王女と話す
ストレージから取り出した黄色いデザート。
精霊の森で、研究の合間によく作っている。
前世は孤児院のチビ共によく作っていた。時折、子供の笑顔がチラ付く。
今世はリーリアのおやつ用に持っている。
羽が生えた光る玉が、どうやってプリンを食べているか知らないが…いつも食べ過ぎるので、ストックはカナンが保持している。
「これは…?」
「さあ、遠慮するな。俺の奢りだ」
カナンはスプーンを王女に渡して、テーブルに座る。王女は同じ目線になって嬉しそうだったが、渡されたスプーンでプリンを掬い、「ぷるぷる」と言いながら口に入れる。
「おいしい…」
幸せそうに笑う姿は可愛らしく、年相応の女の子。過去を重ねるように微笑ましくしているカナンは、王女を見詰めて少しボーッとしていた。
「あっすみません私、夢中になって」
「ん? あー気にしなくていいぞ、女の子は美味しいモノ食べて笑っている姿が一番可愛いんだ」
ニコニコと笑うカナンに、王女の顔が赤くなっていくのが解る。食べている姿を見られるの恥ずかしい様子。
「か…からかわないで下さい」
「嘘なんか付いてどうすんだよ。可愛いんだから」
「…うぅ」
俯き、恥ずかしそうにしているので、カナンが食べさせてやろうか? と聞くと急に慌てて自分で食べ始めた。
「…あ、あの、お礼がしたいです」
「気にしなくていいぞ、俺の魔法が効くか知りたかっただけだし」
「お礼は私がしっかりしますから。あと…あの魔法は…いえ詮索はだめですね。ありがとうございます」
プリンを食べ終わった王女からスプーンを受け取りストレージに仕舞う。
少し雑談していると、本来の目的を忘れつつあったので、聞いてみる事に。
「あーそうだ、この城に書庫とかあるか?」
「…書庫ならありますよ。大事な本は結界のある部屋なので入ったことはありませんが…」
「そっか、どんな結界か解らないから保留だな…魔物とか魔王関連の本とか文献があったら貸してくんないか?」
「魔物? はい、探してみますね」
役に立てる…と嬉しそうにしている王女が、ふとカナンを見詰めて…見詰めて…やがて意を決したように口を開く。
「あの…フジ様は…何処かの王子様なのですか?」
(何言ってんだこいつ)
「んな訳あるか、俺は生まれも育ちも平民だぞ」
「え? そうだったんですか…」
「ショックか? …平民と話す口が無いなら、すぐ帰るから安心しろ」
「いえ! 違います! ただ学校やパーティーで見かけませんでしたので…」
「そりゃ平民だから学校は違うし、パーティーなんざ出たことないねえ」
「王都に住んでるんですか?」
「うん、まあそうだな、王女は学校行ってるんだな。城から出ないと思ってた」
「出ますよ。ちゃんと中央区くらいなら歩きます」
「ふーん、じゃあどっかですれ違ってるかもな」
「…中央区に住んでいるのですか?」
「さあな、あーそういや神の奇跡ってやつはなんで?」
「それは、私が治って、みんな光しか見てないですから」
「光しか? 俺の事言わなかったのか?」
「あなたを売るような事は絶対にしません」
「……」
(あの王族の子孫とは思えない出来の良さだな)
カナンは懐かしむように微笑む。過去の王族は自分の利益の為なら平気で人を売る。隷属や殺人は当たり前…秋の時代に散々経験した。
「あの、名前で読んでもらえると嬉しいなって…」
「名前? いや、王女の名前知らんし」
「……」
(いや、そんなびっくりした目で見なくても)
「…クリスティーナです」
「はいよ、クリスティーナ王女様」
「ティナと呼んで下さい」
「…そう易々と略称を呼ばせんじゃねえよ…仲良くなれたらな」
(俺の名前すら知らんのに何言ってるんだよ)
「…はい、仲良くですね!」
「そうそう、たしか略称で呼ぶのは親愛の証だろ」
「はい、すみません。でも…」
「…カナンだ」
「え? カナン?」
「俺の名前だよ、王女は、まあ、信用はしている」
「あ、ありがとうございますカナン様」
「様はやめろ…鳥肌が凄い…カナンでいいぞっと、俺の用事はこんなもんだ」
カナンは用事が済んだので、メガネをかける。すると、直ぐに誰だか解らなくなった。
「そのメガネすごいですね、この部屋だと効かないはずなのに…」
「そうなの? こんなの簡単に作れるぞ」
「え?作れるってこんな高度な魔道具…」
「今日暇すぎて作りすぎたからやるよ」
王女にメガネを適当に2、3本渡す。
「あっありがとうございます! …お揃い」
嬉しそうにニヤニヤする王女は、何かを思い付いたように上目遣いでカナンを見据えている。
「……じゃあ魔道具の免許を取るんですか?」
「ん?あーそうだな」
「そうなんですね(あの学校だ)」
「そろそろ帰っていいか?」
「引き留めてしまってすみません。来てくださってありがとうございました。お礼は私がしっかりしますから」
「おう、じゃあなー」
手を降りベランダから飛びたった。
「まともなヤツで良かったなー」
夜の街を飛びながら、呑気に呟く。
『アキ』
「ん? アイどうした? 話し掛けてくるなんて珍しいな」
『ウわき』
「なんでだよ」
『フフフ』
石の中の魔王様は悪戯に笑い、褒めて褒めてと言うように嫉妬を込めた言葉を並べていった。




