慈悲2
龍王は腕を組みながら、遠い目で慈悲を眺めて一言。
「やっと…活躍する時が来たか…」
活躍の時なのか、最期の時なのか。
見下ろす慈悲は、大きな身体を伸ばすように腕を伸ばして首をゴキゴキと鳴らした。
『ちょっと、殺りにくいなぁ。縮小』
腕を交差し、慈悲が光輝くとドンドン小さくなっていく。
縮小が止まり、元の大きさに比べてとても小さいが、全高は三十メートルと人に比べると巨大だ。
小さくなったからといって、弱くなった訳では無い。むしろ、俊敏と命中が上がり強さを増していた。
『ん? 結界…あいつらか。まぁどうでも良い。光解放』
腕、脚、腹の白い球体が輝き、放射状に無数の光線が射出された。空気を切り裂く光が、結界を貫通して突き刺さっている。
もちろん目の前に居る龍王にも射出されたが、涼しい顔をしながら弾いていた。
そして、ゆっくりと両手を前に出す。右手を上に、左手を下にして龍の顎の形に…ブレスの構え。
「ふっ、こんな事もあろうかと…光属性を防御する魔導具を大量に身に付けているのだ! 超龍魔法! ギガドラゴンぶれすぅ!」
――ドォォオオ!
銀色のブレスが慈悲に直撃。
ギシギシと慈悲の身体が揺れている。
『良いなぁ良いなぁ殺し合いって奴はぁ! 円環の炎…慈悲なる怒り』
ボッボッボッ…白い球体が炎の球体に変化。
すると、慈悲の色が赤く染まっていく。
真っ赤に染まった要塞が銀色のブレスを弾いた。
「…超龍魔法・龍の涙」
銀色の力が波打つように龍王に入り込む。魔力が洗練され、身体能力を上昇。
慈悲に向かって走り出し、左脚の球体に向かってドラゴンブレスを放つ。球体に直撃すると、炎が弱まった。
『やるなぁ龍ちゃん。炎装填、円環の風…慈悲なる喜楽』
球体が緑色に輝き、慈悲の色が緑に染まっていく。
内包する力が増し、炎で弱まった力も取り戻したように見える。
龍王はそれでも球体に攻撃を加えていく。球体を攻撃すれば力が弱まる事を知っていたが、長い間溜めていた力が多すぎた。
「…超龍魔法・龍槍ザガンボルク」
大きな槍を形成し球体に向かってぶん投げ走る。
少しだけ突き刺さるが、それだけ。続けて槍に向かってドラゴンブレス。更に少しだけ槍が深く入り込んだ。
「超龍魔法・龍槌ゴウラ」
大きなハンマーを形成。
球体に刺さった槍を思い切りぶっ叩いた。
パキッ…槍が球体を貫通。左脚の球体が輝きを失った。
『くくっ、俺の弱点はお見通しか。まだ、あと四つあるぜ。風装填、円環の水…慈悲なる冷徹』
左脚以外の球体が青く輝き出す。
そして、慈悲の色が青く染まった。左脚を見ると、球体は透明になっており力を感じない。あと四つ…右脚、両手、腹を消さない限り勝機は無いと見えた。
「はぁ…時間が無い。超龍魔法・龍弓ツイガンラス」
次は弓矢を形成。
弓を引き絞り、迷いなく放った。
カッ…右脚の球体に刺さる。徐々に光が失われていった。
『氷の津波』
その時、視界一杯の氷が龍王を襲う。
氷が身体中に突き刺さり、突き刺さった氷に更に突き刺さる。
突き刺さった氷から冷気が流れ込み、身体が凍っていく。
「くっ…超龍…魔法…龍熱脈動!」
ドクンッ…龍王が波打ち、身体が高熱になる。氷が溶けて大量の水蒸気が発生した。
その水蒸気も直ぐに晴れ、次の攻撃をしようとした所で龍王の顔が歪む…慈悲の色が変わっているのが見えた。
『水装填、円環の土…慈悲なる安らぎ』
黄色く変化し、内包する力が更に上がっていた。
そこで龍王の元に影が差す。
見上げると、大量の隕石が飛来していた。
ここで迎撃は無駄と判断。素早く移動し慈悲の脚を飛び越え腹の部分に到達。
次の技を繰り出そうとしたが…
――ドゴォン!
大きな拳に殴られる。
圧倒的なパワーに為す術も無く吹き飛ばされた。
「がはっ……はぁ…はぁ…これは、不味いな」
『はっはっはー! 無駄無駄! これで最後だ! 土装填、円環の光…慈悲なる審判!』
球体が黄色から白へと戻る。
白、赤、緑、青、黄、そして白へと属性が循環した。
慈悲は喜ぶように両手を掲げ、両肩に展開されている主砲に手を掛けた。
――ガチャン!
両肩の主砲が白、赤、緑、青、黄へと輝く。装填された力が上昇を続けていた。
「我も…本気を出すか…龍気解放!」
龍王が力を解放した。
人型から、銀色の龍へと姿を変える。慈悲に匹敵する大きさ。大きな口を開き、銀色のエネルギーを溜める。
『行くぜぇぇ! 理の審判!』
――ドゴォォオオ!
主砲から放たれたバカみたいな大きなエネルギー。
迎え撃つ龍王も力を解き放った。
『神龍魔法・ファイナルバースト!』
――ボォオオオ!
審判の光と、神龍の力が衝突した。
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慈悲と龍王の戦いを眺めながら、結界を強化している秋と溟海。
呆れた眼差しで人外の戦いを眺めていた。
「秋、あいつらは星を壊す気か?」
「戦いに夢中だなー。そういえば刹那たんの魔法戦車のモデルは慈悲なんだよ」
「へぇー。じゃあ魔法戦車が完成したらあんな感じになるの?」
「そうだなー。波動砲があれになる」
「あははっ、刹那たんは神にでもなるつもりかい?」
「まぁ…案外なるかもな…ニートの神とか…」
天異界にて。
グ「キリエさん」
キ「何? 忙しいんだけど」
グ「キリエさんの過去が暴かれましたね!」
キ「いや、別に隠してないし…それになんでここで言うのさ」
グ「いやだって、私も百合百合の世界に行きたいって言ったら、『お前だけは駄目だ』って言われたんですよ」
キ「誰にさ…その前に時間軸を無視しないで」
グ「それは……あっ、呼ばれたんで言ってきまさーす!」
キ「ちょっと…はぁ……あれ? メール…誰だろ。……ラグナ」




