兄と山へ。2
『グルルル!』
焼け焦げた身体に闇が覆い始める。
やがて、プスプスと立ち上る煙は消え去った。
まるで傷を消し去ったかの様に元の黒い毛並みへと戻るが、少し動きがぎこちない。
回復というより、闇の包帯というところか…
(ありゃ回復か?いや、闇で覆っているだけか。動きが鈍い)
オードは次の技を放つ為に剣を構え、意識を集中していた。
のっしのっしと近付いてくる熊はやがて走り出し、
ドッドッド!__オード目掛けて突進してきた。
『__グガアア!』
迫り来る猛獣。
少しの恐怖は感じていたが、オードの目は落ち着いていた。
ナイトメア・グリズリーが残り五メートルに差し掛かった時。
オードも動く。
ダイヤソードから蒼い炎が燃え盛り、「__蒼炎十字剣!」
ゴオオオ!__十字に切り裂く斬撃を放つ。
丁度二本足で立ち上がった瞬間に直撃。
蒼い炎がみぞおちを中心に焦がしていく。
オードは深追いは危険と判断。後ろに下がり、剣を構え様子を見ていた。
『グオオ!』
身体の炎は中々消えず、再び肉の焼ける匂いが立ち込める。
ナイトメア・グリズリーは崩れ堕ちそうになる身体に渇を入れるように踏ん張り、耐えていた。
『グオオ!』ナイトメア・グリズリーから黒色の魔力が溢れ出す。
「なんだ? 魔法か? 闇属性上位くらいなら使いそうだけど…」
「カナン、これ大丈夫か?」
「よっぽど大丈夫だよ」
グズグズと闇が蠢き、ナイトメア・グリズリーにまとわりつく。攻撃では無い。防御の魔法だ。
「兄さん、防御魔法だよ!」
「わかった! それなら攻める!」
オードは勝機と魔力を練り上げ、ナイトメア・グリズリーへと駆ける。
「__爆裂剣!」
至近距離からの爆発攻撃。
ボンッ__左腕を飛ばす事に成功した。
「よし!」
いけると判断。次の手に出る瞬間…
「__兄さん!」
ナイトメア・グリズリーの身体に纏う闇が、鋭い針と化す。
ザシュッ!__オードの腹に直径10センチ程の黒い針が刺さった。
「ぐっ……」
オードが怯んだ隙に、鈍器の様な右腕が強襲。
ドゴンッ!__打撃を受けボールが跳ねる様に吹っ飛んだ。
「__ぐがっ!」
吹っ飛ばされたが、オードはまだ息があり、動いている様子。
痛みにたえながらも立ち上がろうとしていた。
「あちゃー…カウンターとは予想外だな」
カナンはオードが動いているのを見て安堵し、魔法の解析を始める。
その間ヒーリングプラスが効き始め、少しずつオードの傷が治っていく。
ふらつきながらも起き上がるオードは、ニィッと獰猛な笑みを浮かべる。
「くくっ、そう簡単にはいかねえよな」
熊の戦闘スタイル…突進やカウンターを見て、カナンはオードに助言。
「こいつは近距離タイプだと思うから、遠距離攻撃主体かな」
「おう!」
魔力を練り上げ、ダイヤソードを燃え上がらせる。
「蒼炎破斬!」
蒼い炎の斬撃が飛び、それを見た熊の闇が増加。
直撃し、ボオオオオ!__直線上を焼き付くす。
「なに!」
炎が消えると、そこには先程と変わらぬ姿があった。
毛皮が焦げた様子も無い。
「これは、吸収? いやそんなに高度じゃない…となると炎を曲げて受け流しか? ……兄さん! 直線的な攻撃はだめだ! 多方向から!」
「おう! やってみる!」
『ガオオオオオ!』
オードの炎に呼応するように、熊の闇が増していく。
ボンッ!__闇の弾が五つ出現。
熊の周囲に浮いている。
「攻撃魔法を使えたんだな。あれはダークバレットかな」
闇の弾がオードに向かって放たれ、
それを見たオードは円を描くように走り出した。
「__蒼炎連斬!」
闇の弾をかわしながら炎の斬撃を繰り出していく。
多方向からの斬撃は闇の弾を破壊。
闇の弾を呑み込み、そのまま熊へと向かう。
『グオオ!』
熊は蒼い炎を闇で受け流しながら、炎を闇の弾や右腕で打ち払っているが、
徐々に焼け焦げた身体になっていく。
「戦い方が上手いねー。野性的というか、これは化けるな」
カナンはウキウキしながら兄の分析。
これからどう鍛練を組ませるか、何を伸ばすか楽しみで仕方無い。
だが、熊が慣れてきたのか、次第に弾かれる炎が多くなる。
「遠距離攻撃が効かなくなってきたな」
ついには全てが弾かれていった。
「ハァ、ハァ…くそっ」
オードは距離を取り、息を整える。
すると、熊に変化が起きた。
闇の力が更に増していく。
まるで命をかけるような。
全てをかけるような魔力の上がり方。
力強い瞳でオードを見据えていた。
「兄さん」
「ああ、言われなくたって分かるぜ。俺も気合い入れるか!」
気持ちに応える様にオードも魔力を増す。
「カナン、見ててくれ。これが今の俺だ!」
魔装を解除し、魔力を剣に集中していく。
「……」
剣を構え、熊と対峙する。
静寂が支配し…
木々のざわめきだけが聴こえる。
ザワッ_風が強く吹いた。
それを合図に両者は駆ける。
『グオオ!』
熊の太い右腕が振り下ろされる。
「__剣技・清流」
流れる様な動きで振り下ろしを躱し、懐へ…
バシュッ!__撫でるように斬りつける。
『ガアア!』
痛みに熊が怯んだ隙に次の技へ…
オードの剣が緑色に光る。
「__疾風剣!」
風を纏いし剣で、
すれ違い様に素早く何回も斬りつける。
振り向き様。
剣が黄色に変わり…
「_、地剣・崩撃!」
脇腹へ鋭い鈍器の様な一撃。
熊が体制を崩した。
剣が青色に…
「水流蓮華衝!」
流れる動きで突く突く突く。
連続突きで熊の身体に無数の穴が開く。
『オオ……』
「とどめだ!」
オードは飛び上がり、
剣は再び蒼い炎に包まれる。
「__炎剣奥義!」
剣の先から大きな蒼い炎の塊。
蒼い太陽の様な光が美しく辺りを照らす。
「__天照!」
ゴオオオオオオオ!__
爆音が響き渡る。
満身創痍の熊に、躱す余力はもう無かった。
轟音と共に蒼い小太陽が熊に直撃。
その命を刈り取った。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
魔法剣を解き、全力を出し切った身体は、いうことを聞かない。そのままへたりと座り込んだ。
そして、ナイトメア・グリズリーを一人で撃破したのを確信し、大の字に転がった。
「勝ったぞ! カナン!」
やりきった清清しい顔でカナンを呼ぶが…
「いや……これ完全に主人公だろ」
兄が格好良すぎて危機感を覚えた。




