前世の故郷へ
「…地球。じゃあ…前に言っていた地球を見ている神か?」
「…だと思うんだけど、創設者の名前を名乗っていて…本物なのかなって…」
「騙すような悪い神の可能性もあるのか。じゃあ会うなら、俺も一緒にいくぞ。前世の故郷に行ける訳だし…」
「秋が居るなら安心だよ…じゃあ何人か連れて良いか聞いてみる」
キリエが天パッドをいじり、メル友に返信。すると、直ぐに返信が来た。
「良いって。通行証を送るから、数を教えてだって」
「まじか…勇者達も良いか聞いてくれ。四十人くらい」
「う、うん!」
キリエが送ると、また直ぐに返信。何か凄く胡散臭い。しかしわざわざ嘘を付く理由も無いし、地球に行けるというのなら、多少のリスクは付き物だと感じていた。
「なんか、神じゃない者が一仕事してくれるなら良いって」
「神じゃない者が一仕事? なんだ? 俺は神格無いから出来るぞ」
「地球にある次元の歪みを直してって」
「次元の歪みを? 異世界へ迷いこませない為か…まぁそれくらいなら良いぞ。トラブルが無ければ一週間で終わると思う。まぁでも一年もすれば歪みは生まれるから、切りは無いけどなー」
「分かった、それも付けて送ってみるね」
再びキリエがメールを返信。
やはり直ぐに返事が来た。
内容は、一仕事終えたら通行証を送る。了承するならサインを書いて返信を欲しいという内容。
従う他無いので、サインを書いて返信した。
「…こんな形で帰れるなんてな。おっ、来たぞ」
前方の床に小さな魔法陣が出現し、黒いカードが二枚現れた。
カードを拾い、確認すると『地球行き、往復』と書かれていた。
「二枚か。じゃあ私と秋で行く形になるね!」
「そうだな。魔力が無い世界だから、俺の中には入れないと思うし…」
「えー! 私達も行きたーい!」
「行きたーい!」
「行きたーい!」
「いや、魔力が無い世界だから…俺の魔力がどこまで伝達するかとか、何処までの魔法が有効なのかとか…調査しないとアイ達は死ぬんだぞ…駄目だよ」
アイ達に睨まれるが、秋はそこだけは譲らない。命に関わるし、もし地球で死んだら復活出来ないかもしれない。実は精霊石があれば行けるという確信はあるのだが、百%では無いのでまだ言わない。
「十分後なら会えるって…準備良い?」
「ちょっと待って、一応鞄に精霊石をっと。試作の時空石も入れておくか」
ストレージが使えなかったら困るので、四色の精霊石と、白色精霊石、時空石、エリクサーとダイヤモンド包丁などを入れる。
その様子を見ていた紅羽が…
「あっ、精霊石…」
と、呟いた。
「よし! 準備出来たぞ! キリエ、行くぞー!」
「えっ、あっ、うん」
秋は不味いと思いキリエを急かす。アイが不信な目を向けた時には、カードの力を使っていた。
「秋? もしかして…」
「ん? どうした? あっ、ヤバい…サティちゃんが接近中…」
「じゃあ行くよ…転移」
――バシュン。
秋とキリエが転移した。その直ぐ後、階段からサティがやって来た。
「秋ちゃーん。どこー」
「サティ、秋は出掛けたわ」
「…何処に?」
「キリエと…地球に行ったわ」
アイは恐る恐るサティの顔を見る。
しかしサティは少し首を傾げ、嬉しそうに微笑んだ。
「秋ちゃん…やっと、いけたんだね。良かった…良かった…」
「サティ…」
「紅羽、私達は自分の事ばかり考えていたわね」
嬉しそうに涙を流すサティを見て、アイと紅羽は反省していたが…サティが泣きながら床に何か魔法陣を設置している。
一つでは無く、等間隔に多数設置していた。
「サティ? 何しているの?」
「ん? キリエだけ新婚旅行に行くなんて許せないから、秋ちゃんと纏めて捕獲しようと思って」
「…これに触れたらどうなるんだ?」
「触れたら解るわ」
ここで黙って話を聞いていた慈悲が、好奇心からか魔法陣の前に立った。
「面白い、俺が触ってやるよ。俺に状態異常は効かないからな」
サティを見ながら、慈悲が不敵な笑みを浮かべ…サティはニコニコしながら見守っている。そして…慈悲が魔法陣の上に乗ると、魔法陣が起動。
「ふにゃぁぁぁぁああ!」
「「「……」」」
慈悲がビクンビクンしながら魔法陣の上に倒れた。
サティの秘術は…基本的に人型ならほぼ確実に効果がある。
月読でさえ抗えなかった状態異常…全身性感帯により…慈悲がダウン。
……ここに居る全員が思う。絶対に触れてはいけない…と。
そして、遅れてやって来た不運な者が…
「サティー、置いていかないでよー。私はティナちゃん抱えているんだから」
ティナを抱えたイリアが、階段からやって来た。
そして、魔法陣の前に止まり…
「イリアさん、ありがとうございました」
「良いのよ。普通の人はあの階段辛いから。下ろすね」
ティナを魔法陣の上に下ろした。
そして当然…
「ふにゃぁぁぁぁああ!」
「はへ? なんで?」
ティナの叫びが木霊した。
「ふふふ、ふふふふふふふふふ…二人目ゲット」
「……みんな、逃げるわよ」




