遠い記憶を辿る。
「健次はっと…公爵家か…」
健次が居るニーゼック公爵家へ。
特に用事は無いが、世間話くらいしてやろうという秋なりの優しさ。到着し、門番に健次を呼んでもらう。
少し待っていると、健次ともう一人。以前隷属魔法を健次に掛けた執事の姿。
健次はいつもの通りだが、執事は緊張した面持ちで黙礼している。
「よう健次、執事さんも久しぶり。あれからどうなった?」
「あー…騎士が死んだから調書が面倒だった。絶対種と交戦なんて信用してもらえないんだなー。また夕方に事情聴取だよ…」
「そりゃそうだろ。王種でも疑われるもんだ」
王種でさえ簡単に会えるものでは無い。
絶対種は神話の書物に少し書かれている程度。
信用出来ないのは当然だった。
「お茶でもしていく? 丁度グレーテン公爵家の子達が来ているから俺の居場所が無くてさ」
「おー、良いぞ。執事さんと話したいから別室で宜しく」
「りょーかい」
三人で公爵家の中へ。
グレーテン公爵は城で活動しているので、夜しか居ない。
夜は健次が暗部として活動するので、結局秋は公爵とは関わる事が無いから楽だなーくらいの感想だ。
女子会を邪魔する訳にはいかないので、挨拶はせずに客間へ。
執事にお茶を淹れてもらい、ソファーに座って世間話をする事にした。
「執事さんって昔王家に雇われた、契約魔法を使う一族だよな? まだ一族は存続しているの?」
「元々禁忌の魔法ですので…後継ぎが年々減っています…今では私と甥の二人だけです」
「そっかぁ…勿体ねえな。技術は一級だぞ」
「…あなた様には敵いませんよ」
健次から秋の事を聞いているのか、以前の疑惑の眼差しでは無く尊敬の混じった視線だった。
「俺は専門じゃねえからな。その術式の隙間に術式を入れる技術は残して欲しいよ、ほんと」
「それなら、教えましょうか?」
「いや、いい。信用出来る人に教えてくれ」
「…分かりました」
特に必要という術式では無い。話は終わりとばかりに、健次に向き合う。
「健次、地球に帰れる手段だけど…地球の神の許可が必要なんだ。今、キリエが交渉中」
「許可? ここと地球を繋ぐって事?」
「そうなるな。大教会に居る奴らを帰せるし、健次も一回帰りたいだろ」
「うん…でも死んだ奴らは…あっちでどう説明したら良いのかな…」
「あぁ…実はな。生き返るぞ。記憶は無いけど」
「えっ…」
秋がざっくり説明していく。
大教会の下にはダンジョンがある。そのダンジョンの力を使えば、近くで死んだ人間くらい簡単に復元可能。
ただ、大教会から逃げた数名が違う土地で死んだ場合、復元は出来ない。
「凄いなぁ…異世界。地球はどれくらい時間が経っているんだろ…」
「計算上は一ヶ月くらいかなぁ…神隠しとかなんとかニュースになっていそうだけど…」
「一ヶ月かぁ……三ヶ月後に姉ちゃんの結婚式があるんだよ。間に合う?」
「……間に合わせるよ。姉ちゃんは何歳なんだ?」
「今年で…二十八か九かな? 多分」
「そっか……七年か……ん? あれ?」
秋が遠い記憶を辿る。
この世界に転移する前…
最後の独身旅行と題して男三人で出掛けた思い出。
その旅行中に秋は転移した訳だが…その旅行の主役は、健次の姉と婚約していた。それから七年以上年月が経っているから、普通ならもう結婚している。
じゃあ何故今結婚式なのか…少し嫌な予感を感じる。
「……健次、姉ちゃんの旦那になる人って…何か事件に巻き込まれたりした?」
「おっ、流石秋だなー。なんか五年くらい行方不明になっててさ、急に帰って来たんだよ。詳しく聞いてないけど…姉ちゃんが幸せそうだから良かったよ」
「……まじかよ」
あまり受け入れたくない事実。
秋を含めた男三人は転移している。
恐らく、別々の世界に。
健次は詳しく聞かされていないようで情報は少なかったが、推測出来る事は沢山あった。
今解る事は…
三人の内、一人は地球に帰還。
秋は死に、もう一人は不明。
「そういや聞いていなかったけど、秋って地球の転移者だったんだろ? どこら辺に住んでいたんだ?」
「茜ちゃんの実家の近くだよ」
「えっ…近所じゃん…なんで言ってくれなかったのさ」
「聞かれなかったし、みんな知っているから健次も知っていると思っていたよ」
「えぇ……正直俺、みんなと凄い仲良い訳じゃ無いから…そんな情報入って来ないんだよ…」
「可哀想に…健次は健次だな」
呆れた視線を受けながら、どうするかなー…と悩む。
近くで聞いている執事に、秘密だよーと言いながら。




