表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/285

藍の饗宴3

 

 紫色の巨大な魔方陣が回転している。


「少しだけ時間がかかるかもしれない」

(ホント情けねえ)


『いいヨ』


(敵に待ってもらうなんて……でも、こいつを世界(そと)には放てない)


 魔方陣が輝き出した。

 もうすぐ魔法が完成する。


「なあ…知ってるか?…人間が言うには、お前は存在しちゃいけないらしいぞ」

『なんデ?』

「人間は弱っちいからな」

『フフフ。キミはつよイよ』


「ありがとな」

(本当に)


「タイム・アクセラレーション」

(光栄だ)



 …………………………………



 加速した時間の中、


 音が止まる。


 全ての景色がゆっくり流れていく。


 藍の魔王の動きもゆっくり流れていく。



「……本当に、ままならないもんだな。…この世界は」


 カナンは深呼吸。

 魔力を解放していく。


「失敗したら死ぬな…」


 赤、青、黄、緑色の巨大な魔方陣を展開させる。


「二度目の人生だ」


 ゆっくり…ゆっくりと形を変えていく。

 繊細な魔力操作に、早くもカナンの頬には汗が流れていく。


「まあなにより…」


 綺麗な、球体の形…立体の魔方陣に変わった。


「夢の中でやっと……一目会えた」


 赤、青、黄、緑にキラキラと輝くが、完成には程遠い。


「まっ……なるようになれだ」


 立体の魔方陣をゆっくりと回転させ、完成に導く。


 …………


 何時間も、

 …………


 何時間も、

 …………


 何時間もかける。


 完成が近い。


 近いのだが…


「くっ__足りない…力が足りない」


 左手に刺さった精霊石を見る。

 これがあれば、もっと力が引き出せる。


「……」


 カナンは迷う事無く、

 左手から精霊石を取り出し、

 左胸に突き刺した。



≪ヒトヲ……コエルカ≫

 邪神の声を思い出す。

 人を超える。

 そんな物、とうに超えてきた。


「もう、人なんざ越えるの…慣れてんだよ」


 精霊の力が、直接心臓に届く。

 膨大な精霊の魔力。

 暴れそうな程に流れ込んで来る力に困惑しながらも、魔法の完成へと踏み出した。


「完成だ」


 加速の魔法を解き、時間の加速が元に戻る。


 ______



「おまたせ」

『まっタよ』

「悪いな」

『ミせて』

「ああ」



 魔方陣が赤、青、黄、緑色に目まぐるしく輝き、膨大な光が溢れてくる。

 今世では、使用した事の無い大魔法。


「クリエイション・ザ・ワールド」



 カナンと藍の魔王が、魔方陣に包まれる。


 四大元素の力…火、水、土、風。


 世界の元となる力。


 1つの世界を作る神位魔法。


 少年の望んだ世界が創られる。


 ______



 太陽が輝き、心地よい風が吹いている。


 遠くには灰色の建物が並び、目の前には舗装された道。


 近くに川が流れるその道には…


 沢山の、桜の並木。


 満開の桜が咲き乱れる、誰も居ない世界。



 桜を眺める藍の魔王が微笑む。

 その顔は、嬉しいと直ぐに解る笑顔。

 桜の花びらが、ひらひらと舞い降り、藍の魔王の手の平に乗った。


『ウフフ…きれイ』


 桜を眺めるカナンが、晴れやかに笑う。

 頑張った甲斐があった。

 藍の魔王に見せたかった世界。


「ははっ、ありがとう。ここは俺が創った世界。俺が望んだ世界。俺が居た世界…そして」


 藍の魔王を見据えたカナンは儚く笑う。


「俺が……帰りたかった世界だ。お前に見せたかった、色々な世界があるんだってな」


 暖かな眼差しで藍の魔王を見る。何も知らずに生まれ、何も知らずに死ぬなんて、悲しい事は無い。

 これが、藍の魔王にしてやれる、精一杯の気持ちだった。


「…お前の番だ、出来るならな」


 藍の魔王は、自分の番だと喜びながら、魔力を練っていく。


『フフフ…ワタシのばん。………あれ?』


 しかし、一向に魔方陣が出てこない。


『アれ?あレ?』


 どんなに頑張っても魔法が発動しない。



「使えないだろ?この世界には、魔法なんて存在しない。魔法を使わない世界」


 首を傾げていた藍の魔王の足が崩れる。


『あレ?』

「魔法体のお前は存在が消えていく…」


 身体崩れてもなお、微笑みを崩さない藍の魔王。

 これから死ぬというのに、笑っている。


『フフフ…まケ?』

「ああ、お前の敗けだ」


 敗けを宣言されても少女の微笑みは崩れない。

 諦めも、悔しさも感じられない笑顔をカナンに向ける。


『フフフ…そっカ』

「………」


 少しだけ、寂しそうに笑いながら…少しずつ崩れていく身体。

 カナンから視線を外し、時間が惜しい様に桜を眺める。


『ねえ』

「ん?どした?」

『なまエ…ちょウダい?』

「え?」

『ほしクなっタ』

「ははっ何言ってんだ。名前なんて付けたら…」


(お前を殺せなくなる)


「……」

(名前…か)


 一瞬の気の迷いかわからない。


 なぜだか、こうしなければ後悔する。


 カナンはそう感じた。


「俺はカナン…いや…アキだ」


『アキ…あキ』


「…俺は将来、世界を見ようと思うんだ」


 カナンは左胸に刺さった精霊石を取り出し、その精霊石を持った手を、藍の魔王に差し出す。


 精霊石を眺めて、首を傾げる。

 カナンの意図する事が解らない。


『ナーニ?』

「なんでこの世界に来たのか…なんでこの時代に生まれたのかってね」


 カナンは自分に言い聞かせる様に、藍の魔王に向かって告げる。

 自分と重なる。


「この手を取れば生きられる」


 カナンの手には、以前とは違った弱々しい光を放つ精霊石。

 もう、世界を作って魔力をほとんど使い切っていた。


 だが藍の魔王は手を取らない。


『……』

 見つめ合う。

 桜が風に揺れ、花びらが舞い落ち、桜の雨が降る。


「俺は弱っちいから…少しの間、お前を閉じ込める事になるけど…いつか俺が強くなったら…一緒に、世界を見ないか?」


『せかイ?みル?』


「なあ…魔、いや…アイ…昔の人はこう言ったんだ。可愛い子には旅をさせろってね」


『アイ…アイ』


 名前を貰い、藍の魔王…アイは嬉しそうに笑っている。

 最期のわがままを聞いてくれたこの少年に、感謝をしていた。


「だからさ…一緒に()こう」


『フフフ…いいヨ』


 桜の木の下で、アイはカナンの手を取る。


 そして、カナンは契約の魔法を発動。


 白色と黒色の魔方陣を展開。


「コンファインメント・エンゲージ」


 アイは石の中に吸い込まれる。


 今まで4色に輝いていた石は、藍色の石に変化した。



 やがて故郷を模した世界はグニャリと崩れていく。

 カナンは消えていく世界を眺めて、フッと笑った。


 ______



 辺り一面水浸しになった森に戻る。


 ふよふよと精霊…矢印が飛んで来た。


「わりぃな…矢印」


 周りを見ると、木々は押し流され…

 何も無い。


「森無くなっちまった…お前も南の森に来るか?」


 蒼の光が点滅した。


クリエイション・ザ・ワールド~火、水、土、風属性複合神位魔法、小規模の自分の自由に望んだ世界を創る、生き物は居ない、究極のぼっち魔法


コンファインメント・エンゲージ~光、闇属性複合上位魔法、契約し相手を閉じ込める、軽い監禁なので同意が必要



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ