剣技大会を観に行こう2
『開始!』
『キャー』『がんばれー!』『がんばってー!』
「「………」」
両者は動かない。相手選手が警戒するように睨み、オードは様子を見ている。
「決勝は五分経ったら一分のインターバルがあるから、下手したら長期戦だなー」
オードは刃引きの長剣を持ち、相手は刃引きの長剣と盾を持ち対峙している。
カナンはパンフレットを見ると、軽く情報が載っている。
「へぇ…剣技だけなら兄さんと同じくらいだぞ、あいつ。えーっと…ベスタって名前だな。レイモン侯爵家の貴族で次男だとさ。他の兄妹は、長男が跡継ぎで今は近衛騎士、妹二人が俺と同じくらいで貴族学校に通ってる」
「ふーん、貴族なんだね。なんか偉そうな奴」
「まあ大体の貴族は偉そうな感じだぞ? おっ、動くか」
______
オードが攻める。
「おりゃ!」
突きを放つが、キンッ__弾かれる。
払い斬りを止められ、距離を取られるがオードは距離を詰めて袈裟斬り。
キンッ__ベスタは落ち着いた表情で剣を弾く。
「しっ!」
突き上げを放つが、ベスタの防御に阻まれる。
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「おー、流石聖騎士の家系だなー。防御が上手い」
「凄いね、オード兄さんの攻撃を防ぐなんて」
「今年はレベル高いなぁ…」
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攻守が逆転。ベスタも攻める。
「ふっ!」
シールドバッシュを放ち、オードとの距離を取ると。
盾の陰からの突きを放つ。
キンッ__肩を狙うが、オードが手首を捻って剣を当て弾く。
弾かれた剣を力任せに方向を変え、凪ぎ払い。
キンッ__雑な攻撃は直ぐに見切られ、弾かれた。
「ふんっ、貴様やるな」
「そっちこそ!」
剣の打ち合いが始まる。
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「あれ?」
「にいちゃんどうしたの?」
「いや……(ベスタは身体強化魔法を使っている? ルールでは駄目な筈だ……審判とグルか?)」
______
激しい打ち合いの中、両者鍔迫り合いの力比べ。
「くっくっく、勝つのは私だ」
ベスタは身体強化魔法の出力を上げ、
オードを弾き、肩、腕、脚と高速の連撃。
(くっ、急に早く…)
連撃を弾ききれず、オードの左腕に剣が刺さる。
ベスタの顔が愉悦に染まり、畳み掛けるような怒濤の連撃が始まった。
______
「ベスタの奴、出力上げたな…どうするかな。こんな卑怯な真似聖騎士が見たら泣くぞ」
「うぅ、痛そう…兄さん大丈夫かな?」
「まあ、大丈夫だ。オード兄さんだぞ?」
(不味いなー兄さん真面目だから魔法使わなそうだし…)
______
徐々に一方的な展開。
ベスタが攻めオードが防御しているが、長くは持たない。
「ほらほら!」
「ぐっ…」
『両者待て!』
五分経ち、一分の休憩。
両者陣営に戻る。
______
「兄さん大丈夫かなー」
「まあ多分大丈夫かな(どうするかなー。兄さんに言っても魔法無しでやるだろうし…ん?)」
ヴヴヴ__王女から通信が来た。
「(どした?)」
≪カナン君、私も試合観てるんだよ! お兄さん大丈夫かな?≫
「(王女も居たのか。ベスタの奴、身体強化魔法使ってやがるぞ。どうなってんだ?)」
≪えっ? 確認してみます!≫
『両者前へ!』
一分の休憩が終わり、両者が対峙。
オードの腕には包帯が巻かれている。回復魔法は終わってからというルールがあった。
「止血はしているけど、兄さんはそろそろ本気出すのかな?」
「兄さんがんばれー!」
カタリナは心配な様子で、一生懸命応援している。
カナンはどうするかなー…と、ボーッと眺める。止めてもオードは怒るだろう。
______
「ふっふっふっ、生き延びた様だが次は無いぞ」
「流石は聖騎士の子孫って奴か…」
オードが構える。先程とは違う構えに、ベスタの眉がピクリと動くが、どうせハッタリだろうと鼻で笑っていた。
「行くぜ…剣技・清流」
スッと流れるような動きで切り付ける。
「なに!__っ!」
ベスタの腕を斬りつけた。しかし、かすり傷程度。剣を振る事に支障は無い。無いのだが、ベスタの表情に怒りの感情が見え始めた。
「浅いか」
「貴様!」
ベスタは身体強化魔法を重ねて行く。
ベスタの全身に魔力が行き渡り、魔力の流れが見える者が首を傾げる程に、違和感のある闘い。
「剣技・二段斬り」
しかしオードがベスタを剣技で圧倒していく。
「ぐっ、くそ!」
______
「オード兄さん、剣技が上手くなったな」
「剣技って何?」
「修練したら得られる技だよ。習得には相当な努力がいるんだけど…流石兄さんってとこだな。兄さんが圧倒しているけど…こりゃ次のインターバル行くか」
『両者待て!』
また五分経ち、両者陣営に戻る。最初はベスタが優勢、次はオードが優勢になるという展開に、会場が湧いている。
今年は良いものが観れた…という声が聞こえてくる。
「なんかハラハラするねー」
「端から見れば良い試合だよな…」
ヴヴヴ__王女から通信が入った。
「(どうなった?)」
≪すみません、問い詰めたけど…悪化したかも…≫
『特別ルールを行います!』
ざわざわと会場がざわめく。特別ルールがあるなど聞いた事が無いからだ。
『身体強化、魔法剣など剣に関する魔法の使用を許可して試合を再開します!』
オードは驚き、えっ…と呆けている。今までは何だったんだ? という目を審判に向けていた。
≪じゃあ魔法ありでやりましょう、って押しきられて……どうしよう、お兄さんが危険だよー!≫
「(あー、うん。問題無くなったわ)」
≪えっ? それってどういう…あっすみませんまた≫
王女に誰かが話し掛け、プツリと通信が途切れる。
「魔法って…オード兄さん大丈夫かな?」
「問題ねえよ。兄さんは魔法剣に魅せられた一人だ」
______
『両者前へ!』
「くっくっく、魔法有りになったな。レイモン家は聖騎士や魔法剣士を排出している家系だ。これで貴様に勝ち目は無くなった!」
「えっ? 良いの? 魔法剣使って…」
「命乞いをするなら今の内だぞ?この俺をこけにしやがったから、泣いて謝っても叩き潰すがな! はっはっはっ」
『開始!』
「オード兄さんの魔法剣は、俺より上手いんだ」




