眠りから覚める少年
「んーおきたー…んあ?ここどこ?」
(白い部屋?)
「カナン!」
「オード兄さんどったの?」
「みんなを呼んでくる!」
「へ? 何? 何なの?」
______
(1週間くらい寝ていたのか…)
診療所で起きたカナンは、家族に抱きつかれて困惑していた。
泣いて喜ぶ家族を見ると…
(もう、日本には帰れないな)
苦笑しながら無理をし過ぎるのは自重しよう…と心に決める。
まだ少し身体が軋むが体調は良い。
目が覚めたので、直ぐにでも退院出来ると聞いた。なので姉と一緒に家へと向かっていた。
「あー退院できたー」
「何か変だったら直ぐに言うのよ」
「うん、分かったよ姉さん」
帰り道、王都の人の動きが違う。商人同士が話し合い顔をしかめる場面や、噂話をするおばさん達が真剣な表情など…
「なんかざわざわしない?」
「あーお父さんに聞いてみたら? 詳しく知ってると思うよ」
「ふーん、分かったよ」
帰宅したカナンは、家族に心配されながら元気をアピールしていく。本当は身体が軋んでいるがやせ我慢。
「父さん」
「おおカナン、体調は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。なんかざわざわしてるけど何かあったの?」
「ああ…カナンが眠った頃に、確か北西の国で大規模な魔物同士の戦闘があったらしくてな。昨日調査の部隊が戻ってきたんだけど、元々森があった場所に更地の湿地体が広がっていたそうだ」
「そうなんだー、何か起きるの?」
(北西の国?魔物同士?)
「どちらも王種級の魔物らしいから、生き残っていたら大規模な討伐部隊が派遣だな」
(ああ、それ俺とアイだわ)
どうやら、藍の魔王様との闘いは結構な騒ぎになっていたらしい。大規模な津波が起きれば注目されるのは仕方無い。誰か居なくて良かった…と心の底から思っていた。
『フフフ』
藍色の宝石から笑い声が聞こえる。
アイの声は他の人には聞こえない。
アイは外の景色が見えるらしく、ストレージに仕舞うのは可哀想なので、ポシェットに入れて持ち歩いている。
好奇心旺盛な彼女はいつも楽しそうだ。今日も楽しそうに人の会話や、王都の景色を楽しんでいる。
「学校にはしばらく休むと言ってあるからゆっくり休んでから行きなさい」
「うん、ありがとう父さん」
休むと言っても、リハビリ中であまり魔力を使えないのでやる事は無い。
「暇だ…そういやまたメガネ壊れちゃったな、もう何本目だよ」
「まあいいや、少し歩こう」
暇な時は歩きながら考える方が何か閃くと思い、心配する父を振り切って外に出ていく。
(アヴァランチ・ソウル・グランデから魔王種が生まれるなんて聞いたことないな。1度文献とか見ないとなー…といっても、ほとんどの文献なんて読んだし、図書館の制限区域も見たし…)
ふと、中央区に見える城を見る。
(王城って書庫あったっけ? 忘れたな…あ…王女に聞いてみるか。ざわざわしてる今がチャンスだし…夜までメガネでも作って時間潰すか)
_____
夜になり、軽い変装に髪の毛をカラーチェンジをして、月が照らす王城を眺める。
(たしかあそこだなー)
今回は体調を考え、不本意ながら真っ直ぐ王女に会いに行く。可愛いお姉さんを見付ける旅はお預け。
(見張りはいない…か)
ベランダから入り、軽くノックをしてみる。
…反応が無かったので、窓を開けて確認。
「おじゃましーす…お?」
王女は椅子に座って起きていた。何か物思いに耽っている様子でボーッとしている。なので、とりあえず挨拶してみる。
「やあ、王女」
バッとこちらを振り返る王女は、「あ…と…誰?」前回と違い、メガネをしていなかったので首を傾げて警戒している。
「おう悪い、フジだ」
(ん?なんか前にもこんな…まあいいや)
「あ…待ってましたよ…ずっと」
「おう、一年振りだな、取り立てに来たぞ」
(あれ?借金取りみたいか?)
「待ちくたびれる…ところでした」
王女は涙を流しながら立ち上がり、手を組んでカナンを睨むように見詰めている。
カナンは何で泣いてんだ? と少し困惑。
「お、おう、大丈夫か? そんなにお礼したかった?」
「とりあえず…」
(泣いている女の子は)
「プリン食うか?」
(甘いものか?)




