次元の歪み
魔力を拡散する魔法陣を使用し、半日は経過していたので周辺諸国なら歪みを捉える事が出来ていた。
「っと、ここだな」
次元の歪みと言っても、異世界に転移する訳ではない。
神隠しであったり、地球の歪み同士に転移したり、数年後の未来に転移する場合など…その中でも異世界転移は条件が満たされないと発生しない。
現在、砂漠の中にも歪みを発見したので、その場所に転移してきた。
岩石地帯の、岩と岩の隙間。
魔力を感じる事が出来る者なら解る、普通の人間には見えない透明な歪み。
秋は歪みに手を添え…
「ディメンションコントロール」
歪みを矯正した。
ここで歪みを矯正しても、また別の場所に歪みは発生する。
完全な真円が存在しないように、完全な世界なんて存在しない。
「…さぁ、次の場所に行こう」
切りの無い作業だが、少しでも悲しむ人が減る事を願って…歪みを直していった。
______
「あっ、おかえりなさい」
「ただいま…何していたんだ?」
「この剣を使いこなそうと思ってね」
秋が帰ると、キリエが地面に剣を突き立て魔力を流していた。
同調するように、金色の剣が銀色の光を纏っている。
「創星剣・世界だっけ。神武器って奴は、俺には使えなさそうだな。どんな能力があるんだ?」
「凄いよこれ…なんで在庫処分にしたか解らないもん。能力は、形が変わる形態変化と、英雄創製と武神装」
「英雄創製はジジイが使っていた奴だよな。天異界の記録で観たよ。武神装って?」
「魔装に似ているんだけど、武装っていう武器の能力を装備するんだ。武神装はその最たるもの…ってラグナさんが教えてくれた」
「へぇー、凄いなぁ。今出来る?」
「やってみるね!」
キリエが剣に力を込めると、金色のオーラが溢れ出した。
「武神装・金!」
金色の光がキリエを包み、神格が上昇していくのが目に見えて解る程の力を放っていた。
やがて光が止むと、キリエに変化があった。
豪華な装飾の施された金色の兜に、同じ装飾の金色の鎧。全身鎧よりも軽鎧に近く、背中には金色に輝くメタリックな翼。
手に持つ金色の剣は、キリエの手に馴染むように簡単に振るう事が出来た。
イリアの魔装…戦乙女のような超起動、超攻撃特化に見えるが、キリエの戦闘スタイル…魔法特化とは全然違うものになっていた。
「うわ…すげえ…」
「なんか…急激に力が上がって制御が不安。でも、これなら私でも武器を使える!」
キリエが喜ぶのも無理はない。昔から身体が強い訳でもなく、武器と言えばナイフや包丁を使う程度でセンスも無かった。
ただ、地球で暴れたら大変な事が起きそうなので、ルビアに帰ってから再び練習するとの事。
武神装を解除すると、力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。
「大丈夫か!?」
「はぁ…はぁ…だい、じょぶ…ちょっと、休憩」
「反動が凄いな…それだけ強力という事だけど…」
「…ふぅ、慣れが必要だね。ラグナさんが居るアスターは、女神が多く在籍しているんだけど…全員が武神装を使いこなしているってさ」
「まじかよ…これを全員? 天異界の序列は…ルビアが五位だったよな…アスターは?」
「断トツの一位。天異界創設から不動だってさ」
序列は神格の多さや、神の強さ、星の強さを基準にする。
数百ある天異界の序列の内、五位でも凄い事なのだが、一位となれば正に別次元というのは常識の範囲だった。
「ははっ、世界は広いねぇ。っと休憩がてら皆のお土産買いに行かね?」
「うん、行く行く!」
秋とキリエは、各地の土産を買いつつ、次元の歪みを直していった。
______
次元の歪みを直し始めて四日目。
世界各地を回り、百を超える歪みを直した。
残りは日本やハワイ、海や日付変更線に近い辺り。
「四日目だから、そろそろ日本も範囲になるな」
「気を付けてね」
秋は日本の最初の場所…北海道の洞爺湖の中心に転移してきた。
日本は朝方。霧が掛かった洞爺湖は幻想的で、今にも何かが現れそうな雰囲気。
「ディメンションコントロールっと」
湖の中島に歪みがあり、矯正して終了した。ついでに近くの旅館へ行き温泉饅頭を購入。洞爺湖と掛かれた木刀も購入した。
「木刀はオード兄さんで良いか。次は恐山かな」
次は青森へ。
恐山の麓へやって来た。ここも霧が掛かり、静かな場所。柔らかな風に赤い風車がくるくると回転していた。
秋は道の外れにポツンと立っている地蔵を眺める。
「あの地蔵…普通の人にはちょっとヤバいな。触らなきゃ大丈夫だけど…」
干渉する気は無いので、入山料の五百円を払い、山門をくぐると温泉を発見。温泉なんてあるんだなぁ…と、看板を見ると『熊に注意』を見つけ、思わず笑ってしまった。
「熊居るんかよ…折角だから温泉に入りたいけど、時間無いからなぁ。仕方ない」
賽の河原にあった歪みを直し、美しい青い水の宇曽利湖を眺めて次の場所へ。
「あれ? ここって…旅行で来た伊勢神宮か。ディメンションコントロール」
男三人で旅行に来た場所…前世でここからルビアに転移したと推測出来た。遠い日の記憶を呼び起こしながら、神宮杉を見上げて砂利道を歩く。一番奥にある階段を上り、お賽銭を入れてから次の場所へ向かった。
「ん? ここ…更江高校の近くだ…やっぱりあったのか」
秋の母校の近くにある空き地。ここに歪みがあり、直ぐに直す。これで少し安心したが、ここ周辺にはまだ歪みが見られた。
早速直そうとしたが…
「――っ! うおっ…なんだなんだ!」
悪寒を感じ、直ぐに砂漠へと戻った。
______
「秋? 早かったね」
「いや、まだ途中…どうやら邪魔が入りそうなんだ」
「邪魔が? まさか…」
「あぁ…そのまさか。悪いけど…先に帰っていてくれないか? 埋め合わせはするから」
「くふっ、良いよ。今度は日本でデートね」
キリエが黒いカードを起動させる。
そこで秋がふと思い出した。
「そうだ…言い忘れていたんだけど…」
「えっ、何? 真剣さが怖いんだけど…」
「サティちゃんは俺より強いぞ」
「……今言う事?」
「あぁ…多分、帰ったら解る」
「…凄く帰りたくない」
遠い目で告げる秋に、キリエが嫌そうに顔を歪める。
しかし黒いカードは起動してしまったので、キリエはそのままルビアへと帰っていった。
「……」
そして、秋は砂漠に一人座りながら待つ。
しばらくして、砂漠に転移してきた者が居た。
「…知らない魔力を感じて調べていたけれど、君は…ここで何をしているんだい?」
現れたのは、黒髪黒目の日本人の男。
爽やかな印象で、優しそうな目だが、無表情で秋を見据えて警戒している。
男の手には、一振りの青竜刀らしきものを持っていた。
「……仕事だよ」
「仕事? 目的を教えてくれないかな? 場合によっては…痛い目を見る事になる」
「とある方に頼まれてな。先ずは、自己紹介をしよう。俺は……カナンだ」
「…松田尊。カナン…君は何者だ? 何故…その力…混沌の力を持っている…とある方とは誰だ!」
「お前には関係無いよ。知りたかったら…力付くで聞いてみたらどうだ?」
松田尊と名乗った男は、明らかに秋を敵視していた。それと同時に秋も疑いの目を向けていた。
「分かった…そうさせてもらう…」
「…お前…人間じゃねえけど…何者だ?」
松田尊は、秋の親友だった。前世の男三人旅でそれぞれ異世界に飛ばされ、地球に戻って来た唯一の者…だが、秋には、タケルに違和感しか覚えなかった。色々と違う…本当にあのタケルなのか…と。
調べるには身体を解析するのが近道だが、素直にさせてくれるとは思わなかった。それでも…偽物だもしても、親友に会えた喜びは計り知れない。
「…答える義理は無い」
「ははっ、じゃあ…俺も力付くで、聞き出そうかなー。…タケル」
会いたかったよ…その言葉を飲み込み、秋は笑う。
タケル君の異世界話に関しては、流れの武器屋で触れていますのでそちらでどうぞ。
これで連投ふぃにっしゅ。
評価等々戴けると嬉しいです。やる気に直結しますので、宜しくお願いします。




