「ふふふ、流石兄さんだよ。じゃあ魔石持ってて」


 カナンは七色の小さな立体魔方陣を展開。


「2回目だから割りと楽に展開出来るなー。分解・吸収」


 オードの持つ黒い魔石は塵となり、オードの中に入っていった。


「あんまり変わらない? あ…なんか少し魔力が増えた気がする」


「多分これで黒色の魔法剣使えると思うよ」


「よし! やってみるな!」


 オードが立ちあがり魔力を練ると、ダイヤソードが黒色に変化していく。


「おお! 流石に魔装は出来ないけどこりゃすげえな!」


「いや、一発で魔法剣展開出来る方がおかしいよ。とりあえず練習だね。技は教えるから」

「おう、いつも助かる!」


 オードの魔法剣はカナンの知識がベースなので、チートな性能を有するのだが、覚えが早すぎてカナンはもう呆れているレベルだ。


(天照なんて少し理論を教えた程度だぞ……才能って怖いわ)



「今回はお疲れ様。報酬はとりあえずその剣にしとくね」

「いや、これじゃ貰いすぎだぞ」

「お金でも良いけどね。冒険者より稼げるから将来安泰だから」


「はははっ、まあ生き残ればなー」


「そんなに依頼があるわけじゃ無いから、焦らず強くなれば良いさ。そろそろ帰るよ」

「わかった」


 もう用事は無いので、西の山を後にした。



 ______




 精霊の森に到着。


 アイは石から出てきて、家の前にある椅子に座る。

 精霊の森には虫はほとんど居ないので快適そうに過ごしている。


『おかえりー』

「「「ただいま」」」


『どうだったー?』

「オード兄さんが一人で倒したよ」

『流石アキのお兄さんだねー!』

「おう、次は楽勝で倒せるように頑張るぜ!」


『ふふふ、頼もしいね。今度来たときに良い依頼あったら紹介するね』

「よろしく頼むよ」


 ふよふよと精霊がやって来て、プルプルと矢印の形を取る。矢印がカナンとオードに挨拶をしに来た。


「おう、矢印。元気そうだな」

「ウフフ、こんにちは。矢印」


 アイが矢印をつんつんすると、嬉しそうに蒼い光が点滅している。


「へえ、精霊かぁ…初めて見た…綺麗だな!」


『矢印がありがとうだってー』


 オードもつんつんすると、嬉しそうに蒼い光が点滅した。


『そうだ、オリジンの件の精霊からお土産だよー!』


 リーリアが家の裏手を指すので、見てみると…

 そこには一メートル程の宝石が積んであった。


「きっと冷えた熔岩の中から見つけてくれたんだな。ありがたく貰うよ!」


 宝石を全てストレージに仕舞う。宝石を見たアイがカナンにおねだりをしている様子を、オードは呆然と眺めていた。


「カナン、凄まじい量の宝石だな……報酬ってすげえな」


『前回はねぇ、それだけ危険な依頼だったんだよ。精霊石も貰ってるよー、はいっ!』

「ありがとな。アイ、精霊石いるか?」

「うん、貰うよ」


 アイに精霊石を渡すと、嬉しそうに仕舞っていた。



「そろそろ帰るよー」

「おう」

「ええ」

『まったねー!』


 リーリアと矢印に手を振り、精霊の森を出た。


 ______



 夕日が射し込む王都に帰ってきた。人々が行き交う様子はいつもの通り。賑やかな様子は、帰ってきたと実感出来るものだった。


「カナン、今日はありがとな!」

「ん? こちらこそだよ。兄さん」


 二人で家に入ると、姉がリビングで寛いでいた。


「あらおかえりなさい。珍しいわね、二人で出掛けるなんて」

「ただいま。エレン姉さん」

「おう、ただいま姉ちゃん! たまにはな!」


「ところで姉さん。魔法大会はどうだったの?」

「もちろん勝ったわよ。でも本戦は辞退したの」


「あれ? 来週何か予定あったの?」

「それはね、オードが戦った貴族の親戚が出るから」


「あー…わりいな、俺のせいで」

「兄さんのせいじゃないよ。レイモン家とマルゼン家が悪いんだから」

「そうよ。その家が関係する試合は全て出ないつもりなの」

「エレン姉さんの晴れ舞台が観れないのは残念だなぁ…」

「でも学院の最後の年は出ると思うわよ。ボコボコにしたいし」


 ふふふと冷笑を浮かべる。弟の晴れ舞台を台無しにした貴族を心底嫌っている様子。

 カナンの楽しみが増えた。


「うん。応援行くね」


 そう言って部屋に戻るエレンを見送る。カナンとオードは顔を見合せ、ははっと笑い合った。


「王国は天才魔法使いも手放してしまったね」

「はははっ、そうかもな」


 二人で部屋に戻る。オードは横になり、カナンは机に向かって黒い笑顔を浮かべていた。


「さて、貴族様には良い夢を見させようかなー。くっくっく…」


「はははっ、悪い顔してんぞ」

「兄さんもヤるかい?」

「俺には向いてないからな。任せるけど、ほどほどにしとけよ」

「ふふふ、分かってるさ。ほど良いくらいにね……さぁ、いつヤるかな。早い内が良いよな」


 カナンがワクワクしながら、魔法理論を構築する姿に…オードは苦笑し、味方で良かったと心の底で感じていた。







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