剣技大会を観に行こう3
『開始!』
「はっはっはっ、貴様はこれで終わりだ! 火よ! その姿を変え我の剣となれ! ファイアーソード!」
ボウッ__ベスタの剣から赤い炎が上がる。赤々と燃え盛る炎は、ベスタの性格を表す様に燃え盛っている。
『オオー!』『その年であれだけの魔法剣を!』
観客が湧いている中、オードは戸惑っていた。特別ルールがあるにせよ、何処まで力を出して良いものか…
「良いのかな…カナンの許可が無いと使えないし…」
「ん? 兄さん何やってんだ? もしかして俺の言い付け守ってる? んな訳……ある?」
オードはカナンをチラッと見る。呆れた顔のカナンを見て、「やっぱりだめだよな…」カナンのサインに気付かない。
「おらおら! よそ見している暇なぞあるのか?」
ボウッ__ベスタの剣から放たれた炎がオードに向かう。
「おわ! …くそ」
「あぁ…兄さん…律儀に約束守らなくても……リナ、ちょっと待っててな」
「う、うん。わかった」
カタリナに認識阻害のメガネをかけて舞台へ向かう。
スタスタと舞台の方へ歩き出し、丁度オードが炎を食らっていた。
「ぐわっ!」
『いやぁぁ! オード君!』『がんばってぇ!』『だめぇぇ!』
観客達がざわめく中、舞台の一番近くまで来たカナンは、すぅーっと息を吸い込み…「兄さん!」
オードを呼び、意識を向けさせる。
「うっ、ぐっ…カナン…」
「魔法剣使って良いからさ。早くその面汚しをブッ飛ばしてくれよ」
「ははは、わかったよ」
カナンがサムズアップでオードに行け行けと伝える。オードは、はははっと笑いサムズアップで了解する。
「なんだ貴様の身内か? この私が面汚しだと? 下賎な平民の身内も所詮下賎か!」
「……」
「兄さん、後はよろしくねー」
(俺は貴族の戯言は慣れてるけど……)
カナンは元の席へと向かう。ベスタの言葉に、オードがポカンとしていたが、次第に表情が抜け落ちてきた。
「……蒼炎」
ゴオォォ!__オードの一言で、剣が蒼白く燃え盛る。
__ざわざわ! 観客達は度肝を抜かれた。今まで魔法を使わなかったオードが急に魔法を発動。そして、見た事の無い炎の色…
『なんだあれは!』『炎の魔法剣?』『でも青いぞ?』
(兄さんは怒るだろうな、弟を貶されて…)
「てめえ、カナンになんつった?」
剣が蒼く燃え盛り、さらにオードの身体を包む。
包まれた炎が身体に纏わり付き、鎧の形を取り始めた、
(あーあ魔装まで……御愁傷様)
「__なっ! なんだそれは! 貴様さては卑怯な真似を! 審判! こいつはずるをしているぞ!」
ベスタが騒ぐ中、審判は茫然とオードを眺めていた。
この審判は知っていた。魔法剣の派生、魔装を。
かの勇者が切り札とした伝説の魔法剣。
『……蒼炎の騎士』
「くそっ! 俺は天才なんだ!」
ボウッ__ベスタは赤い炎を最大限に燃やし、オードに当てる。
しかし、オードには効かない。効かないどころか炎を吸収していた。
次第に顔まで蒼い鎧に包まれ、フルプレートメイルが完成する。
「リナ、おまたせー」
「にいちゃん、オード兄さんが蒼くなっちゃった」
「ははっ、そうだな。オード兄さんは凄いんだぞ? 魔装っていう伝説の勇者の魔法を使えるんだ!」
周りを味方に付ける為に、大きめの声で言う。観客もカナンの声を聞いて、周りに伝えていく。やがて、会場全体に勇者の魔法という言葉が伝わった。
『魔装?』『勇者だって』『じゃあ勇者様?』『カッコいい』
「じゃあオード兄さんは勇者なの?」
「いや、勇者は光の魔装だからな。兄さんは炎だから違うよ。でも兄さんはあと少しで勇者に届くくらいに強い」
「へぇー。ただの筋肉バカだと思ったら凄いんだね!」
「あ、うん。そうだな」
(聞いていない事を祈ろう)
オードが一歩踏み出すと、舞台の床が炎の熱に耐えられずに熔けている。
「俺の事は何を言われても良い……でも…家族の事を悪く言われたら…」
ゴオォォ!__オードの炎がベスタの剣に当たると、一瞬で熔けてドロドロになった。
「ひっ!」
「黙って居られる訳がねえ!」
蒼い炎がうねり上げ、ベスタに向かう。当たったら間違いなく灰になるエネルギー。「まずい! シールド!」
これは不味いと判断したカナンは、バレないように魔法を使う。
「ひぃぃ…助けてくれー!」
オードとベスタの間に透明な壁が出現。
シールドと蒼炎が激突し、相殺した。
間一髪で防げたが、これはお説教かなーとオードを見る。
「あぶねー、兄さんやりすぎだよー」
ベスタは気を失って、股間が湿り水溜まりが出来ていた。恐怖で失禁しているようだ。
「__はっ!これはカナンのシールド? ……あーやっちまった。俺もまだまだだなー」
我に帰ったオードだが、スッキリした表情でカナンに笑い掛けていた。そして、お説教な! というカナンのサインに顔が引きつる。
茫然としていた審判が、観客のざわめきを受けて我に帰った。
『あっ! 勝者!……』
『__待てぇい!』
審判の判定を大声で遮り、でっぷりとして、ゴテゴテの装飾をした男が舞台に上がる。
『大会本部長の私が宣言する! 今のは剣に関した魔法では無い! オードの反則負けだ! よって勝者はベスタ様だ!』
しーん……静まり返る。
そして…
『ふざけんな!』『ブーブー!』『勇者の魔法剣って聞いたぞ!』
物凄いブーイングが起きる。
相手が貴族だろうと無理もない。圧倒的な勝ちを見せ付けられた観客は、オードが優勝だと思っていたから。
「あー、やっちまったなー。あいつベスタの親か?」
「オード兄さん負けちゃうの?」
「どうだろうな。貴族ってアホだから。強すぎて負けるなんざみんな納得しねえし…もし負けたら王国は物凄い損害を得る」
「そうなの?」
「ああ、伝説の魔法剣を使える奴が国に愛想尽かすんだぜ? くっくっく、見物だなー」
「にいちゃんの悪い顔…素敵」
ブーイングが起きる中…
「………」オードはなにも言わず舞台から去っていった。
ヴヴヴ__王女から通信が入る。
「おー王女、あのおっさん誰だ?」
≪マルゼン子爵です。すみません、力及ばず……≫
王女は落ち込んでいる声で謝るが、正直面白そうな事態になっているのでカナンはご機嫌だ。
「別にいいぞ。頑張ってくれてありがとうな。兄さんには説明しとくし、多分怒っていないぞ。自分の未熟さがどうこう言ってる筈だし…それよりも王国の損害がでけえなー。くっくっく」
≪……お兄さん凄すぎ。下手したら騎士団長より強い……もう、笑っちゃって! 王国に恨みでもあるの!?≫
「ははっ、恨みなんざ数え切れない程にある」
≪えっ? あっ、ごめん!≫
ぷつりと通信が途切れた。
「マルゼン子爵ねえ、ベスタと一緒に悪夢でも見させてやるかな?」
「にいちゃん…つまんないから帰ろ?」
「ん? あーそうだな。帰るかー」
結局、優勝はベスタに決まった。
当然だが、怒る観客は暴動寸前まで行き…
表彰式は観客は全員帰り、貴族席の貴族だけが居る状況。
他の観客は直ぐにこの話を触れ回った。
オードも火傷の為退席し、直ぐに帰宅。
スペシャルゲストの第三王女も帰る始末。
波乱の剣技大会となり幕を下ろした。
______
家に帰り、二人部屋にてカナンとオードは向かい合っている。
呆れる表情のカナンと、ばつの悪そうに笑うオード。
「オード兄さん…ちゃんと時と場合を考えなよ」
「わりい、ありがとな…蒼炎防いでくれて」
「……兄さんこそ俺の為に怒ってくれてありがとう」
「頭に血が登って殺しちまうとこだった。すまん」
「まあ失格なのはムカつくけど、騎士団の誘いを断る理由が出来たから良いんじゃない?」
オードは以前から騎士団への誘いが多数ある。義理で見学には行くが、断る理由が特に無かった。
「まあなー、俺には堅苦しいのは合わないから。貴族を守るのは嫌だし…」
「はははっ、そうだねー。そういやベスタの奴、最初から身体強化使ってたよ」
「あー、どおりで急に速くなったのか…」
「まあ何にせよ、これから大変だよー。蒼炎の騎士様」
もうすでに蒼炎の騎士と噂になっている。ファンの数も…
「変な2つ名付いたもんだよな…カナン…聞きたいんだけど…」
「ん?」
「俺はカナンに並び立てるくらいに…強くなれたかな?」
「…何言ってるんだよ兄さん。俺は…」
「お前が遥かに強い事なんて分かってるさ」
真剣な表情で見据えるオードに、カナンは敵わないなー…と呟いた。
「……流石、兄さんだね……怒ってくれたお礼に少しだけ教えてあげるよ。ねえ…伝説の魔法使いって知ってる?」
「ん? 勇者より強い魔法使いだっけか? それがどうしたんだ?」
カナンとオードは、遅くまで語り合った。




