山へ2
二人で巨大な顔を観察する。空から見ないと顔だとは解らない程に大きな岩の塊。
「これが本体かな?」
「身体は無さそうだね」
「これで身体あったら、世界やべえぞ」
「フフフ、そうね」
「来るぞ!」
『グオォォォオ!』
大きな口から放たれる咆哮と共に、巨大な右腕が振り下ろされる。隕石が落ちて来た様な高速の威圧感、重量感。
巨大な岩の塊を、カナンはアイを抱き抱えて躱す。
「動きは単調だな」
大地に衝突音が響き、土と一緒に草木が上空まで舞い上がる。
「あら、口の中にあるのって核かしら?」
パラパラと土が落ちる中、大きな口の中に宝石の様な核らしき物が見えた。
核を潰せば大体の魔物は倒す事が出来る為、カナンの目が輝く。
「よし! あれを潰せば…」
早速口の中へ、しかし巨大な顔は気付いたようで…
ガチン!__勢いよく口を閉じて噛み砕こうとしてきた。
「__っあぶねぇ!」
ガチン!_ガチン!_来たら噛み潰すといわんばかりにガチガチと岩の歯を噛み鳴らす。
「入れないなー、もう全部吹っ飛ばせばいいかな?」
「とりあえず、さっきと同じのやってみたら?」
「そうだな」
カナンは先ほどと同じ魔法を五つ発動。
赤、灰、黄の魔法陣を五つ展開された。
「_アダマント・パイルバンカー!」
巨大な杭が五つ出現。
ドゴォオン!_ドゴォオン!_
黒光りした杭が爆発の力で勢いを増し、次々と巨大な顔に突き刺さる。
「__バースト!」
ボゴォォン!__
刺さった杭が爆発。激しい爆風が吹き荒れ、砕けた岩が飛び交う。
そして連続した内部からの爆発により、顔の半分ぐらいが吹っ飛んだ。
ガラガラと崩れる顔に、表情の変化は無いが…魔力の流れが変わっていく。
「よし、いけるな」
「なんかおかしくない?」
「ん? なんか来るのか?」
「少しずつ沈んでいるのよ」
よく見ると、ズブズブと沈んでいるような…縮んでいるような…何か力を溜める様に凝縮している。
「何かするのか?離れた方が良いか」
ゴゴゴゴゴゴ!__
大地の揺れが激しくなる。徐々に揺れが変化…何か共鳴するような揺れに変化していた。
安全を考え、少し距離を取ったその時…
ゴオォォォ!__大きな顔から火柱が立った。
「爆発……いや違う! 噴火か!」
「熱いねー」
顔からマグマが溢れだし、周囲を赤黒く染めていく。
ボコボコと周囲は火の海と化し、どんどんマグマが溢れてくる。
「益々わかんねえな…こいつ」
ヴヴヴ__通信が入った。
≪アキー、聞こえるー≫
「おーリーリア。なんか分かったか?」
≪精霊が口を割ったよー≫
______
カナンが話している時に、手持ち無沙汰のアイが動き出す。
「冷やせば良いのかな?」
アイは藍色の魔法陣を展開。
______
≪ちょっと言いにくいんだけどねー≫
「なんだ? ヤバいやつか?」
≪オリジンだって≫
「オリジン? ……は? あれって作り話じゃないのか?」
≪その話は分からないけれど、過去に暴れて眠りについていたらしいんだ、気を付けてね!≫
「…ああ、分かった」
カナンはリーリアとの通信を切り、どうしたもんかなー…と悩んでいると、ふと藍色の光に気付く。アイの方を見ると…魔法陣を展開していた。
「ウフフ、絶海」
オリジンと呼ばれた魔物をすっぽり包む程の、大量の海水が出現。マグマの溢れる顔と腕が沈んでいく。
「アイ?何やっ…て…」
そして、深海に沈み…
ボコボコと音が聞こえ始めた。
「ウフフ」
アイはやりきった笑顔でサムズアップ。褒めて褒めてという顔を向けて来るが、カナンは表情が引きつってアイを見ている。
「なあ、アイ」
ボコボコという音が、だんだんと激しくなってきた。
「なーに? アキ」
「嫌な予感がするんだ」
「あら奇遇ね。私もよ」
にっこりと笑い合う中、やがて音は嫌でも聞こえるくらいに激しくなり、海水がギュッと縮んだ。
「捕まれ! 逃げるぞおおおお!」
「愛の逃避行ねー」
カナンの表情には焦燥しかない。これは不味い…という気持ちしか無い。
出来るだけ遠くまで…全速力で逃げる。
ボコボコボコ!__
大量の海水が、超高熱のマグマに熱せられる。
ボコボコと水蒸気が大量に発生し、次に起きる事は当然…
ドオォォォオオ!__
大爆発。轟音に重なる轟音。
マグマ水蒸気爆発が発生。
大量の熱が辺り一面に発生し…
一瞬にして死の大地になる。
ドドドドド!__
そして、上空で冷えたマグマが隕石となり降り注ぐ。
オリジンとは、太古の昔から進化をしていない生命体。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「危なかったね」
進化をする必要がないほどに圧倒的なエネルギー。
「あー、うん。説明してない俺も悪いか?」
「てへへ」
創世記の文献には、赤の暴君が暴れる記述があり…
「久々の大物だなー」
「どうしようね」
女神の抱擁により、再び眠りについたという…
「たしか…アグニ・ボルケーノ・ジ・オリジン」
「火の神?」
「赤色魔物の始祖と言われているオリジン種」
「赤色最強なの?」
「いや、最強じゃないが。生命力がすげーんだ」
「穴…埋まっちゃったもんね」
巨大隕石でも堕ちたかの様な水蒸気爆発で空いた大穴。
戻ってみると、既にマグマで埋まっていた。
深紅に染まる大地が、死の大地を思わせる。
「まあ、簡単に言うと…」
「言うと?」
「強い」
「ウフフ」




