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生前の家へ

もうちょい頑張ります

 

「よし! じゃあ次元の歪みを直す準備をしよう」


 少し休憩していた秋が魔法陣を展開…したが中々難しい。空気中に魔素はあるにはあるが、極端に少ない為、歪な魔法陣になっていく。


「私もやってみるね」


 キリエも魔法陣を展開するが、やはり難しく歪な魔法陣が出来た。このまま使うと不安定なので、安定する魔法陣を作らなければ話にならない。

 そこで秋が何かを思い付き、ストレージを使ってみる。


「使える…けれど大きな物は抵抗ある感じか…まぁ問題無い」

「それは何の紙?」


「魔力紙を使って魔法陣を書けば、安定する形になるからな」


 魔力の籠った紙を取り出し、その上に魔法陣を刻むと綺麗な型になった。そして、そのまま魔力を込めて魔法を発動。


「魔力を拡散させる魔法?」

「そう。精霊石二つ分使うけれど、これなら五日くらいで地球に魔力が拡散する。その都度次元の歪みが解るから、そこに転移して直せば良い」


「へぇー…凄いねぇ。じゃあ…歪みを直す以外は自由なの?」

「そうだな。この紙が破られなければ自由だぞ」


「やったー! それなら早く行こう!」

「ちょっと待って、結界張るから…よし!」


 自由でわがままな時間を使い、紙に球体の結界を張ったので秋以外には触れられない。これで五日後に回収する予定だ。


 一応転移が使えるか確認すると、魔法陣を使わなければ問題無く使用出来た。


「先ずは…日本か。春の様子を見なきゃ……あっ、ちょっとキリエは着替えた方が良いかな。白いドレスは目立つ」

「あっ、そうだね。不審者か。でもこの剣どうしよ…形変わるかな…」


 キリエが背中に背負っていた金色の剣は、とても目立つ。ジジイがやっていたように力を通してみると、形が変化していき、やがて腕輪の形に変化した。


「出来た…けど重い…まぁ仕方無いか。ねぇ…その服着るの?」

「これしか無いから、あっちで買うか…いや、お金が無いぞ。うーん…」


 秋が取り出したのは…アイが作った月読のセーラー服。冬服バージョン。

 秋は黒い服でなんとかなるが、キリエの服はこれしか無かった。これしか無い方が問題あると思うが、本当にこれしか無かった。


「…ちょっと着替えて来るね」


 キリエが着替えている間、秋は金策を考えていた。

 ルビアのお金はあるが、地球のお金は無い。

 身分証や手数料無しで換金出来る場所…行き着く考えは闇取引。

 しかし前世の日本では普通の生活をしていた秋にとって、闇取引を出来る場所なんて知らない。


「春に頼むとしても、家に住んでいるかも解らないし…それ以外に知り合いも居ない…うーん…健次が言うには、二年前にタケルは異世界から帰還したらしいけど…」


 もう、藤島秋は死んでいるから知り合いなんて居ない。とりあえず、前世で住んでいた場所に行く事に決めた。


「お待たせー! 似合う?」

「最高だな」


 セーラー服に着替えたキリエがご機嫌な様子でくるりと回る。スタンダードな冬服のセーラー服に、紺色のソックスにローファー…女子高生のスタイルだった。


「くふふー、嬉しいなー。先ずは何処に行くの?」

「俺が住んでいた場所かな。妹の様子が見たいんだ」


「妹? カタリナちゃんの?」

「いや、前世の時の妹だよ」


「んー? あっ、分かったよ」


 キリエはもう一人妹が居たのかと思ったが、秋はカタリナの前世を知らない事を思い出し、どうしようかと悩む。

 事故で死んだ事実を知ったら、間違いなく悲しむから。かといって自分が教えるのも違う気がした。


「じゃあ行くか…転移」


 結界の地点に転移用のマーキングをしてから、秋とキリエは転移した。



 ______



 転移してきた場所は、暗い広い公園。

 人の姿は無く、生暖かい風が吹いていた。

 街灯に照らされた時計の時刻は夜の時間を示していた。


「誰も居ないね」

「夜か…困ったな。とりあえず家に行くか」


 公園から生前の家に歩いて向かう。

 秋は歩きながら景色を眺め…

「懐かしいな…」

 と、呟きながら遠い記憶を呼び起こす。

 秋にとって、久し振りという言葉じゃ足りない程の年月が経っていた。ルビアに転移してから三年…転生してから十三年…更に加速空間で過ごした時間を合わせると、千年は軽く超える。


「ねぇねぇ、ここで彼女とデートとかしたの?」

「んー…どうだったかな。忘れたよ…ってアイから聞いたのか?」


「くふふー、秘密」

「まぁ、別れてしばらくした後にルビアに転移したから、悲しまれる事も無いし丁度良かったかな…っとあの辺だけど…」


 公園から直ぐの家だった筈なので、直ぐに到着したのだが…


「……家が無い、か」

「秋…」


 マンションの駐車場になっていた。

 七年の月日は、受け入れるしかない現実であり、心に穴が空いたような喪失感におそわれた。


「……少し、この土地の記憶を見ようと思う。一分くらいで終わるから」


 キリエが心配そうに見詰める中…そう言って、地面に手を付いて魔力を流し込んだ。


 そして直ぐに、秋の表情が崩れる。

 見てしまった。

 生前の家から出ていく自分の姿…

 一人で過ごす妹の姿…

 そして、妹も姿を見せなくなり…

 親戚が家を売り払う際に口走った妹の訃報…


「…あぁ…嘘だろ……春も…死んだのか」


 家が無い事なんてどうでも良い。

 ただ、成長した姿を見たかった。

 それだけだったのだが、それも叶わなかった。


「秋…あの…」

「…いや、良いんだ。先に消えちまった俺が悪い……キリエ、ごめんな。今日は、もう砂漠に戻って朝まで待とう」


「うん…」


 秋が転移を起動し、二人で砂漠に戻った。



______



 二人が転移した後、駐車場にやって来た者が居た。


「…なんだ、今の魔力は…」


 眉を潜めて周囲を見渡し、考え込む男性…何処にでも居るような黒髪黒目の日本人だった。


「待って…よー!」


 その男性に遅れて、息を切らした女性が走ってきた。急に走り出した男性を責めるように、息を整えながらムスッと睨む。


「あっ、ごめん…急に走り出して」

「ほんとだよー…ビックリしたじゃない…あれ? ここって…」


「あぁ…何か、感じたんだけれど…気のせいだったみたい…帰ろっか」

「うん…危ない事しちゃ駄目だよ?」


「はははっ、分かっているさ」

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