店番
カナンが待ちに待った週末が来た。
ブライトはここ最近、メガネを警戒している。リビングに置いてあったメガネにビクッとしたり、洗面所のメガネを見て叫ぶ始末。
「おはよう。ブライト兄さん」
「おはようカナン。今日は店番手伝ってくれるんだって?」
「そうだよ。大変そうだしね…兄さん手首に傷あるよ、見せて」
「ん? そうか?」
ブライトは手を出した。
ガチャン__
前置き無しに、早速手枷を嵌める。
「カ…カナン…こ…これは何かな?」
そこには凄い美人が立っている。金髪で、透き通った白い肌。少し切れ長の目に、形の良い鼻。それとエロい唇。
ミス王都があったら間違い無くグランプリを獲れる逸材。
「反転ブレスレットに決まってるじゃないか。ブライトねぇーさん!」
カナンも反転メガネを掛ける。これでお揃いとばかりにキャピキャピしていた。
「今日は姉妹でがんばりましょ?」
ブライトの目が死んだ。徐々に目のハイライトが消えるのでは無く、完全なる消灯。
「にいちゃんおはよう」
「おはようリナ、今日は出店するのか?」
「うん、お小遣い稼ぎ」
大量の生写真を持つカタリナ。
生写真一枚につき、銀貨一枚。
ファンクラブしか買えない限定品。
オードは剣技大会の予選で居ない。
姉はもう居ない。危険を察知して逃げた。
「さて、開店準備だ」
住居から徒歩一分の場所に店がある。名前はそのまま『ミラの店』。
住居一体型は強盗が入ったら子供の命が危ないので、殆どの店が住居と一緒にはなっていない。
広いコンビニぐらいの大きさの店内。
王都では中堅層の大きさだ。
店内の8割が女性コーナー、残りは雑貨や文具など…
大体が髪留めや指輪、ネックレスなどのアクセサリー類、可愛い雑貨。安いヤツはデザインはカナン。業者に依頼して作成している。
昔は中卸などが主流だったが、アクセサリー類で充分利益があるので店の経営主体にシフトした。
「はい、これつけて」
ブライトにウィッグを渡す。金色のロング。魔道具なので、違和感は全く無い仕様。
ブライトは死んだ目でゆっくりと着けた。
「姉さん綺麗だねー…くっくっく」
ブライトにファンシーな服を着せ、アクセサリーを装着していく。
「よし! 完璧!」
カナンは満足し、自身もフル装備していく。
「にいちゃん」
「ん?写真か?いいぞ」
ブライトとツーショット。
これも売るらしい。商魂逞しいのは親譲りか…
「そろそろ開店かー。うわっ…凄い並んでんな…」
チラリと外を見ると数百人は居そう。もう人しか見えない。
「まあ在庫は充分だし大丈夫か。ブライト姉さん、そろそろ目を復活させてねー」
「ああ、悪い。意識が旅に出ていた様だ」
「はい、開けるよー」
扉を開けてお出迎え。
「いらっしゃいませー」
週末は女性の冒険者に指名依頼して、入場整理をしてもらっている。
してもらっているのだが…
戦場だ。
人の波が押し寄せる…
ぞろぞろ…ぞろぞろ…
「いらっしゃいませー。慌てずお願いしまーす」
カナンは在庫補充でまともに動けない。それに加えて接客や説明。
「いらっしゃいませ。ありがとうございます。」
ブライトとパートのおばちゃんは会計を。
「撮りたてほやほやー、生写真。ありがとうございまーす」
リナはファンクラブ会員の接客。
実はファンの9割は女性。
夢を壊す様だが、ちゃんと中身は男だと言うからだ。
そこはしっかりしないと後が怖い…
あと審査もあるので、誰も彼もが入れる訳ではない。
割りと狭き門。
元々のブライトのファンが、美人になったブライトにさらにメロメロになるというスパイラルが発生しファンになる。
「いらっしゃいませー。押さないでくださーい」
(これが毎週とか大変だよなー)
貴族はお使いのメイドなどが買いに来る為、貴族は来ないのがカナンに取って救いか…
昼になり最初のピークが終わる。
「ブライト姉さんご飯行っておいでー」
「ああ、カナン助かるよ」
疲れきったブライトがバックヤードに行く。
レジの横を見ると、沢山のプレゼント。全てブライト宛。
「すげーな、完全にアイドルだな」
______
「いらっしゃいませー。あっモリー」
「やあカナン。相変わらず女性が多いね」
「まぁ、デザイナーが良いからなー。ブライト姉さんは丁度休憩だよ」
えっへんと胸を張るカナン。デザイナーが良いのは本当だ。王都や帝都には無い発想でデザインされているので、客足は途絶えない。
「あはは、才能豊かだねえ。ブライトさんが来るまで待とうかな。そこ座って良い?」
近くのテーブルと椅子を指す。
「おう、良いぞー。ちょっと待ってな…はいお茶」
「ありがとう、待たせて貰うねー」
「いらっしゃいませー」
「ありがとうございます」
「カナン、ありがとう。カナンも休憩いっといで」
「うん、わかったよ。ブライト姉さん」
「こんにちは、ブライトさん! 今日も綺麗ですね!」
モリーの目がキラキラしている。ブライトの美貌に惚れ込んでいるが、恋とかでは無く、目の保養だ。
「モリー君いらっしゃい。なんか綺麗って言われると複雑だよね…うん、ありがとう」
「写真買って行きますね!」
モリーは満足した様子で、生写真を眺めている。カナンの生写真は友達にプレゼントするらしい。
「じゃあカナン、また週明けねー」
「おーモリー、ありがとなー」
モリーは笑顔で帰り、カナンはバックヤードの椅子に座り、やっと一息付けた。
「あー…疲れたー」
ヴヴヴ__
「ん? 王女来れそうか?」
≪うん、もうすぐ着くよ≫
「丁度ブライト姉さん居るから拝んでけ、俺は休憩中」
≪わかったよ。楽しみ。またね≫
「はーい」
ざわざわざわ…
「ん? 静かになったな。クリスが来たか?」
チラリと覗く。案の定イケメンの王女クリスが来店、女性客がフリーズしている。クラスの女子も居たのか、クリス様ー!という声が聞こえて来た。
今度は王女がブライトを見てフリーズ。余程衝撃を受けたのか、顔が引きつっている。
「いらっしゃいませ。…?」
「……」
(行った方が良いかな? でも成り行きを見たいが…怒られそうだから行くか)
「クリス、いらっしゃい」
「…はっ!カナンちゃん…ちょっとこれは自信無くすよ…」
女としてダメージを受けた様だ。
「こんにちはブライトお姉さん。カナンちゃんの友達のクリスです」
「ああ、カナンの友達かい? カナンと仲良くしてくれてありがとうね」
ニッコリ笑うブライトに、王女がクラっとよろめく。
「…くっ、なんという破壊力…」
「くっくっく、ブライト姉さんの美貌に酔いしれるが良い!」
「にいちゃん、誰?」
「ん? 友達のクリスだよ。クリス、妹のカタリナだ」
ペコリとお互い挨拶…したが、カタリナは直ぐに何かを察知。
「……なっ! まさか! 宿敵! ………あの、クリスさん。少しお話しませんか?」
真剣な表情で言うカタリナに、王女は少し首を傾げて了承。
「えっ?ええ、いいですよ」
二人でテーブルの椅子に座り何かを話している。二人とも真剣な表情だ。
「リナどうしたんだ? 珍しい」
「いらっしゃいませー」
「ありがとうございます」
しばらくして、王女とカタリナの二人が戻って来た。何故か二人共ニコニコしている。
「どうしたんだ? 仲良くなったの?」
「ええ、仲良くなれたよ」
「うん、仲良くなった」
「そ、そうなのか。良かったな」
「うん、頑張ろうね」
「うん、目標は一緒」
「いらっしゃいませー」(あっ護衛のお姉さん!)
今日一番の元気で手を振るカナン。護衛のお姉さんも手を振り返してくれたので、ニヤニヤしている。
「にいちゃん、だめ」
「だめだよカナン君」
「お、おう仲良いな」
クリスはプロマイドを大量に買って帰っていった。
閉店の時間。
「あー、疲れたー」
「お疲れ、カナン。そろそろ外して、お願い」
「はいよ」
カシャンとブレスレットが外れ、ブライトは元のイケメンに戻る。
「もう騙し討ちは駄目だよ」
「じゃあ正面からお願いするね」
「いや、それも駄目だよ」
「でも売上最高記録でしょ?」
「うっ、そうだけど」
「今後の為にも月1回はしないとねー」
「か、考えておく…」
「ふっふっふ、次は何を試そうかな」




