不壊の勇者4
砂漠に吹き荒れる力の奔流。
秋が結界を張っていたが、空間ごと破壊されたら意味を成さない。
秋は身体が破壊と再生を繰り返す中…ここの空間も直さなきゃなー…と頭の片隅で考えていた。
(あー…痛え…馬鹿みてえな魔法使いやがって…)
力の奔流が収まり、ボロボロの身体が空中に投げ出され…ドサッと砂漠に落ちて再生したが、痛みで身体が痺れていた。
「はぁ…はぁ…本当に、死なないんだね。驚いたよ…平然としているなんて、僕より死線を潜っている」
「あぁ…凄えだろ。なぁタケル…あとどれくらい戦えるんだ?」
「はははっ、お見通しか。後、少しだね…」
「ははっ、そこは嘘付くもんだろ。お人好しって言われねぇか?」
「耳が痛いよ。ねぇカナン…僕らは解り合えると思うんだ。目的を教えて欲しい」
「…まぁ、良いか。地球にある次元の歪みを直すんだよ」
「歪み…何の目的で?」
「さぁな、色々あるんだよ。じゃあ、俺も魔力が危ねえから最後の攻撃と行こうかね」
秋は解り合う気は無いとばかりに、汎用型魔法陣を複数展開。
更に小さな立体魔法陣を一つ展開した。
タケルは残念に思いながら、神刀を構える。
「解り合う気は無いんだね…残念だよ」
「あぁ…ちょっとバタバタしていてな。色々落ち着いて、お前が生きていたら解り合ってやるよ。アダマント・パイルバンカー!」
鉄色の大きな杭が無数に出現。
大きな爆発音と共に次々と杭が放たれる。
「それは楽しみ、応龍奥義・龍神天武!」
神刀が金色に輝き、超高速の軌跡が飛び交う。
放たれた杭が細切れになっていった。
「そいじゃあ高級魔法! ダイヤモンド・パイルバンカー!」
魔法で造ったダイヤモンド製の杭が出現。
秋が杭の上に乗り、杭をぶん殴る。
「フレアエクスプロード!」
――ボゴォオオ!
秋を中心に大爆発が発生。
爆発の衝撃でダイヤモンドの杭が射出。
超高速のダイヤモンドが神刀を弾きタケルに直撃。
武神装を砕いていく。
「ぐぉおお! 無茶苦茶だなぁ! 龍神降臨!」
武神装が解除され、タケルから金色のオーラが溢れ出した。
急激な力の上昇…龍神の力を直接身体に送り込む捨身の技…
――ドゴォオオ!
金色のオーラを纏う拳でダイヤモンド殴り飛ばした。
「はぁ…はぁ…くっ…身体が…」
しかしタケルの身体は、無茶をした反動で一瞬の硬直。
その隙を突いて、秋がタケルの背後に転移した。
「…これで終わりだ。タケル…」
秋がタケルの背中に、用意しておいた立体魔法陣を押し付けた。
スーッと立体魔法陣はタケルの中に入り込む。
「うっ…何を…した!」
「くくっ、なんだろうなぁ」
反動が解け秋に神刀を振るが、簡単に避けられた。
タケルは思うように動けなかった。
身体が沸騰するように熱い。
「ぐっ…あぁぁぁああ!」
「……」
タケルは激痛に苦しみ叫び、秋は黙ってその様子を眺める。
そして、直ぐに身体の痛みが引いた。
だが、身体は鉛になったように重く、思うように動かない。
「はぁ…はぁ…はぁ…何を、したんだ!」
「ホムンクルスは千年以上生きる……そしたら、また地球での仕事をしに来た時に邪魔されちゃあ面倒なんだよ。だから、お前の寿命を短くした」
「なんだと! 僕は…死ぬのか…くそっ…」
「あぁ…悔しがれ悔しがれ。お前を人間に進化させたから、寿命が来たらゆっくり仕事をさせて貰うよ」
秋がタケルに使った魔法は、進化の魔法…星に願いを。
「人間…?」
「そう、人間だ。ははっ、恨んでも戻してやんねえからな。せいぜい平和に暮らせば良いさ…結婚して子供でも作って、な」
ホムンクルスは偽りの身体…子供は出来ない。人間になれば、愛する者と共に歩める…
ひねくれ者の結婚祝いに、タケルは困惑していた。
「……」
人間には戻れない…と、諦めていた。
だからこそ、返す言葉が見付からない。
「じゃあ、動けない隙に残りの歪みでも直そうかね」
「…あっ…待っ」
秋が転移を起動するところでふと思い出し、タケルの言葉を遮って話し始める。
「あっ、そうそう。棚橋健次はもうすぐ帰るから心配すんな。じゃあなー」
「…えっ?」
――バシュン…秋は言いたい事だけ言って去っていった。
砂漠に一人、動けずに残されたタケルは、ドサッと仰向けに倒れて太陽を眺めた。
「健次君が……って、あーもう! あいつ僕の事を知っていやがったな!」
薄ら笑いを浮かべる少年を思い出し、次は絶対逃がさない…と、心に決めた。
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転移でタケルから逃げた秋は、早速残りの歪みを直しに掛かる。
「ふぅー、危ねえ危ねえ…あいつ強すぎだろ」
タケルがいつ復活するかも解らないから時間が無い…焦りながらも歪みを直していく。
「…っと、後は…あっまずい、復活したっぽい。帰るか…」
秋は黒いカードを起動、転移の準備に掛かる。
残りの歪みは、また来た時にこっそりやろうと決め、ラグナに恨み言の一つでも言おうかと思っている内に転移が発動。
ルビアへと帰還した。
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「ただい…まぁぁ…」
帰って来た秋が見たものは……
「はぁ…はぁ…キリエ…やるね」
虹色の大剣を持ち、凶悪なオーラ全開のサティと……
「くっ…強すぎだよサティ…」
金色の鎧を纏い、神気全開のキリエ…
それを部屋の隅で三角座りをしながら遠い目で眺めるアイ達の姿…
「もう…なにしてんのさ…」




