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兄と山へ

 西の山へ飛んでいくが、オードは少し不安そうにしている。


「なあカナン…本当に大丈夫なのか?」

「まぁね。兄さんって最近本気出した事無いでしょ?」

「んー、そうだな」

「一回本気出したらわかるよ」


「本気か…でもSランクの魔物だろ?」

「らしいけど…まだ見てみないとなんとも言えないね。たまに依頼と違う奴が出るから」


 雑談しながら山の裾に降り立った。目の前には森が続いている。


「精霊は、居なそうだなー」

『きっと流れの精霊の報告なのかしらね』

「そうだなー」


 精霊はフラフラと世界を彷徨うタイプもいる。矢印も以前は、はぐれ者だったらしいが…


 鬱蒼とした森へと入る。ジメジメとした湿気が少し気持ち悪い。割りと虫が多いので、アイは絶対出てこない。


「じゃあ散策開始だね」

「おう、緊張してきた」


 二人で坂になった森を登っていく。時折耳を済ましたり、足跡などを調べる。まだ何か居る様子は見られない。


「索敵するような魔法は無いのか?」

「あるよ。でも使ったらこっちの居場所もバレる可能性があるから使わないんだ。まあ経験則で探し当てるのが常だね」

「へぇーしっかりしてるんだな」

「先手を取られたら不味い事もあるからね。おっ、大きな足跡」


 顔よりもデカイ足跡を発見。足跡に少し魔力が残っている。魔力の強さからビーストと判断した。


「これは、熊かな」

「熊か…となるとヘルベアー辺りか?」


「それだとただのビーストだね。亜種だから何か属性が付いてるんじゃない?」


 基本的に、魔物の突然変異は色々な属性が付きやすい。炎の熊や氷の熊…雷系統は強さが跳ね上がる。

 足跡を見付けたら後は簡単。風上を意識して辿るだけ。


「属性か…一応四属性使えるから、大丈夫だと思うけど」

「そうだね。兄さんは天才だもんね」

「馬鹿言うんじゃねえよ…そりゃお前だ」

「俺は天才じゃないよ。本気で努力しただけ」

「それも才能の内だ」

「ははっ、ありがとうね兄さん。でも兄さんが天才なのは確かだよ。魔装なんて普通の人間は使えないから」


「へへっ、ありがとな」


「__しっ」


 カナンは何か魔力の乱れを感じ、動きを止める。


「見つけたよ兄さん」

「どんな奴だ?」


 遠くの開けた場所に見える黒い影。

 大きさはおよそ三メートルと、ヘルベアーの五メートルに比べてそこまで大型では無い。


「あいつ、なんだっけなぁ」


 しかし黒い艶のある毛皮が、濃密な魔力を放ち、黒い毛皮がさらに黒く見える。


「…闇属性か」


 後ろを向いているので顔は見えないが、この山の生態系の頂点にいるかのような風格。

 余分な肉が無い引き締まった身体は、黒いライフルの弾の様にキレのある身体。


「あぁ…ナイトメアシリーズだよ。兄さん」

「ナイトメア?」


「闇属性の適正が強くなったビーストだねー」

「いや、闇って珍しいんじゃないか? 四属性より上位だぞ?」


「名前は確か…ナイトメア・グリズリー。まあ……兄さんが本気出せばいけるんじゃない?」

「おい、なんだその間は…自信もって言ってくれよ」


「大丈夫。準備良いかい?」

「あっ! ……すまん! ちょっと出かけると思って、剣持ってない…」


 手ぶらのオード。緊張からか、今頃何も持っていない事に気付いていた。もちろんカナンはそれに気付いていたが…


「ほいっと」

 ストレージからダイヤソードを取り出す。

 七色に輝くダイヤモンドの刃に、ミスリルの柄のシンプルな長剣。シンプルだからそこ輝きが増し、魅入られる輝きを放っている。


「…なんだよそれ…凄い剣なの分かるけど…」

「餞別だよ兄さん。入社祝い? みたいなモノ」


 オードにダイヤソードを渡す。材質が気になって仕方無い様子だが、予想が外れて欲しいと願っていた。


「な、なぁ…刃は何製なんだ?」

「ダイヤだよ」

「勿体無くて使えねえよ!」

「あー、まだまだ沢山あるから大丈夫だよ」


 ダイヤソードを十本程出して、どや顔をしてみるとオードが呆れた様子でカナンを見る。


「……わかったよ…壊しても弁償しねえからな」

「直ぐ直せるから、回収してくれればそれで良いよー」

「もう何でもありだな」



「そいじゃあやってみよっか。一応継続回復付けとくね。ヒーリングプラス…ダークガード」


 カナンは魔法を発動。オードを白い膜が覆い、闇属性を防御する魔法を付与する。


「ありがとな。じゃあ行ってくる」


 オードはナイトメア・グリズリーへと向かい、カナンは少し後から付いていく。

 五十メートル前まで近付いた。


「よし。やるか。蒼炎!」


 蒼い炎がオードを覆い、十秒程で蒼い炎で出来たフルプレートに包まれる。


「おー! すげーなこの剣! いつもの倍以上の性能だ!」


「いや、十秒で魔装出来る兄さんがすげーよ」

(俺でさえ三十秒かかんぞ、しかも詠唱破棄とかやべーだろ)


「じゃあ行ってくる!」

「サポートはするからねー」


 意気揚々と、ナイトメア・グリズリーへ剣を向け、目を閉じて集中し魔力を練る。

 蒼い光が強くなり、辺りを照らす。

 オードがカッ! と目を見開き…


「__蒼炎破斬!」


 一閃。ゴオォォ!__蒼い炎の斬撃が飛ぶ。


 ナイトメア・グリズリーが気付き、振り返るがもう遅い。


 斬撃が直撃した。


『__グアアアアア!』


 蒼い炎に包まれ、もがいている。


『グオオ…グオオ!』


 炎は消えずさらに燃え上がり、焼けた肉の臭いが充満してきた。


 そして、バタン!と崩れるナイトメア・グリズリー。

 呆気ない幕引きに思われた。


「やるねえ…一撃かぁ」

「やったか!」


「___っ! だめだ! 兄さん!」

「えっ?」

「それはだめだ…」

「な、なんだよ?」

「その魔法の言葉は…」

「その言葉?」

「戦闘が継続する……」


『グオオオオオオオ!』


 立ち上がる黒い影。

 プスプスと立ち上る煙。

 憎悪に満ちたその瞳は…


 オードを真っ直ぐ捉えていた



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