図書館にて
「おはよう、オード兄さん」
オードは相変わらずフンフン言いながら筋トレ中。
「おうカナン、おはよう!」
「ミスリルの剣出来たからあげるよ」
モデルソードで時間をかけて作ったミスリル製の剣。武器を作るのも趣味の一つ。
「ミスリルって…高かったんじゃないか?」
「ああ、元手はタダだよ。ミスリルなんてすぐ作れるから」
「なんだかよくわからないけどすごいなカナンは! ありがとな、大事にする!」
「壊れたら言ってね、直すから。あと、魔石入れてあるから魔法剣がしやすくなってると思うよ」
「おっほんとか! あれカッコいいから好きなんだよ! ボッとかバッとかシュッとか」
(擬音がよくわかんねえけど…喜んでくれてよかった)
「剣技大会頑張ってね。じゃあ行ってきます」
家を出て学校へ。
______
「モリー、おはよー」
「おはようカナン。今日は魔法科目で実演があるんじゃないか? 満点君」
「モリー! 詠唱教えてくれ!」
「はいはい」
授業はなんとか極小魔方陣で乗り切る。乗り切ったのかは解らないが、詠唱はゴニョゴニョ言いながら誤魔化した。
「そういえば話題の探し人が、また人助けしたらしいよ」
「話題の探し人?」
「うん、なんか銀髪の美少女らしいんだ」
「銀髪なんて珍しいなー。星属性の適正が無いとならないんだろ?」
「ん? 星属性って何?」
「あれ? 今はもう無いのかな? 星の力を使う属性だよ。」
「そんなのあったかな?」
「まあいいじゃん。銀髪の少女って名前は何て言うんだ?」
「たしか名前はシーマだよ」
(ああ、うん、俺だ。藤島のしま)
「そうなのか、後でチラシ見てみるよ」
(今聞けて良かった)
今日は真っ直ぐ帰らずに、西区の図書館へ。
やっぱりおねーさんに会いたいので、こそこそ来ている。
探し人のチラシを眺める。
(やっぱり俺だなー…調子こいたなー)
カナンは今、女装用に髪を伸ばしている。
(でも女装すると開放的になるからなー)
もはや趣味と化している。何かに目覚めた結果、その内下着も変わりそうで怖いなぁ…と、密かに思ってはいるが…
(さて、おねーさん見れたから帰るか)
「おねーさん、帰るねー」
「はい、カナン君また来てね。気を付けてね」
「うん、おねーさんも帰りは気を付けてね」
「ありがとうね。あ、妹がまたカナン君の事捜してたわよ? 見つからないって」
「うげっ、そうなんだ…それは勘弁。おねーさんは超好きだけど、妹さんは苦手なのでちょっと…」
(あれだけ気持ち悪いって言われたら誰だって会いたくねえよ)
初等部時代は、エリと同じクラスになった事もあるが、何かと気持ち悪いと言われるので関わりたくない。年々メガネの機能が上がっている事が主な原因なのだが…
再び仲良くなる日は来るのだろうか…
「うふふ、ありがと。まあ気が向いたらでいいから、ね」
パチリとウインク。カナンがニヤニヤし始める。
「ええ、気が向いたら。でも向くことは無いけどね」
「相当苦手なのね…カナン君カッコいいから気になるんじゃない?」
(カッコいいって言われた!)
「俺はおねーさんに気になって欲しいよ。妹さんに気になるとか、それは絶対に無いよ。一年の頃からずっと嫌われてるからさ」
「あれ? そうなの? 一年の頃、友達になって貰ったって…あんなに嬉しそうにしていたのに。それ以来遠くで見かけるだけで会えないって落ち込んでたわよ?」
「いやいや、その後どん底に突き落とされたよ。クラスも一緒だったから毎日の様にキモいって言われたし…」
はははと乾いた笑いをするカナン。一部の女子から絶大な不人気を誇るのは周知の事実と化している。そのお蔭で小さな派閥が出来ているが、カナンはもう気にしないようにしていた。
「んー? えっ…もしかして…」
首を傾げるおねーさんを可愛いなー…と、カナンは凝視。目に焼き付けておく。
「じゃあまた来るね、おねーさん」
「えっ? ええ……またね」
顔が引きつってる笑顔で送ってくれた。
カナンは色々思い出してトボトボ家に帰る。気にしないようにしているとは言っているが、聞こえて来るので気にしてしまっている。
「ただいまー、リナ」
「にいちゃん、おかえり」
カタリナは、カナンに抱き付く。
そして…ふんすふんすと匂いを嗅いで、少し顔をしかめている。
「ん? どした?」
「にいちゃん…図書館の女の匂いがする。会ったの?」
「女って…本読みに行ったんだよ」
(すげえな…分かるのかよ)
「ふぅん」
カタリナはカナンが東区の図書館に行っていると思っていたが、最近西区に行っていると知り調査していた。何故西区まで行く必要があるのか…そう疑問に感じ、西区の受付を見た瞬間に納得してしまった。兄は美人に目がない…と。
「何を話したの?」
「世間話かな。妹さんがどうとか」
「は? 妹? 何歳?」
「俺と一緒だな。クラスが一緒だった事もあるぞ」
「なっ! だめだよ! その女は、にいちゃん好きなの?」
「いや女って…その人には嫌われてるから」
「ほんとに?」
「本当だよ。毎日のようにキモいって言われるし」
「そう、ならいいの」
カタリナは、安心したように笑う。兄に悪い虫が付く事を恐れているので、情報を得ようと必死だ。
カナンはとりあえずカタリナの頭を撫でる。
「えへへ」
にへらと笑う妹を見て、姉のように理想が高くならないといいけど…と、妹の将来を心配していた。




