兄と精霊の森へ
語り合った次の日。
夜更かしをしたカナンとオードは眠そうにしながら、のっそりと起き上がり顔を合わせて、酷い顔してるなー…と言い合う。
「…おはようオード兄さん」
「おー…おはようカナン」
今日は光の日。
他のみんなは店で働いているので、遅く起きた二人の他には誰も居ない。
兄妹は率先してアルバイトの店番をしている。店が儲かっているのでアルバイト代が高いから。
(何するかな…兄さんにはある程度話してあるから、隠れ家に連れていくかー)
「ねえ兄さん」
「んあぁ…どした?」
「ちょっと出掛けない?」
「あー良いぞ。何処に行くんだ」
「んー…行ってから教えるよ」
オードは前日に試合があり、火傷を負っていたので安静にと言われているが、火傷はカナンが治しているので傷一つ無い。なので、外に出たいオードは元気だ。
鍵を掛け二人で家を出て路地裏へ行き、飛行魔法を発動する。
「そいじゃあ行こうーフライ」
「えっ? ちょっ、高い!」
路地裏から一気に真上へ飛び、精霊の森の方向へ高速で飛行。
「うおっ! 速い速い! すげえ!」
「ちょっとしたら着くから、景色でも観てなよ」
オードが景色を楽しんでいる間、カナンはオードのフライを操作。数十分程で精霊の森へ到着した。
「話には聞いていたけどすげえな!」
「ははっ、兄さんも慣れてくれば自分で飛べるようになるからね」
いつものお出迎えが無いので、隠れ家のドアを開けて中を確認。
「リーリア、いるかー?」
『アキー、知らない気配が来たからみんな逃げちゃったよ』
「ははっ、わりい。紹介するよ、オード兄さんだ」
『よろしくー。リーリアだよー。お兄さんワイルドなイケメンだねー』
「ちょっ…カナンこりゃ一体…妖精?」
「ああ、妖精のリーリアだ。ここは俺の隠れ家…職場というか研究所かな」
「…リーリアちゃん……兄のオードだ。よろしく。いやー、こんなところに隠れ家って…カナンもやるねえ」
びっくりして少し呆けていたが、順応性の高いオードは受け入れた様子。リーリアも交えて今の活動を教えていった。
「まあ、ここで薬や文献の研究と、精霊達からの依頼で魔物と戦ってるんだ」
「あぁ…たまに疲れて帰ってくるのはそのせいか」
「うん、まあ兄さんは騎士団に入らないなら将来どうする? 俺の仕事…手伝うかい?」
「そうだよな…騎士団は入りたく無いし…冒険者になろうか悩んでたんだよ。カナンの仕事なら手伝いたい!」
オードの言葉に感謝しつつ、カナンは真剣な表情になる。
カナンの仕事は危険が伴う。王種級と闘えなければ直ぐに死ぬ程に…
「ありがとう兄さん。そう言うと思ったから、連れてきたのもあるんだけどね。因みに仕事は、危険な魔物と戦う事が多いから…もっと強くならなきゃ直ぐに死ぬよ」
「ああ、分かってるさ。それでも手伝いたい」
『アキ』
「はいはい。兄さん紹介したい人が居るんだけど、気をしっかり持ってね」
「ん? ああ」
「アイ、出ておいで」
魔法陣から現れる藍色の美少女。
ふっふっふっ…と言いながら、今日はローブ姿をして魔王感を演出。またいつもの悪ふざけをしているようだ。
「こんにちは、初めまして。お義兄さん。アキの妻のアイです」
「おい」
威圧と魔王感を纏ったアイは微笑んでいる。アイもオードの意志を確かめるように、オードを見据える。
「__っ! あ…あ……う…」
至近距離からの魔王のオーラ。オードはまともに話すことも、まともに息をすることも出来なかった。
自分は強くなったという自負を打ち砕く程の圧倒的強者。
遥かに上の存在。
オードは膝を付き、なんとか耐えている様子だが…
「アイ、そんくらいにしとけ」
「ウフフ、ごめんなさい。お義兄さん。」
アイが威圧を解く。場の空気が一変。穏やかで澄んだ空気に変わる。
「__っはぁはぁ…はぁはぁ、やべえ」
立ち上がれない程の疲労感。
自分の弱さを実感していた。
「兄さん、再度聞くよ。俺の仕事はアイよりも強い奴と戦う事もある。…それでもやるかい?」
「……正直今の俺じゃ足手まといだ。でも…なんか…ワクワクしてる自分がいる。頼む! やらせてくれ!」
「わかったよ。歓迎する、兄さん」
握手をして立ち上がらせる。
「ありがとうカナン。それと、アイさん、挨拶遅れてすまんな。よろしく! オードだ! …にしても強者だなアイさん」
「ウフフ、さん付けしなくていいですよ。義妹になるんですから」
「そうなのか? カナンいつの間に強くて可愛い彼女作ったんだよ…」
「いや、彼女とかじゃない…ぞ?」
(あれ? 結婚してるから彼女じゃないよな? いやそういう問題じゃない)
「もう六年も一緒なんですよ? 初めて会った日にプロポーズしてくれて……きゃー」
アイは両手で頬をおさえ、クネクネしている。既成事実を作成中だ。
(おい、こじらすな)
「そ、そうなのか。カナンやるな」
「兄さん、後で誤解を解こう」
結局、誤解は解けず…カナンはそのままスルー。
「じゃあ今はアイちゃんと依頼をしているんだな?」
「そうだね。まぁ…俺もアイも魔法主体だから前衛になる兄さんは大歓迎さ」
「ああ、でも俺に前衛は勤まるのか?」
「んー問題無いよ。強化魔法は掛けるし、兄さんは相性次第では強いからね」
「そうか、そう言ってくれるなら大丈夫、だよな?」
『アキー、なんならちょっと依頼受けるかい? そんなに脅威じゃないから保留にしてある魔物は結構居るよ?』
「んー…そうだな。兄さん、ちょっとやってみるかい?」
「おう、早速だな。よろしく頼む」
『はーい、西の山にビーストの亜種が居るんだけど…どう? 一応冒険者達にも対応出来るレベルかな』
オードが驚く。ビーストと呼ばれる魔物は国が対応するレベルの危険な魔物…選ばれし者が対応するレベルだ。
「ビーストの亜種って…ただのビーストだけでも強いのに」
「アキ、ビーストって獣系?」
「そうだな。人間の中だと特別警戒指定レベルの魔物に属する総称かな」
「災害レベルの下くらいだから、お義兄さんなら大丈夫ね」
「カナン達の基準おかしくないか? Sランク依頼だぞ?」
「まっ、とりあえず行ってみるか」
アイは石に戻り、オードを連れて西の山へ向かう。
『行ってらっしゃーい。お土産宜しくねー』




