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鋼鉄。4

 

 ファー王国王都では、サティの遊びに付き合っていた面々が秋の部屋に集まってきた。

 疲れた表情のアイ、遠い目で佇むメイド…サーラ、秋はいつもの事なので特に表情は変わっていない。


 因みにサティはイリアの所へ行きお昼寝。紅羽とティナは色々あって寝込んでいる。


「やぁ、秋。お邪魔しているよ」

「……き」


「あぁ溟海さんに天空ちゃん、お待たせしたね……ん? そこのガチムチに無理矢理掘られたようなケツの押さえかたをしているおっさんも来ていたのか。帰れ」


「帰らない! あっ、そうだ変態メガネ。鋼鉄が復活したぞ」

「鋼鉄っていうと…南東の山か…じゃあ行ってくるよ。天空ちゃんも行く?」


 他の面々は待っているというので、秋は天空と南東へ飛び立つ。

 急ぎではないと思いスピードを上げてはいなかったが、急に天空が焦ったように秋の服を引っ張った。


「……秋……早く……行こ」

「ん? 暴れているのか?」


「……刹那……泣いてる」

「…分かった」



 ______




 10メートルを超える人型の魔物…鋼鉄と、同じ大きさの全身鎧…刹那が対峙。

 人が介入出来ない程の存在感を持つ両者は…もう、闘う運命にある。


 それを見守る健次は、刹那が苦しみながら闘いに挑んでいる状況に悔しさを滲ませていた。


「天才だけじゃ…ここまでなれねぇよなぁ……どれだけ努力してんだ」


 健次も、努力しているつもりだった。忍術を使いこなして暗部の役に立つように……

 しかし刹那の努力には、足元にも及ばないと痛感していた。


 刹那は、働かないのではない。

 働く時間が無い。


 守りたい者の為に、ひたすらに強さを求めていた。



「私は…守って貰ってばかりだった……」


 グォングォン…魔法戦車の中から稼働音が響き、内部で魔力が精製。

 時折煙が噴き出し、魔力を圧縮していく。


『…トマホーク・トルネード』


 地面から飛び出る大量の斧。

 高速回転する斧が収束。

 渦を巻きながら刹那に迫る。


「バリアチェンジ・アクア」


 魔法戦車が水色に染まり…

 ババババ!__

 トマホーク・トルネードが次々と刹那を貫いていく。

 貫いていくが魔法戦車をすり抜けるように通り過ぎ、ダメージを与えたようにみえない。


『ソード・レイン』


 斧が空中に舞い、鋭い剣に変化。

 激しい雨のように魔法戦車を貫き、地面に突き刺さっていく。


「効かないよ…今の私は水の身体…」


 ブォンッ__魔法戦車の両手に青色の魔法陣が出現。

 右手の魔法陣が輝き…

「アシッドレイン」

 酸性の雨が降り注ぐ。


 左手の魔法陣が輝き…

「アシッドフラッド」

 酸性の水が地面から溢れてくる。


 鋼鉄の武器を溶かし、鋼鉄の身体を徐々に溶かしていく。

 それでも再生が早く、鋼鉄の攻撃は休まず撃ち込まれた。


 撃ち込まれる武器を無視しながら、魔法戦車が両手をドンッと合わせる。


「魔法融合…禁術、アシッド・マッディストリーム」


 ゴォォオオオ!__

 酸性の雨が激しくなり、地面の酸が迫り上がる。

 やがて酸の濁流が渦となり、鋼鉄を溶かしながら呑み込んでいく。


 もちろん周囲の森も無事では済まない。

 鋼鉄の半径50メートルは完全に溶け、酸の飛沫が木々を黄色く変色させている。


「音市…強過ぎ…俺もう持たないぞ……あっ、どうしよう影分身が解けた」


 健次はなんとか周囲の被害を抑えているが、限界に近い。

 少し気を抜いた瞬間に影分身は解除されていた。

 ここに騎士達が来ない事を祈るしかない。


 ゴォォオオオ!__

 尚も激しい濁流はうねりを上げ、鋼鉄を溶かしていく。



『グ…ギギ……カイホウ』


 ゴキンッ! ゴキンッ!

 周囲に無数の盾を出現させ酸の濁流を防ぎながら、鋼鉄の身体が変化していく。

 鋼鉄の身体が崩れ、中心の赤い玉が徐々に人型を形成。

 魔法戦車よりも小さい、真っ赤な人型。

 そして、崩れた身体が人型に集まり、鎧のように付着していった。


 ドゴォォオ!__酸の濁流が次々と吹き飛ばされていく。

 周囲に酸が飛び散り、煙と共に刺激臭が溢れる。


 刹那は周囲の被害が尋常では無い事態に、酸の濁流魔法を解除した。


 荒れ果てた大地の中にしっかりと立つ銀色の鎧騎士。

 魔法戦車と比較すれば身体は小さく見えるが、五メートルを誇る巨体に身長を優に越える巨大な剣を担ぐ。



『私は…間違っていたのか…私が…エラルドを殺した…』


 ゆらりと鋼鉄が歩き、スッと瞬時に魔法戦車を通り過ぎる。

 その瞬間…ババババ!__魔法戦車が無数に斬り刻まれる。


 幸い水の身体を持つ魔法戦車にダメージは無いのだが…

「何? 魔力が…減った…」


 魔法戦車の魔力が斬り刻まれる度に減少している。

 魔力生成は働いているが、攻撃を受け続けた場合…魔力が尽きる。

 刹那にとって天敵ともいえる魔力攻撃。このままでは不味いと反撃を開始。


 赤い魔法陣を展開。

「ブレイジング・サン」

 青い小太陽が出現。

 鋼鉄を包み込むが…剣閃が飛び交い、小太陽が小さくなっていく。

 更に魔法陣を重ねようというところで、鋼鉄が魔法戦車の懐に潜り込み魔法陣を斬り捨てる。


『秘技・鋼心斬魔』


 鋼鉄が下から突き上げるように、魔法戦車を両断。

 魔法戦車にダメージが無いように見えたが、ボロボロと水色の鎧が剥がれる。


『追技・鋼心烈破』

「くっ…バリアチェンジ・アース!」


 バキンッ!__鋼鉄が放つ飛翔する剣閃を茶色に変化した魔法戦車が弾く。

 大地の力で防御を増し、魔力を増加させていく。


 魔法戦車が両手に黄色い魔法陣を展開。

 右手の魔法陣が輝き…

「ガトリング・メテオ!」

 ドドドド!__隕石群が鋼鉄に衝突していく。


 更に左手の魔法陣が輝き…

「アースクエイク!」

 ゴゴゴゴ!__常人なら立っていられない程の地震が発生。


 鋼鉄の剣閃が弱まった時、魔法戦車が両手をドンッと合わせた。


「魔法融合…超禁術・テラブレイク」


 ゴォォオオ!__黄色い柱が立ち上ぼり、鋼鉄を中心に大地が崩壊するエネルギーが放たれた。


 黄色い柱は輝きを増し、鋼鉄の身体を破壊していく。

 強大なエネルギーに、身動きが取れない様子。

 強固な鎧も、刹那の魔法には耐えられずにピキピキと亀裂が発生。


 ブォン!__更に追い撃ちを掛けるように、刹那の足元に赤、青、黄、緑の魔法陣が展開される。


「ジグルド……ごめんね…エレメンタル・ブレイド」


 魔法戦車が両腕を天に向けると、四色に輝く巨大な剣が出現。


 魔法戦車の中で、刹那は流れる涙を拭わずに真っ直ぐ…剣を振り下ろした。



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