天異界創設者
秋とキリエは、黒いカードを使ってやって来た場所は…
「……ここが、地球?」
「まぁ…日本とは限らないよな」
見渡す限りの砂漠地帯。
青い空から照り付ける太陽。
気温は三十度を軽く越え、熱い風に舞い上がる砂が身体に当たった。
「景色はルビアと変わらないね」
「ここら辺はな。都会に行くと違いが解るぞ」
秋は日本の何処かに転移すると思っていたが、砂漠だと帰ってきた実感が湧かない。唯一魔力や魔素が感じられない事が救いだ。
とりあえず少し歩いて砂山を登ってみると、山の向こうにオアシスを発見。魔法の確認をしながらオアシスに向かった。
「魔法は使えるけど…魔力は回復しないね」
「ああ、使えるだけ儲けもんだよ」
魔法を使えない覚悟はあったが、使えるなら幅はかなり広がる。自分の中にある魔力を使うので、魔力切れには気を付けなければいけないが、特に問題では無かった。
「話が終わったら、少し観光したいな」
「良いぞ、俺も一仕事しなきゃいけないし」
「えへへ、やった」
少し歩き、オアシスに到着した。
ヤシの木が生える小さな湖の横には家があり、家の前にテーブルが置かれていた。この場所には結界が張られている様子。
そのまま家に近付くと、家の中から女性が現れた。
「おっ、わざわざ来てもらって悪いね。初めまして、私はラグナ…アスター所属、天異界創設者の一人だ」
長い黒髪に吸い込まれるような黒い瞳。とても整った顔で、悪戯に微笑んでいた。
流石は天異界創設者を名乗る女神と言うべきか…感じる格は桁違いだった。
「……ぁ」
「初めまして…俺は秋です。……キリエ?」
「……あぁ……あっ、すみません! キリエと申します!」
キリエが慌てた様子で恥ずかしそうにしている様子を、ラグナと名乗った女性は微笑ましく眺めている。
「ふふっ、気にしなくて良い。先ず本題だが…天異界同盟会議の前に、あのジジイを始末してくれた新しい女神に会っておきたくてな。お礼を兼ねてというやつだ」
「そうですか…あのジジイは、嫌われていたんですか?」
「そうだな。同盟に入っていたから手出しが出来なくて困っていたんだよ。魂も堕としてくれたから神として復活する事もない。ありがとう」
「いえ、個人的に怨みがあったので…」
キリエはジジイに魂を抜かれ、邪神の力と融合させられた。それを言っても良いものか悩んだが、ラグナは信用出来る雰囲気があったから、キリエはポツリポツリとこれまでの経緯を話し始める。
ラグナはそれを黙って聞いていた。
「…なるほど。珍しい経緯だな…聖女から邪の女神…そして星の女神に転職なんて」
「はい、だから…天異界の事が全然解らなくて…」
「普通は見習いを経てから星の管理だから無理もない。まぁ、ゆっくり覚えれば良いさ…私も手伝う」
ラグナが秋に視線を移す。探られるような、見透かされるような視線。何か解析をされているのは解ったが、特に隠す事は無いので黙って解析が終わるのを待つ。
「君が次元の歪みを直してくれるのか」
「はい、少し時間を貰いますが」
「悪いね、私達は地球自体にはあまり干渉出来ないから助かるよ。礼も期待してくれ。さて…用件は終わりだ。質問あるか?」
ラグナが安心したように笑う。
本当にこれで用件が終わりなのだろう。秋は聞きたい事はあったが、出しゃばるのは違うと思ったのでキリエに任せる事にした。
「…あの、ルルっていう武器屋さんなんですけど…知っていますか?」
「ああ、次元を渡り、神相手に武器を売る武器屋…だろう?」
「はい…そこまでは解ったんですが、詳しく知りたくて…」
「…ルルの武器は同盟内で有名でな…現状、ルルから武器を購入したい神が溢れている。だから公式に会うのは難しいだろうな」
「会うのは…難しい……じゃ、じゃあ生きているんですね!」
「あぁ…はぐれの神だからな。会った事があるのか?」
「はい! 良かった…あきぃ…良かったよぉ…お母さんに会える…」
「良かったなキリエ。あっ…俺も挨拶しないと…」
キリエは秋に抱き付きながら喜んでいたが、ラグナがキョトンとしながらキリエを眺めていた。
「えっ…お母さん?」
そして少し困惑している様子で、考え込むようにキリエをじっと見詰めていた。
「……質問、良いか?」
「は、はい。すみません」
「父親は誰だ?」
「えっ、いや、知りません」
「そうか……少し、用事を思い出した。これは私用の連絡先だから、困った事があればこちら連絡してくれ」
「あっ、ありがとうございます!」
ラグナが微笑み、指をパチッと鳴らすとオアシスと家が消えた。そして、黒い扉を出現させ手を掛けた所で秋に視線を移した。
「あっ、そうそう秋君。その混沌の力を欲する者…憎む者は多い。扱いに困ったら連絡してくれ」
「はい」
「じゃあ…キリエ、今度は私の世界を案内しよう。またな」
ラグナは黒い扉を開け、中に入ると同時に扉は消えていった。
ラグナが居なくなり、見渡す限りの砂漠地帯だけが存在している。秋は一気に緊張が解けたように座り込み、晴れ渡った空を見上げた。
「格が違いすぎてびっくりだったな……キリエ、大丈夫か?」
「うん…ラグナさん、その…お母さんに…そっくりだった」
「…そうか…何か関係あるかもな」




