不壊の勇者
タケルが刀を秋に向け、力を解放していく。
常人ではまず有り得ない力の上がり方に、秋は内心焦っていた。
(どうすっかな…ちょっと…予想よりも強い)
あまり地球で暴れると、後々に響きそうだ。
まだ砂漠だから良い…という考えは、甘い。少しの事で地球は天候や環境が変わる。秋は重々承知なのだが、タケルに言っても無駄だという事は解る。
「安心して、殺しはしないよ」
「そりゃどうも。言葉を返そう…あっ! まずい!」
秋がタケルに意識を向けすぎた瞬間…ここぞとばかりに秋のストレージから飛び出して来た者が居た。
「やぁぁああっと出られたぁあぁあぁ! 私の時代が来たァァアアア」
「「……」」
そう。シリアスブレイカーのレイちゃんである。
右手を天に突き上げ、太陽の光に照らされた金色の髪がキラキラと靡いている。何故か黒いメイド服から、秋のストレージ内にあったピンクのナース服に着替えていた。
「…極・亀甲縛り、スーパーバイブレーション」
秋は無表情で、直ぐにレイの封印に取り掛かる。
ピンクのナース服が黒い荒縄で縛られ、超振動を発生させながら食い込み始めた。
「あひぃぃぃぃぃいいいいい! 緊縛病棟主役はわたしぃぃいいい!」
レイが昇天しながら首ブリッジで天に向かってダブルピース。
恍惚な表情を浮かべ涎の滴る姿は、某魔女っ子とキャラ被りしていた。
≪私あんなんじゃありませんよ≫こら喋んな。
「封印、収納」
……そして、砂漠に平和が訪れる。
風で舞い上がる砂の音が、まるでレイの襲来が無かった事のように響いていた。
「……」
「……さぁ、小手調べだ」
何事も無かったように振る舞う秋が汎用型魔法陣を複数展開。
この四日でなんとか魔法陣を展開出来るようになっていたが、万全とは言えなかった。
タケルは見定めるように魔法陣を見詰めていた。
「いくぜー。サンドプリズン」
上位魔法サンドプリズン…タケルの周囲に砂の柱が出現。柱が狭まり砂の檻を形成した。
タケルが砂の檻に呑み込まれる寸前…檻の隙間から白い光が溢れ出す。
「…白光刃風」
白い軌跡が舞う。
その瞬間…砂の檻は意図も簡単に吹き飛んだ。
「ひゅー、やるねぇ。デザートサイクロン」
上位魔法デザートサイクロン…吹き飛んだ砂がタケルを中心に渦を巻き、激しい風と共に収束していく。
「白光刃・氷雷」
――バチィン!
青い雷の軌跡が砂の渦を両断。
舞い上がった砂がパラパラと落ちてくる。
「そいじゃあお次は超位…ブリザード・ストライク」
――ヒョォォオオ!
汎用型魔法陣が青く輝き、凍てつく吹雪が発生。
高速で吹雪を叩き付ける。
「…四聖獣奥義・朱雀昇天破」
――キュェェェエエ!
タケルの持つ剣から赤いオーラを放つ大鳥が出現。
凍てつく吹雪を無効化しながら秋に向かって来た。
「うぉ! なんだあれ! 奥義壱式・三枚下ろし!」
両手にダイヤモンド包丁を持ち、大鳥を縦に三枚下ろし…三つに別れた鳥は燃え尽きながら四散した。
秋が鳥を下ろした隙にタケルが接近。
青竜刀を真っ直ぐ振り下ろして来た。
――ガキィン!
包丁を交差して受け止めたが、青竜刀の斬れ味は凄まじく…包丁が欠けてしまった。
受け止めている包丁を上げて青竜刀を弾き、後ろに飛んで後退するが…
「縮地。白虎剛爪斬」
一瞬で距離を詰められ、
青竜刀から白い獣の太い腕が出現し鋭い爪が襲い掛かる。
避けるのは間に合わない。
両手の包丁でパリイを試みるが、威力が強すぎて包丁がポキリと折れてしまった。
「ちっ、グラビティプレス!」
――ズンッ!
タケルを重力で鈍らせ、今度こそ後退。
冷や汗をかきながらも汎用型魔法陣を展開。今度は大量に出した。
「やるね。ここまで戦えるとは思わなかったよ」
「ったく、魔法使いには厳しい環境だ。その剣…神剣か?」
「あぁ…だから君は僕に勝てないよ」
「大した自信だねぇ。そう言われると、頑張りたくなるんだ」
周囲に影が差す…雲かと思ったがそうでは無い。
見上げると、大きな大陸のような岩が浮遊していた。
薄ら笑いを浮かべる秋が腕を振り下ろすと、その大陸が落下していく。
「この規模を平然と…認識を改める必要があるか…」
「防いでみろよ。ギガ・タイラント・マグナム」
轟音と共に砂漠の地形を変える、地球の事を無視した一撃。
大量の砂が舞い上がり、立っていられない程の地響きが起きた。
「黄竜奥義…地滅」
視界は大陸かと思う程の大岩…しかし、直ぐに変化が訪れる。
黄色い柱が大岩を貫き、パラパラと岩が砂へと変わり、消えていく。
「……やるねぇ。争いの嫌いなお人好しが、ここまで戦えるなんてな…」
砂が消え、何事も無かったかのように無表情で佇むタケルの姿に、薄ら寒いものを感じた。
「どんな攻撃でも…僕は、壊れない」
「形あるものは壊れるんだよ。なぁ…なんて世界に居たんだ? 俺はルビアって世界から来たんだ」
「…アスター」
「…ははっ、そうか」
秋は天異界創設者ラグナの事を思った…アスター所属。それを意味する事は…
(知っていやがったな…あの女神さん)
あの悪戯な笑顔を思い出し、心の中でため息を付いた。




