東へ2
眠い目をこすり、家を出て帝都へ向かう。山脈を2つ越え、帝都の路地裏に女装したカナンが降り立った。
「ん? 騒がしいな、何かあったのか?」
いつもと違う雰囲気。
人々に負の感情が見え隠れしている。カナンは首を傾げながら、近くのおじさんに聞いてみた。
「おじさん、何かあったの?」
「ん? 魔物の群れだよ。遺跡の方からぞろぞろ向かってきているらしいんだ、幸い足は遅いらしいけど。最悪ボッシュの街は捨てなきゃ行けないんだって」
「遺跡から魔物? 何か封印されてたとか? まぁ、行ってみるかー」
カナンは東へ…ボッシュへと向かう。
降り立つと、そこには荷物をまとめて出ていく人々や、東の方向に向かう冒険者達。
ちらほらと露店はやっているので、フルーツ屋さんのおばちゃんに話し掛ける。
「おばちゃんは、逃げないの?」
「他に行くところが無いからね。そんときゃそんときさ」
「魔物には勝てそうなの?」
「いや、数がどんどん増えているらしいよ。冒険者も逃げたヤツばかり。騎士団は来たけど多分無理って話さ。あと一刻でこの街に到達する…お嬢ちゃんは逃げなよ」
「そっか、まあ大丈夫だよ」
諦めたように笑うおばちゃんに言葉を掛けて、東の遺跡がある方向へ歩き出す。
「さて、まあこの街嫌いじゃないしやるかー」
『アキ、優しいのね』
「まぁ、見捨てるのも目覚め悪いからねー」
『ウフフ、私の出番ある?』
「デカイの居たらお願いするかな」
アイと会話をしながら東の門へ到着。
そこには多くの冒険者達。
統一された鎧を着た騎士団らしき者達も合わせると、千人以上居る。
『あれって冷酷じゃねえか?』『あいつも召集されたのか?』
「いっぱい集まってるなー…ムサイなー」
集団の中に入るとセクハラされるので、逸れて魔物を眺める。
遠目に魔物の群れ。大体一キロ先、二足歩行で歩いて来る魔物の群れ。
数は一万では効かない…二万体以上居そうだと推測。
「これ、ゴブリンだとしても、この人数はキツいよな…テレスコープ」
遠見をしたいので、魔法を発動。レンズが出現し、魔物の姿を鮮明に映し出した。
「1つ目に大きな口。筋肉モリモリだな。キモい……ん? これって土地に伝わる変な神様に似てんな……えっ? そういう事? 神様じゃねえじゃん」
一人でぶつぶつ言うヤバい女を、騎士団の1人が見つけて駆け付けて来た。
「シーマさん! なぜこんな所に! 早く逃げて下さい!」
昨日遭遇したアベルだ。騎士団の面々よりもキラキラとした鎧を纏っているので、ウザい感じが増している。
「こんにちはー。ちょっと見学にねー」
(うわこいつかよ、寒気がやべえな)
そんな呑気なカナンにアベルは怒る。
「直ぐに魔物が来るから危ないんだ! あなたを危険に晒したくない!」
(鳥肌がやべえな)
「大丈夫ですよ、すぐ終わります」
(これ以上はこの寒気に耐えられないぞ)
魔物はもう、五百メートル先まで迫ってきていた。
「では、すぐ終わらせますねー。フラーイ」
「あっ! シーマさん! えっ? 飛んだ……」
話すだけ無駄なので、アベルが何か言ってるのを無視。
魔物の百メートル前まで降りた。
「さっ、やりますかねー。アイ、リクエストある?」
『潰しちゃえば?』
「とりあえずそれで行くかね。広がってるから集めるか」
呑気に喋りながら魔法を発動。
青、緑色の大きな魔方陣を展開。
「メイルストロム・サイクロン!」
ゴオオオ! と、周囲1キロにも及ぶ巨大な大渦が暴風と共に出現。
魔物達を呑み込み、押し潰し、切り刻みながら一ヶ所に集める。大きな大きな肉団子のようで、見栄えが凄く悪い。
全てが集まったとは言えず、外側には逃れた魔物が見えるが面倒なので放置。
「ちょっと洩らしたかな。後は冒険者達に任せるか…」
黄色の大きな魔方陣を複数展開。
魔方陣が合わさり巨大な魔方陣となり、光り輝く。
「よっしゃー。__ギガタイラント・マグナム!」
「はぁ、はぁはぁ…シーマさん…あなたは」
カナンを追って来たアベルが、言葉を失う。
遥か上空から飛来した巨大な大陸が出現。
それは人が到達するにはあまりにも…
巨大な魔法。
魔物の塊に向かって落下。
激しい落下音が鼓膜を響かせる。
轟音と共に吹き荒れる大量の粉塵。
全く前が見えず、誰も何も言えなかった。
死を覚悟し、魔物と向き合っていた騎士団、冒険者、傭兵は、誰もが目を見開き、信じられない光景を呆然と眺めていた。
「「「「……………」」」」
しばらくして煙が晴れる
そこには巨大な岩の塊があるだけで、呆けているアベルにカナンが振り返る。
「ほらぁ、すぐ終わりましたよ?」
晴れやかなどや顔で言うその姿は、戦場に舞い降りた女神の様で…アベル、追い付いた騎士団、冒険者、傭兵の心を鷲掴みにしてしまう。
『アキ…あなた本当に悪い女ね』
「えっ? 魔物倒しただけだぞ?」
メイルストロム・サイクロン~水、風属性複合超位魔法、巨大な暴風を纏った大渦を形成し対象を呑み込みながら切り刻む




