原始の炎
グツグツと滾るマグマの上を飛ぶ。辺りは火山灰が降り注ぎゴオッと火柱が上がる。
三千メートル級の山が吹き飛び、マグマが冷えて固まった新しい山が出来ていた。
マグマに照らされながら、カナンとアイは圧倒的なエネルギーに顔を見合せて乾いた笑いを浮かべる。
「すげー環境破壊だな…」
「でもこのくらいなら、精霊は死なないわよ」
「まあ魔素の塊だからな、それでも沢山の動物や魔物は死んだはず…」
その中心に、マグマで出来た巨大な顔と腕が存在していた。
「第二形態は凄まじいな」
「お怒りね」
「そりゃ…顔吹っ飛ばしたら怒るわな。とりあえず絶海を輪の形にして周りから冷やしてみてくれ」
「…絶…輪?」
「それ違う、漢字が違うけどやめろ」
最近アイは、秋が過ごした世界の文字を勉強中。ひらがなとカタカナはマスターし、漢字に挑戦中だ。
「ウフフ」
アイは悪戯に笑い、大きな藍色の魔法陣を展開。
その時、ゴオオオ!と火柱が狙ったように襲いかかった。
「あぶねっ! もしかして狙えるんか」
次々と立つ火柱をカナンがアイを抱えて回避。アイがカナンに頑張れーと言っている間に魔法が完成。
「__絶海・円」
オリジンを囲むように、ドーナツ型の絶海を展開。
ジュウウウ!_と音を立て、周りから少しずつ冷やしていく。
「凄い水蒸気だな。中心が見えない」
絶海が通った後は、冷えて固まった溶岩が黒い岩になって出てくる。
モクモクと煙が上に逃げ、熱気が離れていても伝わっている。
まるで巨大な温泉があるかの様に…
「……」
アイは絶妙な魔力操作でマグマとオリジンを冷やし、しばらくしてオリジンは沈黙。
モクモクと水蒸気が出る中、炎を防御する為の魔法を発動。
「イグニース・ガード」
カナンとアイが赤銀の衣に包まれ、アイの藍色のドレスに赤色が映えている。
「ドレスアップね」
アイはくるっと回り、カナンは呑気だなーと苦笑。
「…中心に行くぞ」
巨大な顔の所…口の部分まで行き、五メートル程の大きな核の部分を目指す。
「壊すぞ」
カナンは魔法を発動
赤と灰と黄の魔法陣を展開。
「最近それお気に入りね」
「男のロマンだ…アダマント・パイルバンカー!」
大きな金属の杭が出現。爆発の推進力で射出。
ガキィン!__と響き渡り。
全く突き刺さらない。
「__硬い! なら! バラージ!」
連打のキーワードを唱える。
ガガガガ!_とパイルバンカーを爆裂連打。
『グオオオ!』
核は少しへこんだ程度…
ボオオオオ! と再び顔から炎が吹き出し、マグマが復活。
カナンは危険を感じ、急いで退避。ため息を付きながらどうするか考える。
「振り出しかー…硬いな」
「アキ、もうあんまり魔法使えないかも」
「そうだよな…周辺が赤色魔力に満たされてるから、アイには厳しいか…このままじゃジリ貧か」
エリクサーを飲みながら考え、アイは落ち着いた表情だが、少し辛そうだ。
ゴオオオ!__再び火柱が襲い、連続して火柱が上がる。
「うおっ! 狙ってきたな」
中々仕留められないカナンに、焦れたようにマグマの腕が大量に出現。
一つ一つが見上げる程の巨大な腕…ボタボタとマグマが垂れ落ちる。
そして二人を捕まえようと腕を伸ばしてきた。
『グオオオオ!』
苛立ちが見える咆哮。
マグマの腕を躱していくが、火柱も上がって来た。
単調な攻撃だが、シューティングゲームの様に連続して発生し、カナンは止まらない攻撃に焦る。
「くっ…捕まったら助からないな」
「アキ、トイレの黒い奴は?」
「トイレの黒いの? ブラックホールか? あれかー…やってみるか」
カナンは不安に思いながらも魔法を発動。
黒色の魔法陣を複数展開。
「ぐっ…さすがに高位の禁術はキツいな」
魔法陣が形を変え、立体魔法陣に変化していく。
「アイ! 防御頼む!」
「らじゃ」
アイが青色の魔方陣を展開。
「__氷壁」
ピキピキと分厚い氷の壁が出現。高密度の氷は、まるで鉄壁の要塞。
それを見ているのかは解らないが、オリジンに動じた様子は無い。
同じように、マグマの腕と火柱を駆使し、攻撃を繰り返す。
氷の要塞に火柱が叩き付けられ、マグマの腕が氷を殴り付けボタボタと氷が溶けていく。
カナンの立体魔方陣が回転し、
ジュウウウ!__マグマが固まる音が所狭しと響き渡り、水蒸気が視界を遮る。
「…もう少し………出来た! シュバルツシルト・ブラックホール!」
ブォンッ!__
漆黒の球体がオリジン付近に出現。
特異点が重力場を形成。
強力な引力によりマグマを引き寄せる。
『グオオオオオ!』
マグマが引き寄せられ、漆黒の球体に吸い込まれていく。
際限無く吸い込む掃除機の様に、次々と吸い込む。
周りのマグマを吸い込むが、オリジンは動かない。不思議に思いながら吸い込んでいく。
「吸い込まないね」
「大地に根でも生えてんのか?」
やがてマグマは全て無くなり、残るは赤黒く光るオリジン。
マグマを出さずに沈黙しているオリジンに近付いてみた。
「完全凍結すればまた眠るかな?」
「絶氷やってみる?」
「よろしく」
アイが青色の魔法陣を展開。
「__絶氷」
ピキピキとオリジンは凍結し、動かなくなった
「………」
「勝った?」
「かなー。でも、赤色と黄色の最上位魔物だから、何かありそうで」
ピシピシ__
「そういえば…」
「どうした?」
「オリジンのマグマって固有魔法なの?」
「じゃないかな? 魔法っていうより、現象を引き起こすとか直接マグマを召喚したんじゃないか?」
ピシピシ__
「ふーん、迷惑よね。マグマ出すだけだして寝るなんて」
「ま、そうだな。特に目的なんて……目的?」
何かに違和感を感じる。
「なんで身体は無いんだ? 無い? 創世記には……」
創世記という書物には、女神の抱擁にて眠りにつく。
そして、女神の輝きを眼にした赤の暴君は夢を見る。
醜い自分を見て、夢を見る。
「自分も…輝く存在になりたい…」
ピキピキ__
「マグマには何がある? 溶けた岩石、地殻、マントル……マントルの中には……ダイヤモンド……んな訳あるか、考えすぎか」
カナンは、ははっと笑い、自身のあり得ない推測を笑い飛ばした。
オリジンは、自分を脅かす存在などいなかった。
起きたら暴れ…
疲れたら寝る。
故に進化なぞ必要ない。
パキピキ__
ピシピキ__
だが、自分を脅かす存在に出会ってしまった。
バリバリ……バリバリバリ!
「アキ」
ならば…
「まじかよ、道理で硬い筈だ」
進化をしよう…
ガラガラガラガラ__
オリジンが崩れ、核だけが残る。
「あの核は…ダイヤモンド。しかも異世界のダイヤモンドは、熱にも強い、靭性も高い」
核が変形。
オリジンがマグマの中で探した鉱石。
無機生命体だからこそ出来る、宝石との融合。
赤色と黄色に煌めくその身体は…
美しく硬い。
「完璧なんだ」
「高級な魔物だね」
煌めく五メートル程の上半身が、大地に立っている。
ダイヤモンドの身体。
「…はぁ……もうこの変身で最後にしてくれよ」
イグニース・ガード~火、無、星属性複合超位魔法、赤色の攻撃を超位規模まで防御する
バラージ~バーストとは違いパイルバンカーを連打させる
シュバルツシルト・ブラックホール~闇、重力属性複合禁術、一般的なブラックホールを形成、重力の特異点を作り出し超重力により周囲を引き寄せる




