藍の饗宴2
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海の水が引き、辺り一面水浸し。
木々は薙ぎ倒され、美しかった森は湿地体の様に…
ボロボロの少年が倒れている…それを眺める美しい藍色の少女。
『あれ?しんダ?しんだ?んー?』
カナンをツンツンする藍の魔王。
やがて、飽きたのか大きく伸びをしている。
『つかれタ…ネル』
バシャン__
その場で液体に変化。
深い藍色の水溜まりが出来た。
その間…カナンは夢を見ていた。
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≪これは…≫
『アキ!何してるの!休憩終わったよ!早く!』
『あー?こちとら筋肉痛なんだよ』
≪夢か?俺は死んだのか?≫
『何言ってんのよ!あんた何にもしてないじゃない!』
『へいへい』
≪おい、ずっと夢にも出てこなかったから、顔忘れるとこだったぞ≫
『早く!』
薄紅色の髪の、目のキリッとした、少しあどけない顔の美しい女性と。
メガネをかけた冴えない黒髪の男が、並んで歩く光景。
≪……イリア≫
『一緒に行こう!』
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(暖かい…光?)
「う…ん…ゆめ…か…いきて…たんだな」
起き上がる気力が無い。
身体が凄く重くなっている。
まるで水圧がかかる様な、
深海の力。
(…暖かい?)
何かに気付き顔を上げる。
ふよふよと蒼く光る玉が、一生懸命矢印を作っている。
(精霊?さっきの?)
「おい…やじるし…こんな…とこいたら…あぶない…ぞ」
矢印と呼ばれた精霊は、何かを訴える様に点滅している。
起きろ起きろと急かす様に、カナンの周りをくるくる回る。
「ほら…はやく…いけ」
バシャン__
その時、藍の魔王が水溜まりから這い出て来た。
『フフ…オキタ?おきタ?…あそぼ』
遊ぼう遊ぼうと、嬉しそうな表情でカナンを見詰める。
しゃがみこみ、カナンの顔を覗き込んで笑顔を見せていた。
「くっ……まおう」
(もう…力が出ない)
『コレ?ナーニ?』
藍の魔王は首を傾げ、精霊を見て告げる。
好奇心が精霊に移った様に、ジーッと見詰めていた。
「はやく…にげろ…」
(まずい、精霊が)
精霊が消されると思い、言葉をかけるが、精霊は変わらずふよふよとその場に居る。
ジーッと精霊を見ていた藍の魔王が、ニコニコと笑う。
頬に手を当てて、言葉を探す様にしていたが、あっと言葉が思い付いた様だ。
『フフフ…きれイ』
「_へ?」
(何て言った?)
藍の魔王は変わらず、ニコニコと精霊を眺めている。
それはまるで、何処にでもいる少女の様で…
「ははっ……そっか」
カナンは気力を振り絞り、エリクサーを飲み干す。
回復はしたが、身体が軋む。
フラフラと立ち上がり、藍の魔王の目を見詰める。
「なあ……聞いていいか?」
『なアに』
「どうして…いや…何をしに生まれたんだ?」
『ん?わかんなイ』
「そっか」
(同じか)
「名前ってあんのか?」
『シらない』
(望んでこの世界に来た訳じゃない…)
「この世界の事は知ってるか?」
『シらない』
「お前…何にも知らねえんだな」
(目的も意味も、何が良いか悪いか、わからない)
『フフフ』
「ははっ」
カナンと藍の魔王は笑い合う。
何か、気持ちが通じた様に…
カナンは魔法を発動する。
(俺は運が良かっただけ…か。ははっ、情けねえ……何が誰かが倒してくれるだ)
紫色の巨大な魔方陣を展開。
「なあ…お前に良いもん見せてやるよ」
(自分がやらんで誰がやんだ)
『ン?』
魔方陣が回転していく。
「今の俺の、最高の魔法だ」




